ナイル殺人事件(映画感想)



原作『ナイルに死す』の映画版の日本語題名になります
映画を見た感想ですのでネタバレしてます。内容を知りたくない方は、これ以上は進まれませんように、ご注意申し上げます。
エジプトの贅沢度           ★★★★☆
アガサの原作なので見とこう度     ★★☆☆☆
原作に忠実度             ★☆☆☆☆
俳優陣の魅力度            ★★★★☆
ポアロが魅力的、ひょっとしたら原作越え★★★★☆ 

まず、ポアロかっこよかったです。犯人や被害者など大筋は変わっていません。

登場人物はかなりぎゅっとしているというか、でもコスパは良くないかもしれないくらいには俳優陣は豪華です。
豪華客船も素晴らしかったですし映像もエジプト、ナイル川も美しいです。
しかし、原作の人間模様のふくよかさはちょっと違う方向に。個人的感想ですがいろんな役を兼任させて話を成立させていますので、これだけをみてアガサの原作『ナイルに死す』を知った気になってはいけないぞという感じです。
映画は、映画の、原作は原作のそれぞれの良さを感じるしかありません
そしてそんな自分はやはり原作の登場人物の持つ関係性で成り立つ原作『ナイルに死す』が好きですけどね。
完全に個人的意見です。


何度も言いますが映画のケネス・ブラナーのポアロは魅力的です。映画冒頭から、重厚な戦争シーンから入るところは別の映画かな?って思います。でもポアロの魅力を分かりやすく伝えるためでしょう。反戦の想いも必ず入れるのもケネスの映画の特徴です。
ひねくれやで冷静なポアロに愛の理解があると伝えるために恋愛もからめています。それは、いいんですよ、ポアロも恋する人間ですから。でも、最後までその恋心を引っ張るのね、と思った事は確かです。
原作を読んで、この映画を見ると、登場人物の違いに戸惑いこんがらがります。
まず、映画はサロメ・オッタボーンが、魅力的なシンガーで、出てきますからね。原作では昔ヒットを飛ばしたっきりの小説家なんですけどね、ですから全く原作とはちがいます。
レイス大佐は出てこないし、、、そう、出てこないんです!(ちょっぴり不満)そりゃ、事件の解決に直接は関係ないでしょうが自分は愛着があるんですよ。
そしてエンディングが自分が思ったより、あっけないのです。関係者全員を集めて、その前でポアロは演説をし事件を解き明かすのがクライマックスですが、その後の、犯人のエンディングがあっけない。ここが、ポアロの対好敵手であるはずの犯人の魅力の余韻が残るであろう良い所なのに!あまりにもあっけない!と自分には思えます。


このお話は、ジャクリーンをどのように輝かせるか、です。エンディングのジャクリーンにこそが実は原作の主導権を握っているのに!(と、自分は思います)映画の最後はもう一人の共犯者のなすがままなんですよ?(ちょっぴり不満)そしてサイモンをお金はないけど色気たっぷりに、イケメンたっぷりにこの男のどこに魅力があるかってことを表現しなければ、三角関係がそもそも感情移入できません!そこのところは冒頭のエロいダンスで(それはそれで見ごたえありますけどね)表現されてますが、それでしか魅力はないのか?絶世の美女でお金持ちのみんなの注目を浴びるスターのはずのリネットが、軽く見えちゃうよ!そんなリネットがそこまで魅かれる男が彼なのはなぜか?ていうと賢くて魅力的なジャクリーンの男だからでしょ!みたいなところが描かれてたか?というと疑問だと思います。
キャストの皆様はさすがに男女含め美しいですよ!オッタボーンの歌声の力がすばらしいこと、あとナイル川周辺のダイナミックな映像とピストルの音、相当こだわったんだと思います。なので、この映画は、、、原作を見る前に見た方がいい映画かもしれない。だから原作を知らない人、是非ごらんください。
残念ながら自分は原作を好きすぎるんですよ。そんな感じで、今は映画を一回見た段階での感想とさせていただきます。



ナイルに死す

旅行したくなる度        ★★★★★
トリックの冴えてる度      ★★☆☆☆
事件が起こるまで長い度     ★★★★☆
登場人物のセリフのすばらしさ  ★★★★★
無人島に持っていきたい度    ★☆☆☆☆


この作品は、アガサ本人が(旅行ものとして)描いたミステリーの中でもお気に入りの作品。そう、ご本人が気に入ってる作品なのです。
余計な情報を入れるとしたらアガサ本人が失踪したという有名な事件の後の、執筆です。
アガサ失踪事件というのはアガサにとって大きな事件であることに間違いはないのですが、その後のある意味吹っ切れている作品なのかもしれません。
というのはこの作品は『お金も美貌も手に入れてる若い女性のリネット』『お金はないが恐ろしく色気があってイケメンの男のサイモン』『お金はないが個性的で魅力ある女性のジャクリーン』の3人の三角関係を中心にまわっているからです。
アガサの失踪も、旦那様と若い女性との三角関係みたいな事が原因でしたし、そして、この作品はアガサの二回目の結婚の後の作品で自分としてはちょっと下世話に勘ぐるところもあるわけです。(二回目の結婚のお相手は年下の考古学者で、ご夫婦でエジプトに訪れていらっしゃることも関係が絶対ありますから)そして、その前に発表している『ひらいたトランプ』という作品があるのですが、(これも独特な面白い作品)そこにでてくる登場人物の1人がこちらの『ナイルに死す』の中にも出てきてポアロの相棒として活躍していることも申し上げておきます。誰かってことは、ネタバレしたくないので、読んでいただけたら、と思います。



ネタバレなしの紹介

お金も美貌も手に入れてる若い女性リネットは、何かと自分の意図しないところでも敵が多い。(お金をめぐるトラブルや彼女なりの正義感やある意味富裕層の特権意識が引き起こす諸々等)ある時友人の婚約者サイモンを奪って結婚し、新婚旅行に出る。その先々で元婚約者で、元友人の女性ジャクリーンが嫌がらせのために新婚夫婦リネット、サイモンの前に現れる。不安に思ったリネットは船に乗り合わせたポアロに、この状況をどうにかしてほしいと依頼するが、、、という流れ。
新婚旅行先というのがまさにエジプトであり、ナイル川を渡る豪華客船カルナク号が舞台であるので、もちろん豪華で異国情緒も満点。


しかし、事件が起こるまでが長いのであります。ポアロの長編は大好きな自分ですが、それでもこの作品は事件が起こるまでが長いので、より長編に感じます。日本の火曜サスペンスドラマだと、開始早々、殺人が起こりますが、それに慣れてる人だと驚くくらいこの作品は前半全く殺人も事件もおこりません!実際に事件が起こるのは後半から。後半から一気に事件の流れが早まります。それを踏まえて、これはこういう作品なんだと思って楽しんで読む方がいいかと思います。
そして、これももうすぐハリウッドで撮影された映画が”ナイル川殺人事件”という題で日本でも公開されますが、内容的にちょっと変えているんではないかな、と思ってます。(これを描いた時点ではまだ映画はみてません)内容を変えてないのなら、推理物としては火曜サスペンスを見過ぎた自分にとってはトリックがちょっと荒っぽいなあ、、、って思わないでもないんですが(贅沢を言ってますね)、作品の感想としては昼ドラ的な要素と紀行ものが合わさった最上級なものという感想です。たしか、短編でも似たような状況とトリックを使ってどこかで1編書いてます。(題名を思い出したらまた書きますね)それよりも、それぞれの人物に言わせるセリフが本当にすばらしく人間味にあふれていて好きです。そして今回の小説でポアロは名探偵でもありますが、まるで占い師のように、若い女性に予言して回ったりお説教したりしています。そこがちょっと他と違う感じがしましたね。
映像化に至ってはこの作品は女性が圧倒的に魅力的に描かれてほしいという思いでいます。あらためて読み返して映画を見るのが本当に楽しみになっています。

一番好きな短編は何?(うぐいす荘)

うぐいす荘(ナイチンゲール荘)

短編で女性の心理が分かる度★★★★★
ゾクゾクする度      ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★★ 
アガサクリスティーの短編集は戯曲の原案も含めて18編もあり、その中には15本のお話が詰まっているとはお伝えしたと思います。(出版社によって増減アリ、重複する話もアリ)
アガサが描いた短編の中にはポアロ、マープルなど有名な探偵の出てくるもの以外の名もない登場人物のものもいくつかありますが有名な探偵が出ずともその短編の数々の短編もびっくりするくらいすばらしいのです。アガサクリスティーが好きで読み込んできている自分が、何度も読んで、さらに短編なのに『やっぱりアガサは天才だ』とにやにやしながら読んでしまうのですから。

ここではそんな、有名な探偵が出てこない作品の1つ『うぐいす荘』を紹介しましょう
これは新潮社のクリスティー短編集Ⅰの巻頭を飾る一編です。
早川文庫では『ナイチンゲール荘』という別名でも収録されています。



ネタバレなしの紹介
今の時代にそぐわない言い方をすると、アクリスという結婚適齢期を過ぎた女性が主人公で、長い間付き合った結婚直前の男性と別れた直後に、別のステキな男性と出会い見事に結婚してからの話なのである。背景はこんな感じ。
幸せな結婚生活を送っているのに、ある日突然、不安が襲う。それも昔結婚直前までいった元カレから電話があってから胸騒ぎが止まらないのである、、、、と書くと『え?恋愛もの?三角関係?どこがミステリーだよ?』って言われそうですが立派なミステリーになっているのです。
そこはアガサですから!
この面白さは、主人公のアクリスの聡明さです。ある理由があって彼女は命の危機に見舞われるのですが、頭をフル回転させてたった一人で危機に立ち向かうのです。その恐怖の描写の細かさ、心情の動きがスリル満点なのです。最後のセリフがまた最高の一言です!
短編であっという間に読めるし、ポアロもマープルもいないけど、アガサクリスティーってこういう話も書くんだ?!と驚いていただきたい短編です。
『うぐいす荘』『ナイチンゲール荘』は内容はほぼ同じ訳がされていますが、自分は実は『ナイチンゲール荘』の方が好きです。最後のセリフのニュアンスが全然違うのです。これは完全に個人の好みの問題です!
ちなみに『うぐいす荘』は井上宗次さん、石田英二さん訳、『ナイチンゲール荘』は田村隆一さん訳です。


ここからはネタバレしながら自分の感想を言っています


結婚適齢期を過ぎた女性(今の時代にそぐわない)が、いきなりイケメンにプロポーズされて結婚したというところから始まる。そこまでの簡潔な小説の入りは見事で、元カレとの別れなんかも実に分かりやすく表現されています。シンデレラストーリーかと思いきや、実は結婚した相手が殺人犯であったというヒヤヒヤドキドキする話なんです!しかも今夜自分が殺される予定だというのを偶然に知ってしまうが、逃げ出すタイミングも逃してしまう。そこで知恵をしぼり、たった一人でその危機に立ち向かうという、スリルとサスペンスの話なのであります。

アガサクリスティー基本情報

アガサクリスティー(1890-1976)英国ミステリーの女王と言われるように女性

代表的な登場人物
エルキュール ポアロ
ミス マープル
パーカーパイン(サタースウェスト)
ベレスフォード夫妻

舞台や映画になった作品は数知れず
『ABC殺人事件』
『オリエント急行の殺人』
『そして誰もいなくなった』
『アクロイド殺し』

どれも執筆当時、前代未聞のミステリーであったということ
これを元にインスパイアされた作品群がいくつもあるので
ミステリー好きでアガサクリスティーを読んでないなんて
もったいない事なのです

無人島に持っていくなら何を持っていく?
よくある質問でしょう
私は『アガサクリスティーのミステリー』と答えます
普通は生き抜くための実用的なサバイバルの教科書と答えるでしょう
それはそうでしょう、もちろんそれも大事。 しかし 人は実用書に書いてある事のみで生きるにあらず
ワクワクや不思議な事やミステリーに胸をときめかす、そういう心が絶望の淵から自分を這い上がらせることもあると
自分は信じていて、自分にとってその一つが『アガサクリスティーのミステリー』と思うのである
結末が分かっている推理小説も何度も読み返したくなるほどのストーリー、登場人物の魅力にあふれていて、
自分にとっては、いつ終わるとも分からない無人島生活において退屈することの無い本であろうと思われる
まあ、それくらい好きだ―って叫ぶだけのここはそういうブログです

著書一覧(発行順)
1  スタイルズ荘の怪事件
2  秘密機関
3  ゴルフ場殺人事件
4  茶色の服の男
5  チムニーズ館の秘密
6  アクロイド殺し
7  ビッグ4
8  青列車の秘密
9  七つの時計
10 牧師館の殺人
11 シタフォードの秘密
12 邪悪の家
13 エッジウェア卿の死
14 オリエント急行の殺人
15 なぜ、エヴァンスに頼まなかったのか
16 三幕の殺人
17 雲をつかむ死
18 ABC殺人事件
19 メソポタミアの殺人
20 ひらいたトランプ
21 もの言えぬ証人
22 ナイルに死す
23 死との約束
24 ポアロのクリスマス
25 殺人は容易だ
26 そして誰もいなくなった
27 杉の柩
28 愛国殺人
29 白昼の悪魔
30 NかMか
31 書斎の死体
32 五匹の子豚
33 動く指
32 ゼロ時間へ
33 死が最後にやってくる
34 忘れられぬ死
35 ホロー荘の殺人
36 満潮に乗って
37 ねじれた家
38 告殺人
39 バクダッドの秘密
40 マギンティ夫人は死んだ
41 魔術の殺人
42 葬儀を終えて
43 ポケットにライ麦を
44 死への旅
45 ヒッコリーロードの殺人
46 死者のあやまち
47 パディントン発4時50分
48 無実はさいなむ
49 鳩のなかの猫
50 蒼ざめた馬
51 鏡は横にひび割れて
52 複数の時計
53 カリブ海の秘密
54 パートラム・ホテルにて
55 第三の女
56 終わりなき世に生まれつく
57 親指のうずき
58 ハロウィーン・パーティー
59 フランクフルトへの乗客
60 復讐の女神
61 象は忘れない
62 運命の裏木戸
63 カーテン
64 スリーピング・マーダー