アガサと無人島と言えば『そして誰もいなくなった』


『そして誰もいなくなった』

アガサクリスティーの代表作の一つと言っていいですね。
謎を解くというよりは、最後のどんでん返しに読者は驚き魅力にハマるのです。
この作品が発表されてから、これと似たような作品が何度も発表され、オマージュされてきたかわかりません。
この小説は映画化もされてますし、結末も有名なのでいまさら隠す必要もないかもしれません。
でもこれから読む人はいくらでもいる(かもしれない)ということを踏まえて、いつも新しい驚きを持って欲しいと思いますのであえてここではネタバレはしません。

ネタバレなしの紹介
この作品は、無人島に招待された10人の男女がインディアンの子守唄になぞらえて死んでいくミステリーです。
可愛らしいはずのインディアンの人形がまた異様に不気味で、人形が消えると誰かが同時に消えていくようになっているのです。誰が?何のために?

無人島という、隔離された世界で他に助けも呼べばない状態で、一人一人死んでいくのです。
生き残っている人も誰も信じられない恐怖で追い詰められていき発狂寸前です。
ラストは、読者を驚かす仕掛けが待っています。

自分はこれを読んだとき、あんまりな話だなと思ったのです。
もちろん文句なしに面白かったですよ!
この仕掛けを考えたアガサクリスティーはさすがだ!と思いましたし天才だと思いました。
最高傑作と言われてる理由も分かります。
でも、内容的になんだかむなしいなあ、、、、って思ったのです。
完全なる自分の趣味です。
無人島に男女10人滞在できるほどの屋敷は(大きな立派な館)あるんですが、バカンス!っいう感じはまったくなく、ちっとも楽しそうじゃないし(あたりまえっちゃ当たり前、仲良し10人組のパーティーじゃないんです、ほぼ他人同士)それぞれが秘密を抱えてることが前提で、どよ~~~んとした灰色な雰囲気が漂うんです。
それがミステリーだといわれたら、全く文句はありません。
でも、なんていうか怖い方が勝つホラー作品というか、
そう、ミステリーというよりこの作品は自分にとってはホラーでした!
怖い話がお好みの方は是非、お勧めします!

最後まで犯人は分からないまま、読者を引っ張っていく力強い文章力が魅力です。
そして題名が『そして誰もいなくなった』なんてちょっとしゃれてる題名というのも、この作品の価値があると思ってます。他の題名だったら、ここまで有名になったかと言われたらどうかなと思います。

蛇足ですが、作家の赤川次郎さんが、このアガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』をリスペクトしていて、
”自分はこういう作品を書きたい”とそう思って小説を書いてきたと知った時、驚いた自分です。
ユーモアミステリーのイメージがある作家の赤川次郎さんですが、『夜』という作品を読んだときとても怖いホラーだったので、そのことを思い出しました。

秘密機関

冒険活劇度               ★★★★★
ミステリーというカテゴリーかどうか
悩む度                 ★★★★★
少なくとも推理物ではないかも度     ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度        ☆☆☆☆☆

ネタバレ無しの紹介
この作品はアガサの作品発表順で行くと『スタイルズ荘の怪事件』の次の作品です。ミステリーの第2弾かと期待してしまいますが、この『秘密機関』はミステリーや推理というよりは冒険とスパイの物語ですから、ちょっと雰囲気が違います。
文章の雰囲気が若々しいです。ポアロは出てきませんし、若いトミーとタペンスの物語です。
『茶色い服の男』の時にも思いましたがアガサは若い女性がイキイキと冒険に出る話が好きなようです。アガサは本当はスパイ物や冒険物が書きたかったのでしょうか?しかし、この後に発表される『ビック4』という作品で無理やりポアロに冒険をさせているような作品がありますが、その作品は全くびっくりするほど読みづらかった作品でした。(ハッキリ言って眠くなります)しかし、その『ビッグ4』に比べればこの『秘密機関』は若い男女のコンビが冒険をする物語で、いくらか読み応えがあります。戦後のお金はない、仕事もない、でも若さと知恵と行動力は誰にも負けない、そんな前向きな2人が主人公です。そしてこの2人がユニークな相性で書かれていて、お互いの足りないところを補い合ってとても大きな事件を解決して行くのです。ワクワクしますがあり得ないことの連続です。
しかし、それも戦争の後の混乱期を書いていると思えば、同情も出来ます。戦後のイギリス、お金がない職のない若者は溢れていました。生きる希望、まだ若いんだから何でも挑戦しなさいよとアガサは元気づけていたのかもしれません。ハラハラドキドキの冒険の物語になっています。

ネタバレ無しのあらすじ
いきなり船が沈むシーンから始まります。悲劇の”タイタニック”を思い起こさせる始まりですが、沈む原因は氷山ではなく戦争の影響の”魚雷”にやられたというのがあまりにもひどい始まりです。船の乗客は順番に救助ボートに乗るのを待っていますが、ジェントルマンの国では女性や子どもからボートに乗れるので女性が助かる可能性が高い。それを痛いほど分かっている男のスパイが、『私が助からなかったらアメリカ大使館へこれを届けて欲しい』と機密文書をある女性に託すのです。まさに生きるか死ぬかの瀬戸際の頼み事ですし頼まれた女性も命がけです。そんなシリアスなシーンからの始まりなのです。
そして、場面は変わり、戦後のイギリスの町中で失業中の若い男女トミーとタペンスが出会い、なにかしらで2人で生きていくすべを話し合っている時に、ある男から声を掛けられます。怪しげな仕事を依頼され、タペンスが口からでまかせに女性名”ジェーン・フィン”と名乗ったところ、何故か相手は怒り出し、大金を渡すのです。仕事の依頼はよく分からず完全に受けていないと言うのに。詳しい仕事の話をしようとした次の日、その怪しげな事務所と男は消えてしまいます。
そんな状況で”ジェーン・フェン”とは誰か?何者か?調査を始め、自ら危険な人捜しの冒険に飛び込んでいくトミーとタペンスなのでした。

簡単に言うと、2人の男女トミーとタペンスの探偵物語といったところです。素人探偵がよくもまあ、死なずにいられるなあという危険とハプニングの連続です。
文章も若いです。きっと楽しい冒険にワクワクしながらアガサは書いているんだと思いました。トミーとタペンス、この2人の恋模様も描かれますし『ABC鉄道案内』も出てきて、アガサファンで『ABC殺人事件』を読んだことが在る人は”あれ?!”と思うでしょう。期待しないで読むと楽しめる一冊かもしれません。私はポアロやマープルのミステリーが好きですから、無人島には持って行かない本ではありますが、結婚についてのアガサの興味深い考察もありますのでそれを読むだけでも面白い作品だと思います。
尚、アガサはこの若い2人を後に『おしどり探偵』という短編集で活躍を書いています。かわいい2人のユニークな会話やアガサの遊び心満載のじゃれ合いを楽しむ方にはこちらもおすすめします!
蛇足ですが男女ペアで事件解決のお話は、他にもあって『なぜ、エバンスに頼まなかったのか?』という作品のボビィとフランキーがいますが、こちらは最初からミステリーの要素が強いですし、貧乏な青年と伯爵令嬢の2人のコンビの物語にもなっています。私はこちらの方が正直好きな作品なのですが、完全に好みの問題ですので、ご了承ください。

ABC殺人事件

アガサの代表作度   ★★★★★
ABC本の名前の有名度  ★★★★★
アガサの人を観察する度    ★★★★★
コレを読んでおけばミステリーの
世間話が出来るぞ度      ★★★★★ 
無人島に持っていきたい度   ★★☆☆☆


ABC殺人事件と言えばアガサクリスティーの代表作の一つで、その印象的な題名は一度聞いたら忘れる事はないでしょう。日本で言えば”あいうえお”殺人事件みたいな感じでしょうか
殺人現場に残されるABCの本から『ABC殺人事件』と言われるのですが、この本は”鉄道案内のガイドブック”で親切にABCのアルファベット順で地域と駅、時間や金額、近くのホテルや観光場所など詳しく載っていて大変便利だったようです
ミステリー好きであれば、話のネタにも一回は読んでおきたいアガサの超有名作品です


あらすじ
『ABC』と名乗る犯人からの殺害予告がポアロの元に届き、予告通りの日にちと場所、しかも最初の事件がAの付く町で
Aの頭文字の人が殺されてしまいます。その事件が解決しないまま次の殺人予告がまた届き、今度はBの付く町で、Bの頭文字の人が殺されてしまうのです。そしてまたCの町の殺人予告がポアロの元に届く、という連続殺人事件となっています。
殺人現場には『鉄道案内ABC』のガイドブックが必ず置かれているという状況から『ABC殺人事件』と言われるのですが
このセンセーショナルで残忍な事件をポアロがヘイスティングズと解決する作品です

ネタバレなしの紹介
あらすじ
難事件を解決し名探偵として名をあげてきたポアロのもとに殺人予告の手紙が届きます。差出人はタイプライターで打たれた『ABC』とだけ。内容は”Aのつく町で21日に殺人が起こるから警戒せようぬぼれた探偵ポアロよ”(簡単に言うと)と、かなりポアロを煽る感じなのです。この手紙だけでは、いたずらなのかもしれないし、わかりません。事件はそんな奇妙な始まりです


ポアロは探偵も引退していて夢だったカボチャ作りに夢中だったはずなのですが、実のところは、事件の依頼がチラホラあり完全に引退まではしていなかったようです。それどころか難事件を解決してきた自分の灰色の脳細胞を持て余し気味でした。そこへ南アフリカから旧友のヘイスティングズが帰ってきたので(ヘイスティングズは南アフリカに妻を残して来ているので期間は限られているのですが)昔のエキサイティングな事件の事などがよみがえったのでしょう。
”なにか気の利いた事件”をまた二人で解決しよう!と持ちかけます(なんて物騒な話なんでしょう!)その直後に『ABC』の殺人予告の手紙がポアロ宛に届くので、びっくりです
しかも、ご丁寧に殺人の場所と日にちまで書いてあるのです。ポアロも随分軽く見られてしまってたようです!(これは犯人の思惑があったのですが)私はポアロがヘイスティングズに”また何か2人で事件を解決したい”的な事を言った直後の殺人予告の手紙だったので、てっきりヘイスティングズの何かの伏線か、関係があるのかと思ってしまいましたが、実際はそういうわけではなく、たまたまだったようです(すみません、私の考えすぎでした)
最初のポアロと旧友のヘイスティングズの再会は、ポアロファンならニヤニヤするくらいの会話の応酬ですし、直接事件とは関係ないところですが最終回の作品と呼ばれる『カーテン』への伏線もうっすら入っています。『カーテン』を読んでいる方なら、”あ、この会話は!”と気付かれるかと思います

いつもは語り部としてヘイスティングズの目を通して事件を追うのですが、今回の『ABC殺人事件』はある理由から他の視点でも描かれます。これは最後まで読み終わって、ようやくそういうことか!と思います(言いたいけどネタバレなので言いません)ポアロ宛に殺人予告が届くこと、しかし防げずに殺人は次々と起こるので犯人の狙いはポアロに恨みがあると考えるのが話の流れではないでしょうか?散々推理小説を読んできた私は、そう考えもしますが、話はそんな単純ではありませんでした。予告があるのにもかかわらずポアロが手も足も出ず殺人が起こってしまう失態の連続ですし難事件と言っても良いと思います。
ミスリードもありますし素直に読んでいる読者は犯人が誰かさっぱり分からないと思います!犯人捜しは難しかったです
トリックとしては偶然に頼りすぎているので私にとって無人島に持っていくリストには最優先に入れる本ではありませんが、ABC順に殺人が起こるという前代未聞のアイデアはさすがだなと言うしかありません。
最後のポアロの謎解きのシーンはいつもながら大どんでん返しでスカッとします。事件は悲惨ですがハッピーエンドと言っても良いでしょう。(複雑ですが)
そして私のこの作品の大好きなところをあげるとミステリーでありながら①戦争反対の意思、戦争の後遺症の悲惨さ、②弱者への暖かいまなざしを感じられるところ、があります(それを感じられるシーンは少ないけど印象に残ります)もちろん魅力はそれだけではありませんので是非まだの方は読んでいただきたいと思います

映像化も沢山されている『ABC殺人事件』、BBCドラマも映像化をされていますがこのABC殺人事件のドラマ化に関してはとても面白い解釈と表現がされていました
こちらも機会があれば、原作を読んだ後でですが鑑賞をおすすめします(原作を読んでなくても面白いと思いますが、原作を読んでいた方がドラマの面白さは増えるかなと私は思いました)









鳩のなかの猫

アガサクリスティーの視野の広さ度  ★★★★★
学校経営の面白さ度         ★★★★★
教育とは何か            ★★★★☆
ただのミステリーではありません度  ★★★★★
とにかく女は膝は大事なのね度    ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度      ★★☆☆☆

ネタバレなしの紹介
この作品の中心はメドウバンクという有名お金持ち女学校です。イギリスの学校は全寮制というのはハリーポッターで有名ですが、そんな全寮制の学校が舞台の作品です。そういうと、学園モノで学園ミステリーなのか?と簡単にくくりたくなりますが、そう簡単な作品ではありません。なぜなら、冒頭に革命テロなど血なまぐさいシーンがいきなり出てくるからで革命的な方向と女学校を絡めとてもスリリングな作品になっています。これは誤解されないように言うのは難しいけれど男子校が舞台では又違う話になってしまうでしょう。
私が面白い、と思ったのはミステリー自体も独特で新鮮ですが女学校の考え方を校長先生であるバルストロードが痛快に理想をもって経営している所でした。今まで学校を”経営”としての観点から考えたことがなかったのでとても新鮮に感じたし、学生時代に戻ってこの学校で学んでみたいと思う校風がありました。言い方が難しいけれど、花嫁学校ではありません。この言い方はもう古いですよね、でもこの時代はまだこの考え方があった頃だと思います。現代に学ぶべき学校の本質を突いているので読んでいてワクワクします。ミステリーなのに、その背景の女学校自体がもう面白いのです。
そんな女学校で起こってしまう殺人事件は、学校長を悩ませます。普通なら殺人事件が起こった学校などとんでもないことでつぶれてもおかしくない所ですが、肝がすわっているこのバルストロード校長は考え方が斬新で世間をよく知っていてピンチをチャンスに変える考え方が出来る人に書かれています。この人の魅力にポアロも協力を惜しまないであろう、と想像出来ます。
大人になりきらない女性の、ちょうど微妙な時期を上手く書いています。イギリスの少女は、アジアの女性よりも幼い、と表現しそこが推理の重要な事柄でもあります。多分アジアの女性の方が結婚してしまう時期が早かった頃の名残なのかなと思いますし、とてもその表現はアジア圏でも生活したことがあるアガサならではの表現かなとも思います。
大部分が女学校が舞台ですから、それに伴い、女学生や女性教師いろんな女性の生き方が出てきます。戦後の影響もあり女スパイの話も出てきます。アガサの時代は戦争の背景が色濃く、リアルに女性の仕事としてあったんだろうなと思うのです。作り話でなく、戦争とはそういうものなのかと考えさせられます。

ネタバレちょっとありの紹介
この作品は有名女学校で起こる連続殺事件です。なぜか室内競技場(体育館のようなものでしょう)で殺人が起こることが事件のカギになります。そして、そこへ唯一の男と言って良いのですが男前の庭師が入り込みます。年配の庭師であれば問題はないのですが、女性の園に男前の若い男の庭師というのは怪しさ満点です。この作品の映像化の時は是非ともキャスティングに力を入れていただきたく思います。(これはアガサが映像化の時にお楽しみがあった方がいいと思った為ではなかろうかと思いましたが)
最大のヒントとしたら以前にアガサが書いた『茶色い服の男』のトリックが出てきます。でもそれが分かったからと言って、このミステリーの面白さは変わりませんので、興味がある方は読んでみてはいかがでしょうか。
そして肝心のポアロなのですが、この作品においてはポアロは後半からしかでてきません。ほぼ、女性が主人公と言ってもいいくらい、魅力的な女性陣が出てきます。アガサの脳みそは”女性脳””男性脳”の区別を超えているのかもしれません。女性の身体の一部(膝)に非常に関心があるようで、その表現は他の作品でも出てきます。
ポアロが登場すると驚きの展開とともに一気に解決となります。ここの展開の仕方は非常に面白いなと思います。
殺人事件は陰惨なのですが、それでも精一杯のハッピーエンドを用意しています。ここはアガサの上手いところかなと思います。

ゴルフ場殺人事件

アガサの若々しい作品       ★★★★★
ヘイスティングズの惚れっぽさ度  ★★★★★
ポアロの推理が冴えてる度     ★★★☆☆
警察を出し抜く度         ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度     ★★★☆☆


ネタバレなしの紹介
このお話は、ポアロの第2弾になります
『スタイルズ荘の殺人』でポアロが鮮烈デビューをした次の作品なので、アガサの文章も若々しさに溢れています。
あらすじは
あるとき富豪のルノール氏から南米の仕事上のトラブルで脅迫を受けているとポアロは依頼を受け、この男の家にいくのですが、そのルノール氏の家に行くとすでにその富豪は死んでしまっていたという不本意な始まりです。
しかもゴルフ場のバンカーの穴に入っているという状態で見つかるので”ゴルフ場殺人事件”なのです
家で縛られて生き残っていたエロイーズ夫人の話によると南米からの不審者が2人訪問し、ルノール氏は連れ出されてしまい殺されてしまったらしいのです。
当然事件解明に乗り出すポアロなのですが、よそから来た探偵のポアロを良く思っていない地元警察と確執が生まれます。
ポアロ対地元刑事のジロー刑事との推理合戦もこの小説を面白くさせています。

しかし、そもそも、このお話の最初が
”シンデレラ”と名乗る魅力的な女性が登場し、ヘイスティングズと出会うところからお話が始まるので、なんてロマンチックな恋愛ドラマが始まるんだろうという感じなのです。(もちろんこの女性も事件に大いに関係してきます)
ポアロと訪れたルノアール宅のとなりの美女にも好意を抱きますし、なんてヘイスティングズは惚れっぽいんだろうと思います。なので読み始めた私は戸惑いました。
それくらいヘイスティングズが恋に墜ちる描写が若い感性で書かれていて、あまりに惚れっぽくて推理小説になるんだろうかと心配するくらいです。恋するが故、事件を引っかき回すしポアロの邪魔もしまくります。中学生の初恋じゃあるまいし一体何歳の設定なのかと思うんですが恋愛に歳は関係ないですね。しかし初恋物語かと勘違いしそうです。
でもちゃんと推理小説になっています。

ネタバレちょっとあり
この作品の面白いところは、南米から来たと思われる人物が犯人らしく単純に思われるけども、そう単純ではないところです。複雑に丁寧に過去に起こった事件との絡みを旨く組み合わせているところです。コレはちょっと難しいなと思う事件です。
そしてエロイーズ夫人とおとなりのドーブルーユ夫人が事件のカギですがどちらも強い特徴があります。
男を愛し、そしてお金を愛する女性。両方欲しいのが人間なんでしょうけどもなかなか割り切れるモノではないと思うのです。
結局は愛の為に罪を犯し自分の欲望のために犯罪に手を染めるのですが、どっちがどっちとは言えませんが、どちらの女性も強いです。それだけは言っておきます。
ポアロの推理は冴えています。ただ時代的に可能な犯罪なだけで、現代では通用しない犯罪かなと思います。その辺は推理小説と割り切って楽しみたいと思います。

ところでゴルフ場で死体が見つかっただけで、特にゴルフをするシーンとかでてきません。
そもそもポアロはゴルフが嫌いなんじゃないでしょうか?(言い過ぎかも)ゴルフに関して全く関心ある描写がありません。ヘイスティングズはたしなむようですが。
そしてアガサの小説は題名が凝っているイメージがあると思うのですが、この『ゴルフ場殺人事件』は『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』に比べれば印象は残らないですね。それが残念と言えばそこだけ残念な作品です。
この小説のヘイスティングズの描き方を見て、アガサはこの段階ではまだ名探偵ポアロをシリーズ化にするつもりはなかったんじゃないかとさえ思います。

ポアロのクリスマス

クリスマスアドベントカレンダーのような作品   ★★★★☆
アガサのクリスマスは陰と陽、度          ★★★☆☆
内容は血に飢えたクリスマス度          ★★★★★ 
クズ男がモテるのは何故なんだ度         ★★★★★
無人島にもっていきたい度            ★★☆☆☆


ネタバレなしの紹介
人気作家であるアガサクリスティーの作品は出版社が『クリスマスにはアガサを』とキャッチフレーズにしてキャンペーンをしていたのは有名な話ですね。売るための出版社なりの作戦だったのでしょうが、それだけ楽しみにしていた読者のファンがいたということでしょう。そのための新作を出し続けるアガサも相当凄いと思います。
今回紹介するのは、そのキャンペーにのっとって書いたズバリ『ポアロのクリスマス』という作品です。
クリスマスと言えば、ケーキにツリーにリース、ご馳走の数々など明るいお祭りのように思う人も多いかもしれません。
実際、アガサもイギリスらしいクリスマス、プティング等のご馳走が大好きで『クリスマスプティングの冒険』では思う存分ご馳走を登場させて明るいクリスマスの作品を書いています。
しかし今回の『ポアロのクリスマス』は全く違います。
『クリスマスプティングの冒険』が陽だとすると『ポアロのクリスマス』は陰といったところでしょう。
何しろ、読者の一人に『もっと血まみれの殺人を書いて欲しい』と言われて奮起して書いているのですから、始末が悪い!
(とても誉めています)
実際には12月22日から28日までの7日間の話になりますが、犯罪が起こる前の22日はこんなことがあった、23日は、というようにアドベントカレンダーをなぞるように始まります。作品事件が起こるのはクリスマスイブの24日、犯人が分かるのが27日、エンディングが28日、つまりポアロの灰色の脳細胞に掛かればクリスマスイブに事件が起ころうとも年内に解決してしまうのです。
殺されるのはお金持ちの老人、若い頃から散々女を(男も)泣かせてきた良心の欠片もない老人になったシメオン・リーという男です。
でもなぜ、こんなクズのような男が女に好かれるのでしょうか、私にとっては全く不思議でしかないのです。顔がイイとだけは描いてありますけど、中味はクズです。(何回言うのだろう)そしてクズがお金を持つとさらにタチが悪いし女好き、、、、となればまあ、殺されても仕方ないか!と思える人物に書かれています。
だからこそ血まみれになって殺害された時、マクベスの台詞『あの年寄りが、あんなにたくさんの血をもっていると誰が考えただろう』を登場人物に言わせて人間の愚かさを全面に出しているのかもしれません。

ネタバレちょっとあり
イギリスのクリスマスは、日本で言うところの『お盆』や『お正月』の行事と同じような感覚ではないでしょうか。
疎遠になってる家族、親戚等がクリスマスだから、と言って集まる口実がそこにあります。
当然、犯人は集まった親戚家族の中にいるわけですが、そんなクリスマスだからこその事件と言って良いでしょう。どうしてこんな話を思い付くのか、いつもながらびっくりします。私は最後まで犯人を見抜けませんでした!
なにしろアガサはびっくりする仕掛けを考えているし、タネを全部見せているようで、見せてない上手い書き方をしています。恋愛もからめて結局はハッピーエンドにするところもクリスマスのお慈悲と言ったところでしょうか。
ここでのクリスマスはイギリスの良きクリスマスではありません。『クリスマスプティングの冒険』ではクリスマスの良さを沢山書いているのに、ここではクリスマスを否定するかのような扱いです。アガサに何があったのでしょう、と思わずにいられません。そんなアガサの気持ちも想像しながら読んでみるのも良いかもしれません。
無人島にもって行くにはちょっと好みじゃないので★は少なめですが、だまされることは必須の良い作品です。



葬儀を終えて


斬新な切り口のミステリー度  ★★★★☆
人物のユニークな描写度    ★★★☆☆
遺産相続への興味惹かれる度  ★★★☆☆
犯人への共感度        ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度   ★☆☆☆☆

ネタばれなしの紹介
お葬式が終わるところからこの作品は始まります。
亡くなったのは薬で財をもうけたお金持ちのリチャードです。
唯一の子どもは先に亡くなっているので、遺産は兄弟姉妹、親戚などリチャードが残した遺言書にならって分けることになります。

何も不審な点がなかったリチャードの死ですが
葬儀に出席した妹コーラの『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』の一言ですべてがひっくり返ります。
コーラは昔から天真爛漫な性格で言って良いことと悪いことの区別がつかない所があり、皆が隠したがる秘密を言い当てるような所も多分にあったため、葬儀に集まった皆はその言葉の真意を計り知れないまま家路につくことになります。
そしてその言葉を言い放ったコーラは家に帰った後、誰かの手によって惨殺されるのです。
コーラがあきらかに他殺であることにより、コーラが言い残した『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』の戯れ言がクローズアップされてきます。

葬儀に居合わせ、そのコーラの一言を聞いた全員に疑いかかかるのも無理はありません。
もしくは全然関係のない殺人なのか?
遺産相続の泥沼な争いもからめて、殺人の動機は誰にでも充分にあるのです。
ポアロは遺産管理者の一人に依頼されて真相を探ることになります。

ネタバレちょっとありの感想
遺産相続は自分にとってはまだあんまりピンと来てないので、アガサクリスティーの小説に出てくると本当に他人事なんです。ですから楽しんで読める、と言うのもあるのかもしれません。
そういう意味で私は楽しめました。
後はコーラという人の人物描写が絶妙です。最初の被害者であるコーラの描写が一番重要だからです。
コーラが『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』と言ったのでなければ、ここまで事件にならず問題にならなかったでしょう。しかし、このコーラは残念ながら兄弟姉妹親戚共に好かれてはいない、疎遠な関係であることを冒頭にアガサは上手に書き示しています。本当に上手い書き方だな、と思います。それによって読み手も真実はどうだったのかと好奇心が止まらなくなります。
犯人は私にとっては意外ではなかったのですが、動機が全く分からなかった作品です。
人によっては、犯人に対して全く共感をしないでしょう。しかし、私は同情はしないけど、共感は出来ました。動機に対してではなくて、コーラ(に似てるタイプと接する)に対しての感情も心の奥底にあったのかなと、ちょっと感じたりしたのです。誤解されると悲しいので、いつか完全ネタバレも書くつもりでいるので、その時にその感情は書きたいなと思っています。
そして一点、この作品の中に、他の作品の重要なシュチュエーションを彷彿とさせる場面が出てきます。コレは私だけが感じることかもしれませんが”多分コレはアノ作品のアノ場面にしてるな”と思う部分があります。ネタバレのなる可能性があるので、ここでは言いたいけど言いません。ヒントはこの作品以降に書かれる作品の中にあります。読まれる方は、そこの所も感じながら読んでみるのも面白いかもしれません。

作品順についてはこちらを参考にしてみてください↓

エッジウェア卿の死

ポアロがだまされる度    ★★★★☆
犯人に同情できない度    ★★★★★
女優の華やかさ度      ★★★★★
無人島に持ってきたい度   ★☆☆☆☆

ネタばれなしの紹介
この作品は読み始めからドラマティックです
華やかなショービジネスが舞台、美男美女が出てきますし何しろポアロの友人のヘイスティングズが最初に”ある非常に魅力的な一女性の心からの願いを実現することにもなる”などと思わせぶりに読み手を誘うからです

この頃のショービジネスの風景も今と変わりがないようで、結婚離婚の繰り返しで世間を賑やかすのは定番
そこにはお金とスキャンダルがてんこ盛りです
そんな中、よりによってポアロに離婚問題の解決を依頼する美人女優が出てくるのです
それがエッジウェア卿の奥様、ジェーン・ウィルキンスンなのです
エッジウェア卿は大金持ち、しかし性格に難ありで有名なひとなのですが前の夫人ともすったもんだでなかなか離婚に応じなかった過去があります
それが分かっていながら、その問題のエッジウェア卿と結婚するなんて女優っておかしな生き物ですねっと凡人の私などは思うのですが、大金持ちというのは変人を魅力的に魅せるものですから何回も問題おこしつつ結婚しちゃうわけです(だろうと思われます)
なので簡単にはいかない離婚に応じるように説得して欲しいとポアロにお願いするのも分からないではないのですが、そもそもポアロがやることがない案件です
自ら面白いと思う事件しか引き受けないポアロも強引な女優に無理やりその離婚問題を引き受けさせられますが
どちらかというと、ヘイスティングズがその女優のファンだったから、と言うのが理由ではないかと思います
ヘイスティングズは女性に弱いんだなと毎回思いますが、今回もその傾向は顕著です

とにかくその離婚問題が事件の発端になりますが離婚問題はあっけなく解決します
さすがポアロ!と言いたくなりますが別にポアロの手柄ではありません
ポアロが離婚問題に着手する前にエッジウェア卿はすでに離婚に応じていたというのです
そこもこの作品を惑わせるひとつの要因です
ウソをついているのは夫か夫人かどっちなのか?どちらもだまされているのか?
題名通りポアロが会ったその後にエッジウェア卿が殺されて亡くなるので、いうなればポアロは無理やり事件に巻き込まさせられたと言っていいと思います

離婚したい理由が、他の男と結婚したいからと言ってのけていた夫人の女優ジェーンは限りなく怪しい
しかし、完璧なアリバイがある
犯人は今の夫人と結婚したい新しい男なのか、前の夫人との間に出来た娘なのか、それとも?
一体エッジウェア卿を殺したのは誰なのか?
事件はどのように解決出来るのか?そんな作品です


アガサの作品にはいくつか女優が出てくる作品があります

女優ってこういう生き物でしょって言わんばかりのアガサの表現の面白さがそこにあります
例えば『鏡は横にひび割れて』なども女優が登場しますが(この作品はエリザベステイラーが演じられていた事もあります)こちらの女優はまたちがう表現をされてます
沢山の女優さんの表現がある中で自分がどんなに魅力的か分かっている女優のエゴイストの表現は上手いなと思います
そして同時に芸術として賞賛される女優も出てきたりします
今作ではカーロッタ・アダムズという女優の存在が面白いです
とても面白いなと思います
それだけでも読む価値はあるかもしれません

それをふまえた上で、
この『エッジウェア卿の死』重要人物の女優がちょっと大げさな描写かなと思いますし(そこが面白いと言えば面白いけれども)そこは置いといても、今作のポアロの推理はちょっと冴えが良くない気がするんです。ヘイスティングズの気に入った女性への盲目度は半端ないですし。(アガサはわざとでしょうが)そんなわけでこの作品が好きですか?と聞かれれば 私はあんまり好きではありませんと答えますがこの作品を面白いか、と言われれば、面白いと答えるでしょう
矛盾するかも知れませんが、そんなわけで無人島までは持っていかない本ではあるんですけど単純に見えて複雑な事件にしている、あり得ない設定のそんな作品とだけ言っておきます







茶色の服の男

アガサの作品の中で一番アクティブな女性が出てくる度 ★★★★★
勇気がもらえる度                  ★★★★★
冒険を忘れた人に読んで欲しい度           ★★★☆☆
ミステリー度                    ★★☆☆☆
無人島に持っていきたい度              ★★☆☆☆

ネタばれなしの紹介
この作品は、探偵物ではありません。ポアロもマープルもアガサクリスティーの作品で有名な探偵が出てきません。
たった一人の女の子が冒険を繰り広げる物語です。
言うなれば、冒険活劇というジャンルに近いかもしれません。
そういうとミステリーでは無いように思いますが、それが絶妙に推理小説となり得るギリギリのところで書いてある作品なのです。

偶然にあるショッキングな列車事故(と言っておきます)に遭遇しそれが殺人と絡むことで始まることになりますが、そもそも主人公のアンが、若き女性でたった一人の身内の父親が亡くなったことから始まります。
父親が死んで天涯孤独でしょんぼりしてるかと思うとそうではありません。自由になったとばかり孤独な少女が一人で羽ばたくのです。少しばかり残してくれた遺産を手に向こう見ずで自信家で、、、自分の若さを肯定しているこの少女には驚くほど行動力だけがあります。逆に言えば、一人の少女に行動力を起こさせる事に矛盾を感じさせない工夫をアガサクリスティーはしていますし、そのアイデアは一体どこから思い付くのだろうと思います。

それにしても『茶色の服の男』という題名は、私には本の中身を考えると随分”らしくない”題名だなと思います。アガサクリスティーと言えば、『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』『カーテン』などちょっと凝った感じの題名を付け、読んだ後に”ああ、そうか”と思う物が多いのですが、この『茶色の服の男』は、本の中身のアクティブさ冒険活劇の様子を考えると思ったよりおとなしい題だなあと今でも思います。実際、この題名のせいで私はアガサの作品の中でも随分遅くに読むことになりました。茶色の服の男って言われても、全然ときめかない題名だなあと今でも思います。あくまでも私の感性なので、申し訳ありません。でも、読んでみると内容は素晴らしくアグレッシブで冒険、スリル、恋愛、ゴージャスな内容でした。
『茶色の服の男』なんてたいしたことないのでは?と思ってた私はまんまと裏切られました。

映画化してみたら面白い作品だなと思いますね。主人公の女の子がとてもチャーミングに書かれているので足が奇麗な女優さんに是非演じていただきたい、なんて思います。(何故足が奇麗と言うのかは、是非本を読んでいただきたいと思います)
もっともアガサは自分の作品が映画化されることがあまり好きではなかったと聞いていますが。
そして 女の子というのはどうして危険な男に惹かれてしまうのでしょうか
アガサは恋にのめり込む若さも危険も充分に書き分けていて、冒険シーンもさることながら本当に若々しい作品となっています

そしてこの作品は後にポアロの推理小説のヒントとなる事柄というか仕掛けが出てくるそうなのですが、アガサファンでポアロファンならその作品がどれかというのはすぐ分かるでしょう!
自慢じゃないですが、私はすぐに分かりました
皆様も、どの作品がそうなのか挑戦して読んでみてはいかがでしょうか

    

娘は娘

探偵モノではないが気になる一冊度    ★★★★☆
娘を持つ人が読んでおきたい度      ★★★★★
成長するって時間がかかる度       ★★★★★
アガサの男女感がわかる度        ★★★★☆
アガサはこういう本もいい度       ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度        ☆☆☆☆☆

アガサクリスティーと言えば『ポアロ』や『ミスマープル』など探偵が出てくるミステリーが有名でしょう!
しかしこの作品は探偵モノではありません
私も、アガサが推理もの以外の小説を書いていることは、かなりの探偵小説を読んでから知りました
アガサの別の名のメアリ・ウエストマコットで書かれた探偵もの以外の作品です
なので、アガサクリスティーの探偵作品のファンには戸惑いの一冊かもしれません。
しかし『春にして君を離れ』を読んでその世界を理解した後の私には読みたいなという気にさせました。
(詳しくは『春にして君を離れ』のところをご覧ください)
簡単にいうなら人間ドラマです
例えるなら日本のドラマで言うなら『渡る世間は鬼ばかり』の親子版という感じでしょうか
(ざっくり言うと)

最初は深い愛をもつ典型的な母に焦点があります
娘の幸せだけを願う母、盲目的かと思えるほどに娘に服従し、娘は自分ではそうとは分からず母に依存している関係です
娘の身体が大きくなるにつれ、しかし心はまだ身体に追いつかないアンバランスな状態も良く書かれています。
ひとつ思うのは、母親もこういう大人になりかけの娘を育てるのは初めての事だということ。母親自身が無事に大人になったという経験はありますが、娘が大人になるということは全く別の話なのだとこの作品を読んで分かりました。
まず母がシングルマザーであり、新しい恋に生きようとする可能性、自由があるということ
この母親に新しい恋人が出来る設定もよくあるようで、現実にはとても難しい問題があることもある程度想像がつくでしょう
この作品では娘が子どもであることの武器を総動員して母の幸せを阻止するのです

子どもの気持ちは『お母さんの為を思って』なのであるから、一番始末が悪い
『あんな男と結婚したらお母さんは不幸になる』と、母の恋人の欠点だけをことさら大きく宣伝し娘自ら思い込み
母の恋人は敵であるから、全力で攻撃をしまくるのである
ある意味それは正しい
なぜなら、完璧な人などいないから、娘が”この人のここはダメだと思う”は正しいのである
一方、母は大人であるから人は誰も完璧ではないことを知っている。
恋をするとは結婚するとは、夫婦になるということは
完璧な人同士だから幸せになるとは限らないということも知っている
結局は娘の幼さ故、母の愛を独占したいためということも分かりながら、母親は自分の幸せを”娘の為に”苦しくてたまらないのに手放すのである

そういうわけで。。。。
結果的には、相手の幸せを願ったはずなのにそれが相手の幸せにならない愚かさを実に巧妙に書いています
何が言いたいかというと、この作品には人生の滑稽さと未熟さと犠牲の醜さを書いていると言えるのではないだろうか
傍から見たら、冷静に判断できるが(この作品を読んだ後の自分というのもあるが)
もし、当事者であったなら、きっと自分も”何かに負けて”この母のように、犠牲の愚かさ”を選択するのであろうとも思った
小説の中の母は恋人と娘の二択を迫られて、娘のことを取る構図となっているが、結局はこの母は、その時どっちを選んでも悩み苦しい結果になっただろうとは思う。そういう人であろうから。
小説のように娘を選んだ母の立場で物を言うなら、他人から観た自分も意識したり、娘に恩を売る気持ちがあったかもしれない。
でも『誰かの為の犠牲』と自分が思っている限り自分の幸せもない(なかなかそれに気がつかないけど)

これが他人なら違う感想もあるかもしれないが、母娘なので、他の人間関係よりは干渉せざるえないことも『娘は娘』の題に表されているかもしれない。(ちなみに『母と息子』だとこうはならない、絶対に違う。)
作品の後半はそんな母娘の対決になるのですが、そこが唯一謎解きのようにスカッとさせます

そんなわけで、読み応えある一冊ではありますが、私が無人島にもって行くには湿っぽいし、無人島に行ってまで親子関係の謎解きはもうイイかな、と思うので、持っていきたい気持ちはありません(ばっさり)でも、良い作品ですよ!
親子を取り巻く人物がほんとうに面白い。腐れ縁的な悪友もそう、ばあや的なお手伝いさんもすばらしい。
読む人の立場によって感想も違ってくるであろうと思います
でも、声を大にして言いたいですが、ミステリーとしての謎解きはなくとも小説としてとても良い小説です


  

象は忘れない

アガサファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
ポアロファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
大逆転度                ★★☆☆☆
無人島に持ってきたい度         ★★★☆☆ 

実は私が一番最後に紹介したかった作品です
なぜならアガサが書いたポアロものの本当に最後の作品だからです
チョット詳しい方ならポアロの最後の作品と言ったら『カーテン』じゃないのって言われるかも知れません
アガサの死後に発表するよう遺言され、その通りに世間に発表された作品は確かに『カーテン』です
詳しくはいつか「カーテン」を紹介したときにしたいと思いますが、とにかく実際にポアロもので「カーテン」後に書かれたのはこの『象は忘れない』なのです
なので、作中に昔に解いてきた、過去に遡って解決する『5匹の子豚』とか『ひらいたトランプ』とか他にもそんな作品名が出てきて、読みながらああ、本当にコレはアガサのポアロの最後の作品なのかとしみじみ思います
(今回紹介に至ったのは、世界情勢でのいろいろや災害いろんなことが起こるので、明日を後悔しないように、紹介したい作品を早めにしておこうと思った次第です、、、おおげさですけどね!)

過去の事件を掘り起こして真相にたどり着くポアロお得意の回顧推理ストーリーです
過去の事件自体は悲惨で悲しいのですが作品の構成はとても粋な作品です
ポアロの友人小説家のオリヴァが受けた依頼が発端で、過去の事件の真相を暴いていきますがオリヴァ自身もあちこち話を聞きに行く活躍ぶりです
その報告をもとにポアロは順序立て、真相を組み立てていきます
友人で小説家のオリヴァは、売れっ子でまるでアガサの分身のようです
有名人としてパーティーに呼ばれて行くことの滑稽さや“ファンです”と言われることの苦痛なども書いていて、この作品はその気の進まない催しの描写などから始まります
アガサもそんな気の進まないパーティーに出ていたのかもと思ったりして面白いです
この本の題名”象は忘れない”は”象は決して過去の事を忘れない”親切にしてくれた人の顔も、危害を加えた人の事も全て覚えている、その象の特性をアガサ自身も気に入っていたのでしょう
関係者の過去を思い出を『象』と名付けて“象をさがしに言ってくるわ”とオリヴァに言わせながらユーモアにして捜査に出かけていくことから題名が付いています
頻繁に”象”という言葉が出てきますが実際に本物の象は出てきません

トリックとしては、難しくはないです。今となってはミステリー好きなら思い付くネタかもと思わないでもないですし、トリックというよりは人間関係、動機は何かという謎解きになると思います。ちょっと感傷的な作品です
なので自分としては無人島まではもって行くにはちょっと湿っぽいなという感じです
いつも強気なポアロが自分はすでに過去の探偵なんだと自覚しているようなシーンもあって切ないです
自分の灰色の脳細胞に絶対的な自信のある傲慢気味なポアロがですよ?今まであり得なかった事です
対比として未来に生きる若い人間のたくましさを書いているのも、アガサ的に最後のポアロ作品『カーテン』の後の作品らしいと言えばらしいです。
作品の中に重要なアイテムの住所録が出て来るのですが、その年代別の住所録の年代のままに作品も書かれているのを知った時、直接事件のトリックとは関係ないですがアガサが生きていた時代をリアルに感じることが出来て興味深いと思います
最後のオリヴァの台詞を読み終えたとき、アガサはこの一言が最後にいいたかったのかなとハッとします

作品のあらすじ
小説家のオリヴァはあるパーティーの最中、一人の女性に頼み事をされます
以前オリヴァが名付け親になった女性がうちの息子と結婚する予定だが、その女性の親が過去に謎の心中事件を起こしている。男親の方が母親を殺してから自殺したのか、または逆なのかまたは第3者の殺しの可能性があるのか、それによっては息子の結婚に賛成しかねる、そんな内容です。オリヴァにとったら、過去何人もの名付け親になってるうち一人のことだし、いきなりそんなこと言われたって“いい迷惑”でございます。しかしまるっきり無視も出来ないので、そのパーティーの帰りに、早速ポアロの家に押しかけ(事前に電話するだけマシ)“こんなこと頼まれたのよ!過去の事件を調べるのあなた得意でしょう!”てな具合でまくし立て、ポアロに協力させるのです。遠慮なんてオリヴァに存在しません
ポアロは、その時にはすでに引退状態で、引き受けるギリなんてありませんが、オリヴァはポアロを上手に使うすべを知っています。そんなわけで引き受けたポアロとオリヴァは事件の真相に迫っていくのです

オリヴァに依頼してきた女性にも、秘密があり、ただ息子を心配するだけじゃない”何か”もあぶり出します
依頼主はそこまで暴かれたくなかったでしょうが、ポアロはお構いなしです。
とにかく関係者からの聞き取り、噂話の収集から始まります。過去の話ということもあり、聞く人によって事件の見方が違うことや、同じ家族の印象も違うので、何が本当か分からなくなってきます。それでも、地道に過去の思い出を聞き取りに旅に出るオリヴァとポアロがいて、些細なこと、例えば飼っている犬のことやかつらのことなどから真相が解かれたとき、なるほどなあ、、、と思います