ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴としては意味のないとおもわれる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては面白くないのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、不可解なものがなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかり。そこにポアロは縁あって様子を見に行くのですが(なぜかシェアハウスでなくなったはずの靴の片方を携えて。そこもすばらしい演出)、この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放つのです。まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さが増してくるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多く個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからはネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一苦手なのは人間についての興味がないって事。そのミス・レモンに実は姉がいて、ある寮というかシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大変おかしい。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、犯罪には無関係でした。そのオーナー、ニコレティス夫人も犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それでかえって、犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたとき女優さんは誰がいいかな、なんて思う作品で好きですね。

ビッグ4

ポアロとヘイスティングズの友情度  ★★★★☆
他のポアロの探偵小説にはない感じ度 ★★★★☆
あくまで個人的にあわない度     ★★★★★
別の探偵の話なら良いかもしれない  ★★★★☆
無人島に持っていきたい度      ☆☆☆☆☆

本当にこれをアガサが描いたのだろうか?ポアロを主人公にして?というくらい他の作品とテイストが違います。
この作品はアガサの名前を爆発的に(と私は思ってます)世に知らしめた名作(迷作)の『アクロイド殺し』を発表したすぐ後の作品なのです。推理小説界を騒然とさせたすぐ後の作品なので、期待も大きかったと思います。ポアロの作品は、最初の『スタイルズ荘の怪事件』を発表、その後の『秘密機関』とこの『ビッグ4』は少し似ています。本当はこういうスパイを追う的な作品を書きたかったのでしょうか?と思うのですが、間に発表された『ゴルフ場殺人事件』はまた違うテイストで、こっちの方が自分は好みなんですよね。(個人的な好みですみません)
個人的な感想なので、申し訳ないですが、アガサ好きの自分がこの作品は途中で眠気が襲うくらいに、読み終わるのに苦労しました。(ひどい)数年たって、また再度読みました。最初読んだときは自分も幼かったですからね!しかし、やはり再度チャレンジしても読むのにつらいという感情がひしひしと。そして今回、また読み直しましたがやっぱり全然進まない。他の探偵が主人公ならば面白かったかもしれません。
敢えて言うならポアロに冒険とスパイ活劇をさせたかった、そういうことなのだろうと理解します。
東洋のギャングのビッグ4の存在を追う話です。らしくない、灰色の頭脳を使うポアロらしくないんです!(個人的見解)

ネタバレなしの紹介
ヘイスティングズは長年ポアロから離れた暮らしを堪能し、残りの人生を久しぶりに旧友のポアロのもとで過ごそうと思いたち、感動の再開をします。しかし再開したとたん、その矢先に怪しげな男がやってきて、息も絶え絶え倒れ込みます。ある策略によって、ポアロたちがその男から目を離した途端にその男は死を遂げる。そこからはポアロの謎のギャングビッグ4を追い詰め、逆に追い詰められ、という冒険が始まるのです。読者を裏切る仕掛けもあるし、なによりポアロが大変にアクティブで、あっちゃこっちゃ行きます。中国系のマフィア的な”ビッグ4”の首領リー・チャン・エン人物を追い詰めるのですが、、、、という話です。ポアロとヘイスティングズとの友情の証みたいなエピソードも満載だから、それも書きたかったのかなあと思わないでもないです。とにかく、いつものポアロの推理小説とは一味違うテイストな作品だと言うことはお伝えしたいです。(個人的意見です)こういうポアロの一面もあるんだなと思える作品ではあります。無人島に持って聞きたい度が★ゼロなのは、ギャングとの冒険活劇なので、無人島では真逆な感じですごく疲れるかなっていうのと完全に好みの問題です。


スタイルズ荘の怪事件

犯人が一転二転三転する度       ★★★★★
アガサの才能は最初からすごい度    ★★★★☆
ポアロつかみはOK 度          ★★★★★
ヘイティングスおちゃめ度       ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★☆☆☆ 

アガサの記念すべき推理小説一作目です。
アガサ自身が長く付き合うことになる名探偵ポアロがすでにここでで登場します。
その次に有名なヘイスティングズももちろん出てきます。
ヘイスティングズポアロの友人であり、推理の中で大事なポアロの相棒となります。
この2人の性格と関係性がこの作品を面白くしています。
トリックも、この当時の時代だから成立すると言うこともありますが、看護師の経験があるアガサならではの知識があってこそのしっかりとした小説になってます。


ネタバレなしの紹介

簡単に事件を説明すると

”スタイルズ地方の地主の
奉仕活動家女主人殺人事件”

といったところでしょうか!


傷病兵として休暇中のヘイスティングズが旧友の勧めで実家のあるスタイルズ荘に招かれ、ゆっくりすごそうかと思った矢先に旧友の継母である女主人が毒殺されてしまう。
その犯人探しになりますが、誰もが遺産を巡って動機があって怪しい。


読み進めていくと、一転二転して新しい事実がでてくるわ、遺言状は何枚も出てくるし、誰かが誰かをかばい
ややこしくするし、いったい誰が犯人か、てんやわんやします。


後妻業ならぬ、後夫業的な要素もアリ、不倫もあり、ワイドショーのネタ満載です。殺された女主人にお世話になったことがあるポアロもスタイルズ地方を訪れており、必然的に事件解決に乗り出すのです。


ヘイスティングズの独り言にヒントがあったりしますが
基本ポアロの推理のすごさを助長させるだけだったりします
最初から、ヘイスティングズの性格が固まってる
(女性の好みとか惚れっぽいとか)ので何回も同シリーズを読んでる私は、最初からヘイスティングズはこんなに惚れっぽいんだ、若いなあってニヤってするところもあります。
ポアロを登場させたこの時からアガサは続きものを書くつもりがあったかどうかは分からないですが(続き物を書く気はなかったと聞いたことがあります)

推理ものとしてとても面白い作品ですが、私的には登場人物、特に殺された女主人に自分は共感を持てないし魅力を感じないので(失礼だな)あんまり好きな作品ではないんです。
私が無人島に持っていく本としては、他のポアロ作品が私は大好きすぎるのです。あくまでも個人的な理由なので★少なめですが、面白い推理小説の1つであることに変わりありません。

ポケットにライ麦を

読んでソンはない度   ★★★★★
トリックがすごい度   ★★☆☆☆
ワイドショー度     ★★★★★
マープルの魅力爆発度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度★★★☆☆


ミス・マープルが出てくる話です
”ポケットにライ麦を”なんて、かわいい題がついていますが、これは童謡の歌詞の一説です。アガサの作品でマザーグースの歌になぞらえた殺人事件の話『そして誰もいなくなった』がありますが、これも、童謡になぞらえた殺人になります。
牧歌的な歌詞と陰惨な殺人のミスマッチはアガサの得意な分野ですね。
探偵小説というよりミステリーというより最初はワイドショーを見てるような感じがします。ネタバレぎりぎりで言うと
4ページ目で死体が出ます!早いです、展開が早い。金髪の美人秘書、お金持ちの家、会社の社長、お金目当ての後妻、後継者争い、という2時間サスペンスに出てくるようなラインナップ!面白くないわけがありません。
マープルの話といいつつ、マープルが出てくるのは中盤を過ぎてからで、満を持しての登場となりますが、その登場もまたカッコいいのです。

ネタバレなしの紹介


ミスマープル、
今回は犯人に対して最大級の怒りが爆発します!
出社したばかりの大企業の社長がお茶を飲んだとたん死んでしまう。ポケットには何故かライ麦が入っている。若い不倫中の後妻はいるし、息子は罵倒されたばかりだし、怪しいのは家族か身内かに思える。警察が調べているうちに第2、第3の殺人がおきてしまう。詳しくは言えないが、その関係者にマープルの知り合いがいて、事件に自ら乗り出してくるのだが、それは本の中盤過ぎてから。それまでは事件のフォステキュー家に住む人物紹介や使用人の紹介などが興味深く書かれていますし、事件のヒントももちろん書かれています。そしてマープルが出場してからがまた事件の様子が違ってきます。人生経験、それはAIではなかなか測れないもの。そう、マープルのおしゃべりのテンポ、抑揚によって人間の本質を見抜くことは、その辺にいる刑事でも、警部でもできません。そういった意味でもおもしろい。そして、犯人のどうしようもない腐った根性、しかしそんな犯人も人間であり愛というものを知っているのです。現代とは科学的な証拠もそろいにくい時代のミステリーですが、看護師として働いてきたアガサの知識にも裏付けがあって、説得力もあるし、おばあちゃんの知恵袋的な事もふくめ、読んで良かったなと思えます。

黄色いアイリス短編集

いろんな探偵ものが読める度★★★★★
アガサの原点かもしれない度★★★★☆
ドラマにしたい度     ★★★★☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★☆ 

表題にある『黄色いアイリス』の入った短編集です
9つの短編が収められており、ポアロもの、マープルもの、パーカーパインもの、有名な探偵は出ない話など、混合したバラエティーに富んだ短編集となっています。それはまるでフランス料理の重厚なフルコースというよりは、インドネシアのワンディッシュランチのような楽しさとユニークさです。一つのお皿にナシゴレンやサティやミーゴレン色鮮やかに辛いも甘いも乗っているようなそんなイメージをして頂いたらいいかもしれません。
この短編集の中には長編の原型ではないかと思われる作品がいくつかあります。『黄色いアイリス』が『忘られぬ死』の原型ではないかというのは有名な話ですが、それ以外にもいくつかある気がします。これは私だけが思うのかもしれません。是非、読んだ皆様がどう思われるか聞きたいところです。
特殊なのは『帆の暗い鏡の中に』です。有名な探偵が出てこない、不思議な話となっています。不気味な夢を見た気持ちになります。アガサは愛の側面、つまり甘いだけではないという事をこんな風に表現するんだなと思ったのです。アガサを語る時にこれは読んでた方がいい1つかもしれないと思う作品です。


ネタバレなしの紹介


レガッタ・デーの事件★☆☆
パーカー・パインの話。単純にいうと目の前でダイヤがきれいさっぱりに消えてしまう話。そこにいる誰もに身体検査をするのに、出てこない、、、。これは、やはり何かの長編の原型とまではいきませんが、どっかで既視感の有る感じです。なんの作品の元になってるのか今後、どこかで紹介する長編ではっきりするかも!(今はまだいいません)


バクダッドの大櫃(おおびつ)の謎★★★
ポアロの話。週刊誌ネタのような”バクダッドの大櫃の謎”という新聞の記事から始まる。異国情緒あふれる飾りのついた(たぶん当時はインテリアとしても使われてたのではなかろうか?)大櫃から大量の血がにじんでいた、その中にはなんと一人の男の死体が!という血生臭い話なのであるが、登場人物の三角関係にメロドラマを思わせる設定です。読んでるだけで、鮮やかな異国の飾りのある大櫃の舞台装置が頭の中で作り出されます。そして、ファアムファタルの存在なくしてはこの作品は意味を成しません!(男性にとって運命、もしくは破滅させる女性の存在)
『スペイン櫃の秘密』とほぼ同じ話です。(『クリスマスプティングの冒険』短編集に収録)


あなたの庭はどんな庭?★★☆
ポアロに切羽詰まった依頼の手紙が届くことから始まる。ポアロは依頼を受ける手紙を出すのであるが着くかつかないかで、実は依頼主が亡くなってしまう。依頼主が亡くなったので依頼の話はなかったことに、という断りの手紙が届くのにも関わらずポアロはいけしゃあしゃあとその家庭に乗り込んで謎を解いていくという話。しかし、理不尽な”死”に対してポアロは容赦しません。

ポリェンサ海岸の事件★☆☆
パーカー・パインのお話。ポアロが刑事事件を取り扱うとするならば、パーカー・パインはどちらかというと民事事件を扱う探偵といったところでしょうか。今、現在不幸な依頼者を幸せに導く探偵です。今回は海辺のリゾート地を舞台に”ユニークな方法で事件”を解決します。このパーカー・パインものは仲間がいてその仲間が非常に優秀です。どうやったらそんな人材が集まるんでしょう、、、、等と毎回思います。それも含めてユニークな作品です。

黄色いアイリス★★☆
この短編集の表題になってる作品。長編『忘られぬ死』の原型です。これに関していえば前回別に解説していますのでそちらを読んでいただけたら、ありがたいです。ポアロが珍しく妖艶な美女と絡みますよ!と言ったら誤解をさせるかもしれませんね。でもそんなご褒美もたまにはアガサは書くのだなって思います。

ミス・マープルの思い出話★★☆
話を座って聞いてるだけで、事件を論理立てて解決に導く”おばあさん”の話。つまりミス・マープルの話ですが、有罪確定と言われた知り合いの友人を救うのですが、現場に足を運んだりしないで、今までの人生経験と人間観察を武器として真犯人とその方法を導くのです。ネタバレになるので詳しくは書けないですが、男性は服装などに対してあんまり違いを見いだせないんだな、とアガサはそこを歯がゆく思ってたかもしれません。それを逆手に取ったトリックになります。妻殺しの罪で絞首刑確定の容疑者から話を聞くだけで瞬く間に解決するのですからすごい話です。ですからそんなスゴイ思い出話を甥のレイモンドに話す形になりますがそれはシレッと自慢話にもなりますね。町医者と、最先端の大病院の医者との比較をしてる所なんてマープル自身も恥ずかしそうにしてはいますがまんざらでもなさそうです。

仄暗い鏡の中に★★★
この話は有名な探偵が出てこないお話です。しかし、私はこの話に魅力を感じます。不思議だし、ちょっと考えたら不気味で狂気でしかない気もします。改めて読み返すと、、、読み返すたびに妙な何とも言えない怖さがありアガサの違った作品の楽しみ方が出来るのではないでしょうか。

船上の怪事件★☆☆
船の旅を楽しむポアロだったが、そこに事件が、、、という話。このお話はどことなく『アレとアレを組み合わせたような話』だなって思います。設定が『ナイルに死す』ぽいなと思うんです。(”ナイルに死す”を読んで短編を思い出したと以前書いたのですが、このお話でした!)サクッと読めます

二度目のゴング★☆☆
ポアロが依頼を受けて、その館に来てみれば、そのほんの15分前に依頼主が自殺しちゃってるっていうトンでもない話。当然自殺ではありません。お金持ちの家のルールはいろいろあるんでしょうが、ゴングが鳴ったら全員食卓を囲むとか、そういう食事のルールが出てきます。それが事件解決の糸口にもなります。ちなみに受けた依頼の内容は横領事件なのですが、その横領事件も一緒に解決してしまいます。その場合、依頼主は亡くなってるしその分の報酬はもらえるのかな?なんてどうでもいい事を考えてしまう自分です。




黄色いアイリス

ロマンチック度     ★★★★★
だまされるストーリー度 ★★★★★
ドラマにしたい度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度★★☆☆☆ 



黄色いアイリスは短編です
早川文庫短編集『黄色いアイリス』の中の1つ。表題になっている通りこの短編の中でも”代表格”と思われる作品です。
この作品を紹介するのには『忘られぬ死』という長編の存在を無視できません。なぜなら『忘られぬ死』の元となっている作品だからです。
『黄色いアイリス』と『忘られぬ死』短編と長編、違いはありますが、どちらも話の筋は似ています。

ネタバレなしの紹介


ポアロに謎めいた電話が掛かってきてくるところから始まります。ここが非常にドラマチック!まんまと興味を魅かれたポアロは電話で告げられた高級レストランに出かけるのですが、ポアロは探偵としてすでに有名で顔パスでそのレストランに入れるところが素晴らしい。そして、そこでは目印の”黄色いアイリス”が。実は4年前に亡くなった妻の追悼パーティーをしているのだという。そこで、、、、、というお話。
誰が電話を掛けたのか?なにが起こるのか?それをポアロが解いていくのです。読んだ最初の感想としたら”驚かされた!”ですかね。あと、話の筋と直接は関係はありませんが、高級レストランの給仕、もしくは支配人というのはお客様の事をよく見ているってこと!そして記憶力が素晴らしいんだなって思うんです。アガサも実際に良く利用されてたのでしょうね。確かにお得意様がどんなものを召し上がるか、どんなサービスをお望みかデザートのお好みや席の具合など神経を張っていなければお金持ちの常連客を繋ぎとめてはおけないでしょう。カッコいいお仕事だな、とそんなことを思いましたね!
短編なので慣れた方なら5分くらいで読めるんじゃないでしょうか。ポアロ作品の場、長編の方が私は好きなので星は少なめです。

杉の柩

愛憎の表現のロマンチック度 ★★★★★
最後のどんでん返し驚き度  ★★★★★
ポアロの冴えわたり度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度  ★★★★★


個人的に大好きな作品です!
この作品は主人公はポアロでなければ解けない謎ではないかと思われるくらい、依頼人にとって最初から不利な事件なのです。
小説の最初から、エノリアの有罪が漂っています。被告人エノリアは、お金もあり洗練されている聡明な美女です。そこはまず大事なコトになりますね。彼女には幼い時から決められたロディーという婚約者がいるのですが、実はエノリアはこのロディーをめちゃくちゃに愛しているのです。しかし、いよいよ結婚間際と言う時に若い女に心を奪われる愛しい婚約者!メアリー・ゲラードは使用人の娘なのだが、特別に雇い主によって教育もバッチリ受けて性格も可愛く、容姿もカワイイ。そのメアリーに、愛しい婚約者のロディーが奪われるのだ!もしかしたら財産も!エノリアは表面的に冷静さを装うが心の中は激しい嫉妬がうずまく。そんな時にメアリーが殺されるのである。動機もある、機会もある、そして、なによりエノリアには、被害者を殺したいと思う感情が渦巻いたことをアガサは明確に匂わせ書いているのです。そこに、エノリアに恋する男、ピーター・ロード医師の登場!(エノリアは何とも思ってません、何という事でしょう!)ピーター・ロード医師がエノリアのために有名なポアロに無罪を証明してほしいと依頼することで、小説が推理小説となっていくのです。

まさに、愛の三角関係物語!しかし、ここからがすばらしいミステリーの幕が開きます。
最後の謎解きは裁判形式なのも、珍しいです。アガサの看護師時代の知識も出てきます。
ちょっと最後にバタバタとご都合主義の感じもありますけど、それを吹き飛ばすぐらいの説得力はあります(多分)
自分が感銘を受けたのは、愛に関するうんちくの言葉やセリフの数々。
ポアロは一生独身ですが、愛に関して無知ではありません。(と思われます)
最後のポアロが放つ言葉が、特にかっこよく自分は大好きなのです。
読んで損はありません!

ひらいたトランプ

ゾクゾク度        ★★★★★
数回読んで味を占める度  ★★★★★
設定の面白さ度      ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★★★★★
 
これは、エルキュール・ポアロ作品です。
ひらいたトランプというように、トランプのゲームが出てきてきますが、ババ抜きとかじゃないですよ!この作品は日本人にはなじみのないゲームが出てきます。ルールは分からないけれど、登場人物が熱狂している描写が出てくるので、面白いゲームなんだろうな、と思われます。賭け棒とか出てくるし、麻雀に近いかもしれません。もちろん、そのトランプゲームが、事件の大事な要になってきますが、ルールを知らなくとも楽しめる作品です。”こんなトランプゲームがあるんだな”で、いいので、読み進めて下さい。人間の本質をあぶりだしていく、とてもゾクゾクする作品です。自分はとても好きですね、この作品が。

ネタバレなしの紹介

この作品が他と違っているのは、ここに出てくる登場人物は全員、殺人を犯してる事。でも、法の合間をかいくぐって、誰もなんの刑も受けてはいない。え?ネタバレじゃないの?大丈夫です。そんなことではこの作品は語れません。そんな犯罪者たちをコレクションして楽しんでいる”シャイタナ氏”が一番たちが悪いのですが、、、、というお話。ゲームの様子、やり方には人間性が出るということからのアガサの人間観察の鋭さがすばらしいです。定期的に読みたくなる一冊です。最後の最後まで犯人が分からない、読者を裏切らない面白さがあります。私は何回も読んでますが、結末を知っててもやはり面白いです。

火曜クラブ

ミス・マープルが分かる度★★★★★
サクッと読める度    ★★★★☆
無人島に持っていきたい度★★★☆☆



これはミス・マープルの短編集です
安楽椅子探偵として有名な探偵ミス・マープルの短編集といった方が分かりやすいかもしれません。
ミス・マープルというと、アガサの作品の中でも、ポアロと並んで人気の探偵です。最初の登場は、短編でした。
それがこの『火曜クラブ』です。13篇のマープルだらけのお話です。
このブログの中で、”クリスティ短編集Ⅰ”の中の5編と重複しているお話がありますので、それについては割愛しています。

アガサはマープルの事をご自分の祖母に似てると言っています。ポアロよりも、好きな登場人物だったらしいことも。
自分も小学生のころから、ミス・マープルを読んで、人生について、人間性について、柔らかく話すマープルの様子に親しみやすさを感じていました。”さっきから聞いてますとね、誰と村の誰が似ていて、大抵どこでも人間性ってのは変わらないもので、、、あら、網目がここで、、、そうそう、なんのお話だったからかしら、でも本当のところ、さっきの話を聞いていますとね、村のトラウトおばあさんの事を思い出しましたのよ”とそんな感じです。本当に実在のおばあさんがしゃべっているようです。最初は、まどろっこしく聞こえますが最後には鮮やかに謎が解けます。それで、その場にいた人たちがだんだんミス・マープルに一目置くようになり、この火曜クラブを読み終わるころには、大抵の人がマープルのファンになるという訳です。


この『火曜クラブ』というのは、ミス・マープルの甥のレイモンド、その知り合いの警察関係や友人の画家など様々な職業の人々がたまたま、ミス・メープルの家に集まっていたのが火曜日だったことに由来します。余興として”各自が真相を知っている実在の事件をかたり、皆で推理し合うというゲームをするのです。最初は、ミス・マープルの事を皆が”静かなおばあさん”という外見にとらわれて、マープルなしで話を進めようとするのですが、ひとたび推理を始めれば瞬く間に事件の真相を解いてしまうので、みるみる一目置かれるようになります。
アガサの作品ではありませんが、アイザック・アシモフという作家の作品の『黒後家蜘蛛の会』の給仕のヘンリー
もこのような人物です。興味がればそちらも読んでみても面白いかと思います。


ネタバレなしのそれぞれの紹介



※新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複している者については割愛しています。

『火曜クラブ』
新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複”火曜の夜の集い”と同じ話

『アスタルテの祠』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複”アスタ―ティーの神殿”と同じ話

『金塊事件』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複

『舗道の血管』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複

『動機対機会』

新潮文庫のアガサクリスティー短編集Ⅰの中にも重複
ここまでの5編は、以前紹介したアガサクリスティー短編集Ⅰの中に収められていますので、(しつこくてすみません)そちらを参考にしてみてください!

聖ペテロの指のあと
これは、ダイイングメッセージにヒントがあります。そこにマープルが気がつくところが重要なお話。マープル作品ではないですが同じようなダイイングメッセージが重要な作品は他でも見ますね。謎解きとしては英語が得意でなければそもそも解けないかもしれないです。(赤川次郎先生の三毛猫ホームズでも似たような謎解きがありますね)

青いゼラニウム

トリックが重要な作品です。壁紙の花がいつのまにか変化するトリックです。そして思いもかけない犯人が出てきます。

二人の老婆

いかにも、映像化できそうな、ドラマ化できそうな作品です。日本では横溝正史の双子の老婆が出てくるお話が有名かと思いますが、それを思い出さないでもありません。内容はまったく違いますが。男性は、老婆に対して、ひとくくりに見ていて個性をあんまり感じてないんだなとアガサも感じていたようですね。



四人の容疑者

手紙のトリックです。話の本筋は不気味なんですが(詳しくはこれ以上言いませんが)容疑者四人の中で誰がどうなのか?と考えるのが興味深い作品です。


クリスマスの悲劇

このお話はいよいよミス・マープルが出題者となるお話です。マープルの体験談です。事件を語る様子に、そして真相を語る様子に、マープルの性格がよくでている作品だと思います。




毒草

このお話は、語り部が非常に口下手であるという設定になっているので読んでいて、非常にまどろっこしいです。しかしそれで、かえって『火曜クラブ』が実在するかのような気持ちになります。口下手な語り部から少しずつ事実が見えてくる中で、人物像に色がついて、表情が見えて事件の真相にたどり着くという事になりますが、解決に導くのはやはりマープル。人間性を語らせたらミス・マープルにかなう人はいません。そんなお話です。

バンガロー事件

語り部が美女で有名な女優ジェーン・ヘリアのミステリー。『火曜クラブ』の参加者の中で、いろんな意味でざわつくほどの、美女なんですが自分を賢そうに見せようとはちっとも思っていない。誤解されることを覚悟して言うと、”殿方って頭のゆるい美女がお好きでしょ?”って信じて演じてる風でもあります。(ほんとはどうか分からない)このころの女優さんてこういう方が好まれたんでしょうか。作品の中では、”ちょっと今風の男子には受けないわね”的な表現があるので、アガサはその辺のところを書きたかったのかもしれません。アガサの頭の中にはどなたか実在のモデルがいるのかもしれないと、ちょっと勘ぐりましたね。ミステリーの真相は、、、これはネタバレしたらホントに虚しい話なので、とりあえず物は試しで読んでみましょう!

溺死

この話だけは、『火曜クラブ』から派生した、いわば番外編のようなもの。『火曜クラブ』での話ではなく、その集まりで知り合った前警視総監サー・ヘンリー・クリザリングに、ミス・マープルが助けを求める話です。ある事件とも事故とも言えない出来事について、突然ヘンリーのもとに、マープルが訪れて”犯人はこの紙に書いてあります、どうかお確かめを”というのです。”こんなおばあさんが突然言ったところで世間は信用しませんでしょう?”という具合です。ヘンリーは驚きますがすでに『火曜クラブ』でマープルがとんでもない洞察力を持っていると知っているので、意外な人物が紙に書いてあるので”本当だろうか?”と思いつつもヘンリーは解明に乗り出すのです。

ねじれた家

アガサの筆が走ってる度 ★★★★★
後味のビター度     ★★★☆☆
最後まで犯人分からない度★★★★★
無人島に持っていきたい度★★☆☆☆

この作品はポアロなどの有名な探偵は出てきません。ですが、アガサ本人が乗りに乗って書いてたいへんなお気に入りでした。(と言われています)映画化にもなりました。かなり、人間の心理描写も細かいし登場人物が魅力的(登場人物全員が好ましい人物なわけではないですけど)に書かれていて素晴らしいです。人物の性格の書き分けが素晴らしいです。微妙な表現力、描写が、飽きさせません。一体この家の何が一番ねじれているのか?最後まで分かりません。

ネタバレなしの紹介
この作品の主人公は、探偵ではありませんが、語り部としても役割がありますし、とても魅力的です。アガサの表現の仕方が絶妙なのです。主人公はお金持ちであるアリスタイドの孫娘に恋をして婚約するのですが、そのアリスタイドというのが一癖も二癖もあり一族を敷地内に住まわせ、権力をふるっている状態。すでにねじれてるというかひねくれてる設定ではありますね。アガサはそんな風変わりなお金持ちが一族を支配しているというのを題材に作品を書くことがありますが、この作品もその一つと言えます。アリスタイドの孫娘は”私はそんなねじれた家の人間なのだ”と主人公に言います。この物語はアリスタイドが毒殺され、いったい誰が?という犯人探しになりますが、殺したいと思っている親族がいないとは言えない状況で誰もが犯人らしく思えるのです。物語にまとわりつく、ねちっこい人間模様が不気味で何とも言えません。

この話が、自分は好きかと言われると、難しいです。結末も含め完全に好みの問題です。でも良く出来たお話です。実際自分は、一気にこの作品を読み切りました。ミステリーというよりは、ホラーに近いかもしれません。不気味な雰囲気がまとわりついていて、そういう描き方もアガサは得意だと思います。後半に向けて、アガサのペンが走っているのが分かります。言い方が難しいけど、この不気味な話を、アガサは多分笑顔で書いています。読者に楽しんでほしいと書いてるのが分かります。そんな作品です。最後はやはり、読者はとんでもなく迷宮に入り込み、裏切られ、してやられた!と思わされるのです。(結局、翻弄されて楽しんでいる自分がやっぱりいます)
自分の好みかどうか別にして文句なく傑作の1つと言えます。(複雑な言い方ですが本心です)

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※フジテレビドラマで”元彼の遺言状”綾瀬はるかさん、大泉洋さんでされてますがドラマの中に『ねじれた家』出てきますね!(原作は読んだんだけど、え?出たっけ?って感じです。そんなに本筋に直接は関係ないような、、、そもそもドラマの篠田役の大泉さんも随分原作と変えてますからね、、、)