秘密機関

冒険活劇度               ★★★★★
ミステリーというカテゴリーかどうか
悩む度                 ★★★★★
少なくとも推理物ではないかも度     ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度        ☆☆☆☆☆

ネタバレ無しの紹介
この作品はアガサの作品発表順で行くと『スタイルズ荘の怪事件』の次の作品です。ミステリーの第2弾かと期待してしまいますが、この『秘密機関』はミステリーや推理というよりは冒険とスパイの物語ですから、ちょっと雰囲気が違います。
文章の雰囲気が若々しいです。ポアロは出てきませんし、若いトミーとタペンスの物語です。
『茶色い服の男』の時にも思いましたがアガサは若い女性がイキイキと冒険に出る話が好きなようです。アガサは本当はスパイ物や冒険物が書きたかったのでしょうか?しかし、この後に発表される『ビック4』という作品で無理やりポアロに冒険をさせているような作品がありますが、その作品は全くびっくりするほど読みづらかった作品でした。(ハッキリ言って眠くなります)しかし、その『ビッグ4』に比べればこの『秘密機関』は若い男女のコンビが冒険をする物語で、いくらか読み応えがあります。戦後のお金はない、仕事もない、でも若さと知恵と行動力は誰にも負けない、そんな前向きな2人が主人公です。そしてこの2人がユニークな相性で書かれていて、お互いの足りないところを補い合ってとても大きな事件を解決して行くのです。ワクワクしますがあり得ないことの連続です。
しかし、それも戦争の後の混乱期を書いていると思えば、同情も出来ます。戦後のイギリス、お金がない職のない若者は溢れていました。生きる希望、まだ若いんだから何でも挑戦しなさいよとアガサは元気づけていたのかもしれません。ハラハラドキドキの冒険の物語になっています。

ネタバレ無しのあらすじ
いきなり船が沈むシーンから始まります。悲劇の”タイタニック”を思い起こさせる始まりですが、沈む原因は氷山ではなく戦争の影響の”魚雷”にやられたというのがあまりにもひどい始まりです。船の乗客は順番に救助ボートに乗るのを待っていますが、ジェントルマンの国では女性や子どもからボートに乗れるので女性が助かる可能性が高い。それを痛いほど分かっている男のスパイが、『私が助からなかったらアメリカ大使館へこれを届けて欲しい』と機密文書をある女性に託すのです。まさに生きるか死ぬかの瀬戸際の頼み事ですし頼まれた女性も命がけです。そんなシリアスなシーンからの始まりなのです。
そして、場面は変わり、戦後のイギリスの町中で失業中の若い男女トミーとタペンスが出会い、なにかしらで2人で生きていくすべを話し合っている時に、ある男から声を掛けられます。怪しげな仕事を依頼され、タペンスが口からでまかせに女性名”ジェーン・フィン”と名乗ったところ、何故か相手は怒り出し、大金を渡すのです。仕事の依頼はよく分からず完全に受けていないと言うのに。詳しい仕事の話をしようとした次の日、その怪しげな事務所と男は消えてしまいます。
そんな状況で”ジェーン・フェン”とは誰か?何者か?調査を始め、自ら危険な人捜しの冒険に飛び込んでいくトミーとタペンスなのでした。

簡単に言うと、2人の男女トミーとタペンスの探偵物語といったところです。素人探偵がよくもまあ、死なずにいられるなあという危険とハプニングの連続です。
文章も若いです。きっと楽しい冒険にワクワクしながらアガサは書いているんだと思いました。トミーとタペンス、この2人の恋模様も描かれますし『ABC鉄道案内』も出てきて、アガサファンで『ABC殺人事件』を読んだことが在る人は”あれ?!”と思うでしょう。期待しないで読むと楽しめる一冊かもしれません。私はポアロやマープルのミステリーが好きですから、無人島には持って行かない本ではありますが、結婚についてのアガサの興味深い考察もありますのでそれを読むだけでも面白い作品だと思います。
尚、アガサはこの若い2人を後に『おしどり探偵』という短編集で活躍を書いています。かわいい2人のユニークな会話やアガサの遊び心満載のじゃれ合いを楽しむ方にはこちらもおすすめします!
蛇足ですが男女ペアで事件解決のお話は、他にもあって『なぜ、エバンスに頼まなかったのか?』という作品のボビィとフランキーがいますが、こちらは最初からミステリーの要素が強いですし、貧乏な青年と伯爵令嬢の2人のコンビの物語にもなっています。私はこちらの方が正直好きな作品なのですが、完全に好みの問題ですので、ご了承ください。

クリスマスにはアガサを!

クリスマスプティングの冒険

クリスマス度      ★★★★★
ユニークなお話度    ★★★★★
ポアロの魅力満載度   ★★★★★
無人島に持って行きたい度★★★★★

『クリスマスにはアガサクリスティー』を!

これは人気作家のアガサの当時のキャッチコピーです。
寒い冬、クリスマスも近い雪も降り積もるようなそんな日にぬくぬくした部屋でゆっくり推理小説を読む、、、読書家にはたまらない情景です!

クリスマスらしい題名の本として『ポアロのクリスマス』という長編作品もあるのですが

今回は短編集のアガサの推理小説『クリスマスプティングの冒険』がありますので紹介しましょう。
これは短編集で、巻頭を飾るのがこの題名の短編となります。
東洋のエキゾチック的なそんな香りが漂う中で、しかもクリスマスという時期にポアロに事件の依頼がくるのです。
どのような依頼かは、ここでは言いませんが、ポアロはお金のためには働かない、自分がしたいと思う事件のみ引き受けるというところがあるのですが、そんなポアロにあの手この手で引き受けさせようとする依頼者との攻防も面白いのです。
よりによって独身を自由に謳歌しているポアロに”家庭的なクリスマスを過ごしてもらうことも可能ですよ~っ”てアピールするのですが、よりによってあのポアロにですよ?!
それがはたしてポアロにとって良い作戦かどうか、、、想像つきますよね?

この作品の特徴は、イギリスの良き時代のクリスマスをアガサクリスティーがとても愛してたことが分かる作品です。
特別なクリスマスのご馳走、伝統的なクリスマスへの反発の若者達、その若者への慈愛、変わらない恋愛模様、推理だけでない楽しみがそこにあります。
特に表題になっている”クリスマスプティング”は事件の重要なアイテムでもありますが本当に美味しそうに書かれているので食べて見たいなあって思います
ポアロの推理はもちろん素晴らしいのですけど、クリスマスらしい結末になるところもいいですね


クリスマスプティングの冒険』は
短編集ですので同時に掲載のその他の作品は以下の作品になります
スペイン櫃の秘密
負け犬
二十四羽の黒つぐみ

グリーンショウ氏の阿房宮

いくつかの短編集の中にも収録済みの話もありますので重複しています
不思議なことに
最後の『グリーンショウ氏の阿房宮』だけはミスマープルのお話です

スペイン櫃の秘密
バクダッドの大櫃の謎』と大筋は同じですが、ポアロの秘書ミスレモンが出てくるのが違います。
ファアムファタル、男を破滅させる女が出てきます。週刊誌ネタ的もあり、血なまぐさくもあります。
お話の筋は同じですが私は、『バクダッドの大櫃の謎』よりこっちの方がお話の流れは好きですね!

負け犬
なかなかきわどい作品です。
というのは、ポアロが奇術を利用するからなんです。推理は、完璧ですよ。でも解決の仕方が、、、いまいち。
ポアロ好きな方でも好き嫌い分かれる作品ではないでしょうか

二十四羽の黒つぐみ
ポアロが実はグルメだと分かる作品です。
黒つぐみというのはブラックベリー、黒いちごのパイに使う名称のようです。
日本で言うなら「桑の実」のようなものでしょうか。
おいしそうな料理が出てきますよ!推理は、人間心理に乗っ取って納得の仕上がりです。


このトリックは前代未聞!思いもつかない方法で殺人が行われるしアリバイも驚きです。そんなにうまくいくかな?って思う事もひっくるめて、驚く作品だと思います

グリーンショウ氏の阿房宮
この作品も、他の短編集で似たお話が収録されています。(大筋は同じだと思いますが、雰囲気が違います)
この短編集において、唯一ミスマープルの作品です。
奇っ怪な、、、いえ、個性的な!お金持ちが建てた家が出てきます。それがどんなモノかは想像するしかないのですから
これを映像化するとなると、むずかしいでしょうね。(記憶が確かなら像化も1回してたは思いますが)
マープルおばあちゃんのおしゃべりは、いつも関係ないようでいて、最後に帳尻が合う小気味よさを楽しんで欲しいと思います。

春にして君を離れ

もしかしたらあなたを変える一冊かもしれない度  ★★★★★
傑作度               ★★★★☆
人と年齢を選ぶかもしれない作品度        ★★☆☆☆
探偵らしさ                   ☆☆☆☆☆
無人島に持って行きたい度            ★★☆☆☆ 

ネタバレなしの紹介
これは覚悟して読まなければなりません。なぜなら、読み終わった後にあなたを変えるかもしれないからです。
もしくは、全く響かないかもしれない。
なぜなら、そういう私が最初にこの小説を読んだときは”なんて退屈な話だろう”と思ったのです。読んだのは小学校のころでしたから無理もないかもしれません。アガサクリスティーの推理小説にハマりだしたころで、ポアロやマープルなどと同じ推理小説と疑わずに読んで、探偵も殺人も出てこないのですから一旦『?』となった作品です。
あらすじは、ありふれた主婦が主人公の物語。優しい夫、子どもにも恵まれて幸せに暮らすジョーンの人生のある一角を描いています。結婚した娘の病気を知りバクダッドに看病に出かけたジョーンはその帰りに古い友人と出会い、さらに宿泊所に留まることによって何かが彼女に起こるのです。
女として、母として光り輝く昼間にいたと思っていたのに気がつけば闇が迫っているかのようなぞわっとする感覚。
最後まで読まなくては彼女の真実にはたどり着けません。

これがサスペンスだと気づくには時間がかかりました。小学生の自分には気づけなかったのです。
再度私が読んだときは、いい大人になってからでしたが、その”意味”に気づいたとき、この小説の価値が一気に代わりました。その時の衝撃は面白いほどでした。


ネタバレギリギリの内容
私にとってこの本の中で印象的なのは夕暮れの”二人”のシーンでした。ここの描写は、素晴らしいです。こんな文章を書きたいと、ある意味憧れにしている文章のひとつです。
後は、思い出の中の恩師たちが思い出されて、ジョーンをゆさぶるところも巧妙です。すべては最初に出てくる旧友との再会がそうさせるという無理のない流れです。それまでは本当に何ごとも順調な幸せなジョーン。そして、バクダッドの宿泊所で起こった唐突な出来事がすべてを変えます。しかし、それだけでは終わりません。
最後に列車の中で出会う女性が自分には不気味なのです。一見、ただの通りすがりの乗客にしか過ぎない人物のように描かれていますし、ある決意をもったジョーンの救いのようにも思いますが、果たして救いだったのでしょうか?はたしてなんのためにアガサはこの女性に会わせたのだろう、もし出会わなければ、、、ジョーンの運命も大きく変わったかもしれないのです。それくらい最後に出会う女性の存在が私には異質に思います。
最後まで読んで、ようやく主人公のジョーンが、やはり誰よりも幸せな女性、でもそうではない側面があると言うことを読んだ自分自身が感じずにいられないのです。
そして、この小説は歴史的に世界が暗い争いの影に覆われてくような描写もあります。そこも西暦2022年の夏に通じる一冊だと思います。

招かれざる客(戯曲)

アガサクリスティーのミステリー戯曲のひとつです。題名が秀逸です!
ポアロやマープルのような有名な登場人物は出てこない戯曲ですが、最初からミステリアスに登場する主人公がばっちり読者をつかみます。
そして、主人公は美人ですが、男運が悪い!と、思ってしまうような展開に、そういう方向で読んでも、違った印象の作品になるかもなと思います。

戯曲としての面白さ   ★★★★★
ドラマティック度    ★★★★★
どんでん返し度     ★★★★★
この人妻を演じてみたい度★★★★★
無人島に持って行きたい度★★★☆☆

ネタバレなしの紹介
この作品は戯曲、つまり舞台で上演されるのを前提とした作品です。戯曲とは台本のような、つまりはシナリオなので、本を開くと、しょっぱなから舞台の配置図の記載があってそこから読み始めるようになってます。そこで読み慣れてない人は『ん?』と思うでしょう。大丈夫、十分面白く読めます!長編ほどには時間がかからずサクッと読めますし舞台としてどんな風に俳優が動くのかなとか、思ったりしながら読むのもありです。戯曲としては『ブラックコーヒー』というポアロの主人公のものがアガサの初めて書いた戯曲になりますが、この『招かれざる客』は、有名な登場人物はいない作品です。つまりポアロなどの有名な探偵は出てきませんがすでにヒットを何本も飛ばしているアガサの腕は確かで、登場人物が無名であっても面白さへの期待は十分なのです。よくできた題であって、誰が誰にとって招かれざる客なのか?読む前から想像力に火がつきそうな題名です。そもそも、アガサは題名の付け方が抜群にうまいのであります。印象的な題としては『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』『春にして君を離れ』などがあると思いますが、この”招かれざる客”も優れた題名だと思います。


あらすじ
車の故障で困ってる男が、屋敷に助けを求めてくるところから始まります。すると、なんとその屋敷の中には男の死体があり、その同じ部屋にいる美しい女性が『私が殺しました』と言い放つという、ドラマチックな始まりです。そしてこの女性は死んでいる男の妻なのですが、なぜか偶然訪ねてきたこの男が、話を聞くうちに殺した女性に同情できる点があるとして、彼女をかばおうとする話です。

ネタバレ少しあり
この作品の面白さは、観客をいかにロマンチックにだますか、ということに工夫している点かなと思います。アガサの作品は大体、読者があっと驚くような仕掛けのミステリーが得意ですが、これはそれに愛憎劇が混じるのです。突然現れた見ず知らずの男マイクル・スタークウエッターがやってきて、困っている美しい妻ローラを助けようとする、その一部始終といえばそうなんですが、お互いが一目惚れなんじゃ無いの?というくらい最初から二人っきりの掛け合いシーンが続きます。大体、突然家を訪れたら人が死んでいて、傍らにたたずむ人が”私が撃ちました”とか言ったら、すぐに警察を呼ぶなり、捕まえるなりするものでしょう?しかしそうはならない、なぜなら、お互い美男美女で恋に墜ちたから!だから!と言わんばかりの冒頭の二人の掛け合いに、観客もマイクル・スタークウェッターローラへ同情的になっていくのだろうと予想されます。(いや、そもそも、妻と言ってる時点で夫が死んでるとはいえ道徳的にどうなのと思わなくも無いけど)そしていわば突然前現れたヒーローであるかのような彼のアリバイ工作、証拠隠しなどを観客は一緒に見ているので一幕終わる頃には”どうなるのだろう?犯人の女性を男は隠し通せるのだろうか”ということに引き込まれてしまいます。しかし、だんだんと彼女の嘘が暴かれていき本当に彼女が殺したのか、それすらもわからなくなってくる。なにしろ、ローラには元々不倫相手がいるのです。ほんとに人妻とはいえ、美人ってモテるのね!(と納得させるほどにローラに魅力がなきゃいけませんが)じゃローラは悪女なのか?と言われたら同情できる背景が用意されてるし、一筋縄ではいきません。真犯人は誰だ?と観客が思った頃にはまんまとアガサの罠にはまっているのです。怒濤の後半の逆転劇にうなるしかない、作品です。
あまりにロマンチックすぎるのでこの作品を読むシュチュエーションとして無人島に持って行くよりは、秋の夜などにお酒を飲みながら読みたいなと思う本です(個人的な感想です)

検察側の証人(情婦)

アガサのエンターテインメント度 ★★★★★
超有名作品           ★★★★★             
誰も思いつかないミステリー   ★★★★☆
後味の複雑な両面の味わい    ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度    ★★★★☆

ネタバレしてます!
ネタバレを望まない方は、これより下を読まないでくださいね!
この作品は短編集のところでも紹介しましたが、アガサを知るならこれも読んでないなんてことあり得ない、というくらいに有名な戯曲作品です。別名『情婦』とも言われます。
初演から”絶対にエンディングは誰にも話さないで”と観客に約束させてたというくらいにすべての謎がエンディングにあります。 まあ、ここではこの後その謎をばらしますけどね!
ある富豪の老女が惨殺される事件が起き、直前に交際したとされる若い男ヴォールが容疑者として裁判にかけられます。彼の弁護士いわく、ハンサムでスポーツマンでしかし裕福ではないヴォールがお金以外の理由で老女になんの下心もなしに親切にするだろうか?しかも、彼は自分に妻がいることを老女に隠していたし、その老女は遺産相続人をヴォールに指定している。その老女が死ねば莫大な財産は彼のものになるという動機が出来ているのである。真っ黒黒である!アリバイもない、動機はある、その弁護を引きうけた弁護士メイハーンは負けを確信している。ヴォールは、殺人の時間には家に帰っていた事を妻ロメインが証人になってくれるというので、弁護士は会いに行くのである。ところが唯一彼のアリバイ証言をした妻ロメインに会いに行ったとき、彼女は言う『私が、9時には夫が家にいたと申したら、無罪になるのでしょうか?その他に無罪放免になる可能性のある証言をされる方はいるのでしょうか』と。彼はしぶしぶ『誰もいません』という。そこから彼女は、夫であるヴォールへの激しい憎しみを告白し『あの人が罪に問われて縛り首になるのを見たいのだ』と驚くことを言う。それを聞いた弁護士は、妻ロメインが夫を有罪にするために証言をでっちあげてると確信し、それを崩すために妻の身辺を探るのである。すると次々と嘘が分かり、結果ヴォール無罪となるのである。弁護士の汗と涙の結晶!弁護士万歳!とよろこんでいると、実はそれこそが嘘であり、夫ヴォールを助けるためにすべては妻ロメインが仕掛けた嘘の痕跡の数々だったのである。献身的な妻が証言したアリバイなどなんの役にも立たないと判断したロメインは、わざと夫を憎んでいる芝居をし、夫のアリバイを逆に証明するのである。まんまと、だまされる弁護士、そして裁判所と民衆、警察。しかし驚くべきことは更にある。その妻が付いた嘘は彼の無罪を信じるが故と思うではないですか!違うんです!ここまでで終われば、献身的な妻の美しい話で終わるはずなのに!

『誰よりもヴォールの無実を信じてるから、このような事をしたのですね?』と弁護士がロメインに聞いた後の一言が『誰よりも私が彼が犯人だと分かっているからです』と言い放つので、さらに驚かせるのです。
BBCドラマでは、その辺をもっとどす黒く描き、戦後の暗い影をひきずり(BBCドラマはわりとそうですね)ハッピーには終わりません。後味が悪いったらありゃしない!(個人的感想)でも美しく、おどろおどろしい世界観は観るべき価値があります。アガサの作品を普通にタダでは終わらせない感じです。
一度はこの情婦(あえて情婦と言いましょう)役のロメインを演じたいと思う女優さんが少なくないかも、と思わせるほど怪しい魅力です。原作は夫を愛するが故の賢い情婦、ある意味けなげ、と読み取れなくもない。実際最初読んだとき、そう感じ取れました。しかし、BBCドラマでは悪女色を強めています。実際、殺人犯を無罪にしてしまう話ですからね、倫理的には賛成しかねます。エンターテイメントとしては最高ですが。それを含め、素晴らしい作品だと思います。

※最近、BSプレミアムで『名探偵ポアロ』のドラマが放送してます。(2022/07/現在水曜9:00~)
短編のドラマ化なのですが、ポアロの変人ぶりが俳優さんの演技力でわかりやすく伝わると思います。(褒めてます)
ナイル殺人事件の映画でのかっこいいポアロとはまた違うイメージですよ!原作はドラマの方がより近いなと思います。

黄色いアイリス短編集

いろんな探偵ものが読める度★★★★★
アガサの原点かもしれない度★★★★☆
ドラマにしたい度     ★★★★☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★☆ 

表題にある『黄色いアイリス』の入った短編集です
9つの短編が収められており、ポアロもの、マープルもの、パーカーパインもの、有名な探偵は出ない話など、混合したバラエティーに富んだ短編集となっています。それはまるでフランス料理の重厚なフルコースというよりは、インドネシアのワンディッシュランチのような楽しさとユニークさです。一つのお皿にナシゴレンやサティやミーゴレン色鮮やかに辛いも甘いも乗っているようなそんなイメージをして頂いたらいいかもしれません。
この短編集の中には長編の原型ではないかと思われる作品がいくつかあります。『黄色いアイリス』が『忘られぬ死』の原型ではないかというのは有名な話ですが、それ以外にもいくつかある気がします。これは私だけが思うのかもしれません。是非、読んだ皆様がどう思われるか聞きたいところです。
特殊なのは『帆の暗い鏡の中に』です。有名な探偵が出てこない、不思議な話となっています。不気味な夢を見た気持ちになります。アガサは愛の側面、つまり甘いだけではないという事をこんな風に表現するんだなと思ったのです。アガサを語る時にこれは読んでた方がいい1つかもしれないと思う作品です。


ネタバレなしの紹介


レガッタ・デーの事件★☆☆
パーカー・パインの話。単純にいうと目の前でダイヤがきれいさっぱりに消えてしまう話。そこにいる誰もに身体検査をするのに、出てこない、、、。これは、やはり何かの長編の原型とまではいきませんが、どっかで既視感の有る感じです。なんの作品の元になってるのか今後、どこかで紹介する長編ではっきりするかも!(今はまだいいません)


バクダッドの大櫃(おおびつ)の謎★★★
ポアロの話。週刊誌ネタのような”バクダッドの大櫃の謎”という新聞の記事から始まる。異国情緒あふれる飾りのついた(たぶん当時はインテリアとしても使われてたのではなかろうか?)大櫃から大量の血がにじんでいた、その中にはなんと一人の男の死体が!という血生臭い話なのであるが、登場人物の三角関係にメロドラマを思わせる設定です。読んでるだけで、鮮やかな異国の飾りのある大櫃の舞台装置が頭の中で作り出されます。そして、ファアムファタルの存在なくしてはこの作品は意味を成しません!(男性にとって運命、もしくは破滅させる女性の存在)
『スペイン櫃の秘密』とほぼ同じ話です。(『クリスマスプティングの冒険』短編集に収録)


あなたの庭はどんな庭?★★☆
ポアロに切羽詰まった依頼の手紙が届くことから始まる。ポアロは依頼を受ける手紙を出すのであるが着くかつかないかで、実は依頼主が亡くなってしまう。依頼主が亡くなったので依頼の話はなかったことに、という断りの手紙が届くのにも関わらずポアロはいけしゃあしゃあとその家庭に乗り込んで謎を解いていくという話。しかし、理不尽な”死”に対してポアロは容赦しません。

ポリェンサ海岸の事件★☆☆
パーカー・パインのお話。ポアロが刑事事件を取り扱うとするならば、パーカー・パインはどちらかというと民事事件を扱う探偵といったところでしょうか。今、現在不幸な依頼者を幸せに導く探偵です。今回は海辺のリゾート地を舞台に”ユニークな方法で事件”を解決します。このパーカー・パインものは仲間がいてその仲間が非常に優秀です。どうやったらそんな人材が集まるんでしょう、、、、等と毎回思います。それも含めてユニークな作品です。

黄色いアイリス★★☆
この短編集の表題になってる作品。長編『忘られぬ死』の原型です。これに関していえば前回別に解説していますのでそちらを読んでいただけたら、ありがたいです。ポアロが珍しく妖艶な美女と絡みますよ!と言ったら誤解をさせるかもしれませんね。でもそんなご褒美もたまにはアガサは書くのだなって思います。

ミス・マープルの思い出話★★☆
話を座って聞いてるだけで、事件を論理立てて解決に導く”おばあさん”の話。つまりミス・マープルの話ですが、有罪確定と言われた知り合いの友人を救うのですが、現場に足を運んだりしないで、今までの人生経験と人間観察を武器として真犯人とその方法を導くのです。ネタバレになるので詳しくは書けないですが、男性は服装などに対してあんまり違いを見いだせないんだな、とアガサはそこを歯がゆく思ってたかもしれません。それを逆手に取ったトリックになります。妻殺しの罪で絞首刑確定の容疑者から話を聞くだけで瞬く間に解決するのですからすごい話です。ですからそんなスゴイ思い出話を甥のレイモンドに話す形になりますがそれはシレッと自慢話にもなりますね。町医者と、最先端の大病院の医者との比較をしてる所なんてマープル自身も恥ずかしそうにしてはいますがまんざらでもなさそうです。

仄暗い鏡の中に★★★
この話は有名な探偵が出てこないお話です。しかし、私はこの話に魅力を感じます。不思議だし、ちょっと考えたら不気味で狂気でしかない気もします。改めて読み返すと、、、読み返すたびに妙な何とも言えない怖さがありアガサの違った作品の楽しみ方が出来るのではないでしょうか。

船上の怪事件★☆☆
船の旅を楽しむポアロだったが、そこに事件が、、、という話。このお話はどことなく『アレとアレを組み合わせたような話』だなって思います。設定が『ナイルに死す』ぽいなと思うんです。(”ナイルに死す”を読んで短編を思い出したと以前書いたのですが、このお話でした!)サクッと読めます

二度目のゴング★☆☆
ポアロが依頼を受けて、その館に来てみれば、そのほんの15分前に依頼主が自殺しちゃってるっていうトンでもない話。当然自殺ではありません。お金持ちの家のルールはいろいろあるんでしょうが、ゴングが鳴ったら全員食卓を囲むとか、そういう食事のルールが出てきます。それが事件解決の糸口にもなります。ちなみに受けた依頼の内容は横領事件なのですが、その横領事件も一緒に解決してしまいます。その場合、依頼主は亡くなってるしその分の報酬はもらえるのかな?なんてどうでもいい事を考えてしまう自分です。




黄色いアイリス

ロマンチック度     ★★★★★
だまされるストーリー度 ★★★★★
ドラマにしたい度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度★★☆☆☆ 



黄色いアイリスは短編です
早川文庫短編集『黄色いアイリス』の中の1つ。表題になっている通りこの短編の中でも”代表格”と思われる作品です。
この作品を紹介するのには『忘られぬ死』という長編の存在を無視できません。なぜなら『忘られぬ死』の元となっている作品だからです。
『黄色いアイリス』と『忘られぬ死』短編と長編、違いはありますが、どちらも話の筋は似ています。

ネタバレなしの紹介


ポアロに謎めいた電話が掛かってきてくるところから始まります。ここが非常にドラマチック!まんまと興味を魅かれたポアロは電話で告げられた高級レストランに出かけるのですが、ポアロは探偵としてすでに有名で顔パスでそのレストランに入れるところが素晴らしい。そして、そこでは目印の”黄色いアイリス”が。実は4年前に亡くなった妻の追悼パーティーをしているのだという。そこで、、、、、というお話。
誰が電話を掛けたのか?なにが起こるのか?それをポアロが解いていくのです。読んだ最初の感想としたら”驚かされた!”ですかね。あと、話の筋と直接は関係はありませんが、高級レストランの給仕、もしくは支配人というのはお客様の事をよく見ているってこと!そして記憶力が素晴らしいんだなって思うんです。アガサも実際に良く利用されてたのでしょうね。確かにお得意様がどんなものを召し上がるか、どんなサービスをお望みかデザートのお好みや席の具合など神経を張っていなければお金持ちの常連客を繋ぎとめてはおけないでしょう。カッコいいお仕事だな、とそんなことを思いましたね!
短編なので慣れた方なら5分くらいで読めるんじゃないでしょうか。ポアロ作品の場、長編の方が私は好きなので星は少なめです。

火曜クラブ

ミス・マープルが分かる度★★★★★
サクッと読める度    ★★★★☆
無人島に持っていきたい度★★★☆☆



これはミス・マープルの短編集です
安楽椅子探偵として有名な探偵ミス・マープルの短編集といった方が分かりやすいかもしれません。
ミス・マープルというと、アガサの作品の中でも、ポアロと並んで人気の探偵です。最初の登場は、短編でした。
それがこの『火曜クラブ』です。13篇のマープルだらけのお話です。
このブログの中で、”クリスティ短編集Ⅰ”の中の5編と重複しているお話がありますので、それについては割愛しています。

アガサはマープルの事をご自分の祖母に似てると言っています。ポアロよりも、好きな登場人物だったらしいことも。
自分も小学生のころから、ミス・マープルを読んで、人生について、人間性について、柔らかく話すマープルの様子に親しみやすさを感じていました。”さっきから聞いてますとね、誰と村の誰が似ていて、大抵どこでも人間性ってのは変わらないもので、、、あら、網目がここで、、、そうそう、なんのお話だったからかしら、でも本当のところ、さっきの話を聞いていますとね、村のトラウトおばあさんの事を思い出しましたのよ”とそんな感じです。本当に実在のおばあさんがしゃべっているようです。最初は、まどろっこしく聞こえますが最後には鮮やかに謎が解けます。それで、その場にいた人たちがだんだんミス・マープルに一目置くようになり、この火曜クラブを読み終わるころには、大抵の人がマープルのファンになるという訳です。


この『火曜クラブ』というのは、ミス・マープルの甥のレイモンド、その知り合いの警察関係や友人の画家など様々な職業の人々がたまたま、ミス・メープルの家に集まっていたのが火曜日だったことに由来します。余興として”各自が真相を知っている実在の事件をかたり、皆で推理し合うというゲームをするのです。最初は、ミス・マープルの事を皆が”静かなおばあさん”という外見にとらわれて、マープルなしで話を進めようとするのですが、ひとたび推理を始めれば瞬く間に事件の真相を解いてしまうので、みるみる一目置かれるようになります。
アガサの作品ではありませんが、アイザック・アシモフという作家の作品の『黒後家蜘蛛の会』の給仕のヘンリー
もこのような人物です。興味がればそちらも読んでみても面白いかと思います。


ネタバレなしのそれぞれの紹介



※新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複している者については割愛しています。

『火曜クラブ』
新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複”火曜の夜の集い”と同じ話

『アスタルテの祠』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複”アスタ―ティーの神殿”と同じ話

『金塊事件』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複

『舗道の血管』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複

『動機対機会』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複
ここまでの5編は、以前紹介したアガサクリスティー短編集Ⅰの中に収められていますので、(しつこくてすみません)そちらを参考にしてみてください!

聖ペテロの指のあと
これは、ダイイングメッセージにヒントがあります。そこにマープルが気がつくところが重要なお話。マープル作品ではないですが同じようなダイイングメッセージが重要な作品は他でも見ますね。謎解きとしては英語が得意でなければそもそも解けないかもしれないです。(赤川次郎先生の三毛猫ホームズでも似たような謎解きがありますね)

青いゼラニウム

トリックが重要な作品です。壁紙の花がいつのまにか変化するトリックです。そして思いもかけない犯人が出てきます。

二人の老婆

いかにも、映像化できそうな、ドラマ化できそうな作品です。日本では横溝正史の双子の老婆が出てくるお話が有名かと思いますが、それを思い出さないでもありません。内容はまったく違いますが。男性は、老婆に対して、ひとくくりに見ていて個性をあんまり感じてないんだなとアガサも感じていたようですね。



四人の容疑者

手紙のトリックです。話の本筋は不気味なんですが(詳しくはこれ以上言いませんが)容疑者四人の中で誰がどうなのか?と考えるのが興味深い作品です。


クリスマスの悲劇

このお話はいよいよミス・マープルが出題者となるお話です。マープルの体験談です。事件を語る様子に、そして真相を語る様子に、マープルの性格がよくでている作品だと思います。




毒草

このお話は、語り部が非常に口下手であるという設定になっているので読んでいて、非常にまどろっこしいです。しかしそれで、かえって『火曜クラブ』が実在するかのような気持ちになります。口下手な語り部から少しずつ事実が見えてくる中で、人物像に色がついて、表情が見えて事件の真相にたどり着くという事になりますが、解決に導くのはやはりマープル。人間性を語らせたらミス・マープルにかなう人はいません。そんなお話です。

バンガロー事件

語り部が美女で有名な女優ジェーン・ヘリアのミステリー。『火曜クラブ』の参加者の中で、いろんな意味でざわつくほどの、美女なんですが自分を賢そうに見せようとはちっとも思っていない。誤解されることを覚悟して言うと、”殿方って頭のゆるい美女がお好きでしょ?”って信じて演じてる風でもあります。(ほんとはどうか分からない)このころの女優さんてこういう方が好まれたんでしょうか。作品の中では、”ちょっと今風の男子には受けないわね”的な表現があるので、アガサはその辺のところを書きたかったのかもしれません。アガサの頭の中にはどなたか実在のモデルがいるのかもしれないと、ちょっと勘ぐりましたね。ミステリーの真相は、、、これはネタバレしたらホントに虚しい話なので、とりあえず物は試しで読んでみましょう!

溺死

この話だけは、『火曜クラブ』から派生した、いわば番外編のようなもの。『火曜クラブ』での話ではなく、その集まりで知り合った前警視総監サー・ヘンリー・クリザリングに、ミス・マープルが助けを求める話です。ある事件とも事故とも言えない出来事について、突然ヘンリーのもとに、マープルが訪れて”犯人はこの紙に書いてあります、どうかお確かめを”というのです。”こんなおばあさんが突然言ったところで世間は信用しませんでしょう?”という具合です。ヘンリーは驚きますがすでに『火曜クラブ』でマープルがとんでもない洞察力を持っていると知っているので、意外な人物が紙に書いてあるので”本当だろうか?”と思いつつもヘンリーは解明に乗り出すのです。

ねじれた家

アガサがノリにノって書いています ★★★★★
後味のビター度          ★★★★☆
最後まで犯人分からない度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度     ★★☆☆☆

この作品はポアロなどの有名な探偵は出てきません。ですが、アガサ本人が乗りに乗って書いてたいへんなお気に入りでした。(と言われています)映画化にもなりました。
私もこの作品を読んだ時、アガサの絶好調に楽しそうに書いてる姿が目に浮かびました。それぐらいに面白いです。面白いと言っても事件自体は陰惨でなんとも言えず恐ろしいのですが、作り事の話として、良く書けてるなと思うのです。人間の心理描写も細かいし登場人物が魅力的(登場人物全員が好ましい人物ではないですけど)に書かれていて素晴らしいです。なんと言っても人物の性格の書き分けが素晴らしいです。微妙な表現力、描写が、飽きさせません。
一体この家の何が一番ねじれているのか?最後まで分かりません。

ネタバレなしの紹介
この作品の主人公は、探偵ではありませんが、語り部として大変に魅力的です。アガサの表現の仕方が絶妙なのです。主人公はお金持ちであるアリスタイドの孫娘に恋をして婚約するのですが、そのアリスタイドというのが一癖も二癖もあり一族を敷地内に住まわせ、権力をふるっている高圧的な人物。読み始めてすぐに既にねじれてるというかひねくれてる設定です。アガサはそんな風変わりなお金持ちが一族を支配しているというのを題材に作品を書くことがありますが、この作品もその一つと言えます。アリスタイドの孫娘は”私はそんなねじれた家の人間なのだ”と主人公に言います。この物語はそんなひねくれたアリスタイドが毒殺され、いったい誰が?という犯人探しになりますが、親族も殺したいと思っている人だらけで誰もが犯人らしく思えるのです。物語にまとわりつく、ねちっこい人間模様が不気味で何とも言えません。

この小説が自分は好きですが、作品として好きであって、良筆なミステリーかと言われると、難しいです。結末も含め完全に好みの問題です。実際自分は、面白くて一気にこの作品を読み切りました。ミステリーというよりは、ホラーに近いかもしれません。不気味な雰囲気がまとわりついていて、そういう描き方もアガサは得意だと思います。
読み進むにつれてどんどん、アガサのペンが走っているのが分かります。言い方が難しいけど、この不気味な話を、アガサは多分笑顔で書いています。読者に楽しんでほしいと書いてるのが分かります。そんな作品です。最後はやはり、読者はとんでもなく迷宮に入り込み、裏切られ、してやられた!と思わされるのです。(結局、翻弄されて楽しんでいる自分がやっぱりいます)
自分の好みかどうか別にして文句なく傑作の1つと言えます。(複雑な言い方ですが本心です)

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※フジテレビドラマで”元彼の遺言状”綾瀬はるかさん、大泉洋さんでされてますがドラマの中に『ねじれた家』出てきますね。でも原作も読んだんですが、そんなに本筋に直接は関係ないような、、、そもそもドラマの篠田役の大泉さんも随分原作とは違う人物ですから、全然別物として楽しむ内容だと思います

クリスティ短編集Ⅰ


バラエティーに富んで楽しめる度★★★★★
スターがそろい踏み度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度   ★★★☆☆
 
これは早川文庫ではなく新潮文庫になります
13篇の短編が入ってる短編集です。ポアロものが3篇、マープルものが5編、パーカーパインものが3篇、有名な探偵が出てこないけどもとても良質な2編、といったところです。

この短編が好きなのは有名な戯曲『検察側の証人』が入ってる事や自分の大好きな短編の『うぐいす荘』が冒頭に入ってる事です。なるべくネタバレをせずにこの短編集を紹介していきます


検察側の証人★★★
自分は幸運にも小説を読んだ後でBBCドラマを見たのです。小説を読んだときの驚きを単純に楽しめたのです。ドラマになると、やっぱりいろいろ道徳面でというか問題があるんだろうなと思いました。舞台で何度もされてる作品だし、言いたいことはひとつ”検察側の証人”であるその人がすべて。後は、主人公のように翻弄されるのを楽しむのが良いかと思います!

うぐいす荘★★★
早川文庫の『ナイチンゲール荘』と同じお話です。出版社と題名と訳者の違いでしょう。自分はこの作品が好きなので別で詳しく書いています。よろしければそちらも読んでみてください。



エジプト墓地の冒険★★☆
ポアロの短編です。ポアロの相棒、ヘイスティングㇲの語りが重要な短編です。事件解決のためにエジプトに1週間もかけて行ってしまうし、しかも意外とお洒落さんのポアロは、ピカピカの磨かれた靴が砂まみれ、ほこりまみれになるのも厭わずに神秘で不気味な謎に挑みます。これも意外な結末です。


ダヴェンハイム氏の失踪★☆☆
銀行の頭取が失踪した事件を、ポアロの旧友のジャップ警部から聞き、解決できるか賭けをするお話。解決のトリックがシンプルというのもありますが、それよりも、自分としては銀行の頭取とはいえ、中年男性が行方不明になるなんて、ちっともわくわくしない設定で、びっくりしました。ジャップ警部との賭けはどうなるのか?それを自分は楽しんだ作品です。

イタリア貴族の怪死★☆☆
食事をしていたとされる3人の紳士のうち1人が死体で発見される。後の2人は見つからない。一体誰と食事をしていたのか?事細かな食事の内容が語られて、アガサはグルメなんだろうなと思わされるし、それを楽しんで書いたのではないかと思われます。お米のスフレもデザートとして出てきて、事件の鍵を握っています。

火曜日の夜のつどい★★★
安楽椅子探偵として代表といわれるジェーンマープルの出てくる話です。”火曜クラブ”の最初の話になります。”火曜クラブ”というのは、ジェーンマープルの甥の作家のレイモンド・ウエストが発起人となって、とその親戚や仲間たちで謎解きをしようという”集い”のことです。ミスマープルは、甥のレイモンド・ウエストや他の参加者にとっては最初”単なる編み物をしている、ごく単純なよくあるおばあさん”とみられていて、謎解きの仲間にも無視されています。しかし、話を聞いてるだけのはずの、ごく普通のおばあさまに見えるジェーンマープルが謎を鮮やかに解いていくことで、誰からも称賛を得るというお話になっています。その記念すべき第一話となります。詳しい内容は第一話という事で敢えて言わないでおきましょう。アイザック・アシモフの書いた推理小説(短編集です)『黒後家蜘蛛の会』というシリーズがありますが、その給仕のヘンリーに当たるのがミスマープル、という構図になっています。気になる方はそちらも読んで見られてはどうでしょうか。

アスタ―ティーの神殿★☆☆
これも火曜クラブの続きになります。第一話で、ミスマープルは鮮やかに謎を解いているので、すでに皆から一目おかれている状態です。そしてこの”アスタ―ティーの神殿”というお話はイギリスの方ならば誰でも知っているというような神話が出てくるので、その神話を知っていなければ、謎を解くのは難しい。日本でいえば、日本昔はなしの”ももたろう”とかそんな感じでしょうか。ある意味女性が好みそうな神秘的な雰囲気のものです。もちろん、ミスマープルが最後には謎を解き明かします。

金塊事件★☆☆
これも火曜クラブの話になります。これはミスマープルの甥のレイモンドのかかわった話を自ら謎として、解決を提案する話。このお話はミスマープルのセリフで”おまえはロマンチックなんだよ”と甥のレイモンドに言うところがありますが、なるほど、そんな感じの話です。男のロマンとかそんな感じかもしれません。

舗道の血痕★★☆
これも火曜クラブのお話。話し方の工夫が必要になってくる謎です。舗道に血痕があったはずなのに、後で見た時にはすでに血痕はなくなってるという不気味な雰囲気が事件を予見させます。しかし話し手のとりとめのない話し方のためにややこしくなっている気がします。ちょっとずるいなと思わないでもない事件ですが、謎を解いた後でもちょっと不気味な気がするのは実際ありそうな話だからでしょうか?

動機対機会★☆☆
そしてこれも火曜クラブの話。遺言書のサインのお話。トリックは実に簡単。ミステリーの内容が”殺人”ではないせいか小学生向けのミステリーの本にもよくなっていました。しかし、トリックはちょっとずるい気がしますね。どうしてかというと、、、、それはお読みになった方が良いでしょう。

中年の人妻の事件★★☆
”あなたは幸福ですか?もし幸福でなかったらパーカーパイン氏に相談に来なさい”という怪しげな新聞広告から始まるストーリーです。パーカーパインは、アガサの小説の短編シリーズの探偵の1人でもあります。人生の悩みを依頼人から聞き、その悩みの本質を、人間の性を読み取り依頼人の幸福を取り戻す話です。ミステリーでもトリックのある話でもありませんがこれは中年の人妻の悩みにとって、最高に幸福になれる物語でしょう!後は読んでのお楽しみに!

悩める淑女の事件★★☆
これもパーカーパイン氏の話。これは宝石が出てくるお話。どうやって依頼人の悩みを解決するのかなと思っていると”なるほど、こうくるか!”と読者をすがすがしく(?)裏切る話です。(褒めています)

あるサラリーマンの冒険★☆☆
パーカーパインの話。そしてこの短編集の最後を締めるものがたりとなっています。これもミステリーというカテゴリーには入らないかも。まじめに働いてきたサラリーマンに裏切らない”幸福”を考えてくれるパーカーパインの温かさがあります。そしてこれを書いたアガサの”男の人ってこういう夢があるんでしょ?”って見透かしたような、でも楽しい作品となっています。