ゴルフ場殺人事件

アガサの若々しい作品       ★★★★★
ヘイスティングズの惚れっぽさ度  ★★★★★
ポアロの推理が冴えてる度     ★★★☆☆
警察を出し抜く度         ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度     ★★★☆☆


ネタバレなしの紹介
このお話は、ポアロの第2弾になります
『スタイルズ荘の殺人』でポアロが鮮烈デビューをした次の作品なので、アガサの文章も若々しさに溢れています。
あらすじは
あるとき富豪のルノール氏から南米の仕事上のトラブルで脅迫を受けているとポアロは依頼を受け、この男の家にいくのですが、そのルノール氏の家に行くとすでにその富豪は死んでしまっていたという不本意な始まりです。
しかもゴルフ場のバンカーの穴に入っているという状態で見つかるので”ゴルフ場殺人事件”なのです
家で縛られて生き残っていたエロイーズ夫人の話によると南米からの不審者が2人訪問し、ルノール氏は連れ出されてしまい殺されてしまったらしいのです。
当然事件解明に乗り出すポアロなのですが、よそから来た探偵のポアロを良く思っていない地元警察と確執が生まれます。
ポアロ対地元刑事のジロー刑事との推理合戦もこの小説を面白くさせています。

しかし、そもそも、このお話の最初が
”シンデレラ”と名乗る魅力的な女性が登場し、ヘイスティングズと出会うところからお話が始まるので、なんてロマンチックな恋愛ドラマが始まるんだろうという感じなのです。(もちろんこの女性も事件に大いに関係してきます)
ポアロと訪れたルノアール宅のとなりの美女にも好意を抱きますし、なんてヘイスティングズは惚れっぽいんだろうと思います。なので読み始めた私は戸惑いました。
それくらいヘイスティングズが恋に墜ちる描写が若い感性で書かれていて、あまりに惚れっぽくて推理小説になるんだろうかと心配するくらいです。恋するが故、事件を引っかき回すしポアロの邪魔もしまくります。中学生の初恋じゃあるまいし一体何歳の設定なのかと思うんですが恋愛に歳は関係ないですね。しかし初恋物語かと勘違いしそうです。
でもちゃんと推理小説になっています。

ネタバレちょっとあり
この作品の面白いところは、南米から来たと思われる人物が犯人らしく単純に思われるけども、そう単純ではないところです。複雑に丁寧に過去に起こった事件との絡みを旨く組み合わせているところです。コレはちょっと難しいなと思う事件です。
そしてエロイーズ夫人とおとなりのドーブルーユ夫人が事件のカギですがどちらも強い特徴があります。
男を愛し、そしてお金を愛する女性。両方欲しいのが人間なんでしょうけどもなかなか割り切れるモノではないと思うのです。
結局は愛の為に罪を犯し自分の欲望のために犯罪に手を染めるのですが、どっちがどっちとは言えませんが、どちらの女性も強いです。それだけは言っておきます。
ポアロの推理は冴えています。ただ時代的に可能な犯罪なだけで、現代では通用しない犯罪かなと思います。その辺は推理小説と割り切って楽しみたいと思います。

ところでゴルフ場で死体が見つかっただけで、特にゴルフをするシーンとかでてきません。
そもそもポアロはゴルフが嫌いなんじゃないでしょうか?(言い過ぎかも)ゴルフに関して全く関心ある描写がありません。ヘイスティングズはたしなむようですが。
そしてアガサの小説は題名が凝っているイメージがあると思うのですが、この『ゴルフ場殺人事件』は『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』に比べれば印象は残らないですね。それが残念と言えばそこだけ残念な作品です。
この小説のヘイスティングズの描き方を見て、アガサはこの段階ではまだ名探偵ポアロをシリーズ化にするつもりはなかったんじゃないかとさえ思います。

ハロウィン・パーティー


イギリスのハロウィンパーティーを感じてみよう度  ★★★★★
アガサの分身?!推理作家のオリヴァが出てくる度  ★★★★★
リンゴ、リンゴ、カボチャじゃなくて?度      ★★★☆☆
純粋さやずるさは子も大人も関係なし度       ★★★★★
無人島に持って行きたい度             ★☆☆☆☆


ネタバレ無し紹介

ハロウィンとは具体的にはどんな事をするのか、私は今でも実はよく分かっていません。
日本に元々無い行事でなじみがないんですが、最近は楽しく仮装をしたりして『トリックアトリート』”お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!”っていってお菓子をもらいに行ったりって事を楽しんでるイメージです
でも、この本の中では、子どもを楽しますために地域の大人達があれやこれや用意したりしてる場面から始まりますので、日本で言うと自治体の子供会で用意するお楽しみ会に近いのかなと思います。
そんなアガサの時代のハロウィンの様子が分かるので、それを楽しみに読んでも面白いかも知れません。
(そしてよく言われる『トリックアトリート』”お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!”のシーンは出てこないのですよ!)

哀しいことに、そんな子どものお楽しみ会の合間に楽しんでたはずの子どもが殺されてしまう話なのです。

この話は、名探偵ポアロと推理作家のオリヴァが出てきます。晩年の方の作品になるので、作品中に過去に解決した事件の名前を出して懐かしくさせます。(ポアロが”ヘラクレスの冒険”などについて思いをはせたりしてファンの心をノスタルジックにさせるんですよ)、スペンス警視が引退して”元”警視で登場したりします。
ここで、推理作家のオリヴァについて説明しますと、この女流作家は、アガサ自身をモデルにしてると言われています。
実に、お茶目でおしゃべりで、リンゴ好き、ユニークな存在です。(本当にアガサはこんな感じの人なのかな?と、想像して楽しくなります)
今までの作品の中でも散々オリヴァがリンゴを食べるシーンが出てきます。
イギリスのリンゴは日本のリンゴと違って小ぶりのようですが、そのリンゴが殺人事件にも関わってきます。
”リンゴ食べゲーム”で使ったバケツと水、これが凶器になるんです。
(ハロウィン、といえばカボチャのはずですが、リンゴが目立つのも特徴的です)
そして、ある意味、人気推理作家のオリヴァがいるからこそ、起こる殺人だとも言えます。
それはどういう意味か、読んでみないと分からないのでぜひ興味がある方は読んで見てください。

ちょっとだけネタバレ

ミステリーファンで推理小説をたくさん読んでる人なら、このお話の中盤くらいで、犯人が分かるかと思います。
私も、犯人はこの人だろうって想像がつきました。アガサにしてはとても珍しいそれくらい単純なトリックです。
とはいっても、それを思い付いて矛盾のない内容にするのはやっぱりさすがアガサクリスティーです。
そこがどこか、楽しみに読んでもらいたい気持ちもあるので、紹介するのが難しいですね。
事件としてはハロウィンパーティーで女の子が殺されてしまい、その犯人捜し、となりますが、その子どもが言い放つ『私は殺人を見た』という嘘とも本当とも分からない言葉が原因なのではないか、とオリヴァはポアロに助けを求めます。
子どもたちにも人気がある推理作家オリヴァが、ハロウィンの子どもイベントのゲストとして呼ばれてるので、子ども達も殺人事件の話になり、その場の気を惹きたい子どもがついた嘘、ともとれる。
はたして子どもが見たという殺人は本当にあったのか?それが原因で殺された事に間違いは無いのか?
ポアロは捜査に乗り出します。
実はその殺人が起こった村は、昔一緒に事件を捜査していたスペンス元警視の終の住処なのです。(アガサファンとしては警察を引退してからも、ポアロと交流がある設定をうれしく思うのですが)
スペンス元警視から村人の情報を聞き出し、主要人物を訪ねて回り推理をしますが村人も一人一人、”こんな人いるなあ~”って人ばかりですから、人物描写が素晴らしいのです。
あっけなく事件は解決してしまうし、犯人は(私的に)すぐ分かってしまうし、無人島までは持って行って読む感じではないので、★は少なめですが。
見所、ならぬ”読所”としては、たくさんありますよ!
🎃ポアロの旧友のオリヴァ、スペンス元警視が出てくる
🎃アガサの時代のハロウィンの雰囲気が味わえる
🎃子どもの愚かさも狡猾さもよく出てる
🎃大人の愚かさも狡猾さもあいかわらず
🎃美男美女が出てきます
🎃前半の緩やかなストーリーから後半一気に解決に向かう時の緊迫の面白さ
🎃終盤の殺人の瞬間をまさに見ているかのような臨場感の表現(ぞっとしますよ)
といったところです。

ちなみに2023年映画化された『ベネチアの亡霊』は『ハロウィーン・パーティー』の原作を元にして作成されたと言われていますが、かなり別物となっています。オマージュ的な作品だと思います。映画は別物として面白かったです。
感想は全然別のブログのところに『ベネチアの亡霊』簡単に書いています。