ひらいたトランプ

ゾクゾク度        ★★★★★
数回読んで味を占める度  ★★★★★
設定の面白さ度      ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★★★★★
 
これは、エルキュール・ポアロ作品です。
ひらいたトランプというように、トランプのゲームが出てきてきますが、ババ抜きとかじゃないですよ!この作品は日本人にはなじみのないゲームが出てきます。ルールは分からないけれど、登場人物が熱狂している描写が出てくるので、面白いゲームなんだろうな、と思われます。賭け棒とか出てくるし、賭け麻雀に近いかもしれません。もちろん、そのトランプゲームが、事件の大事な要になってきますが、ルールを知らなくとも楽しめる作品です。”こんなトランプゲームがあるんだな”で、いいので、読み進めて下さい。人間の本質をあぶりだしていく、とてもゾクゾクする作品です。自分はとてもこの作品が好きですね。

ネタバレなしの紹介

この作品が他と違っているのは、ここに出てくる登場人物は全員、殺人を犯してる事。でも、法の合間をかいくぐって、誰もなんの刑も受けてはいない。え?ネタバレじゃないのかって?大丈夫です。そんなことではこの作品は語れません。そんな犯罪者たちをコレクションして楽しんでいる”シャイタナ氏”が一番悪いのですが、というお話。トランプゲームの様子、やり方には人間性が出るということからのアガサの人間観察の鋭さがすばらしいです。最後の最後まで犯人が分からない、読者を裏切らない面白さがあります。私は何回も読んでますが、結末を知っててもやはり面白いです。私はこの作品が好きなので定期的に読みたくなる一冊なのです。

ねじれた家

アガサがノリにノって書いています ★★★★★
後味のビター度          ★★★★☆
最後まで犯人分からない度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度     ★★☆☆☆

この作品はポアロなどの有名な探偵は出てきません。ですが、アガサ本人が乗りに乗って書いてたいへんなお気に入りでした。(と言われています)映画化にもなりました。
私もこの作品を読んだ時、アガサの絶好調に楽しそうに書いてる姿が目に浮かびました。それぐらいに面白いです。面白いと言っても事件自体は陰惨でなんとも言えず恐ろしいのですが、作り事の話として、良く書けてるなと思うのです。人間の心理描写も細かいし登場人物が魅力的(登場人物全員が好ましい人物ではないですけど)に書かれていて素晴らしいです。なんと言っても人物の性格の書き分けが素晴らしいです。微妙な表現力、描写が、飽きさせません。
一体この家の何が一番ねじれているのか?最後まで分かりません。

ネタバレなしの紹介
この作品の主人公は、探偵ではありませんが、語り部として大変に魅力的です。アガサの表現の仕方が絶妙なのです。主人公はお金持ちであるアリスタイドの孫娘に恋をして婚約するのですが、そのアリスタイドというのが一癖も二癖もあり一族を敷地内に住まわせ、権力をふるっている高圧的な人物。読み始めてすぐに既にねじれてるというかひねくれてる設定です。アガサはそんな風変わりなお金持ちが一族を支配しているというのを題材に作品を書くことがありますが、この作品もその一つと言えます。アリスタイドの孫娘は”私はそんなねじれた家の人間なのだ”と主人公に言います。この物語はそんなひねくれたアリスタイドが毒殺され、いったい誰が?という犯人探しになりますが、親族も殺したいと思っている人だらけで誰もが犯人らしく思えるのです。物語にまとわりつく、ねちっこい人間模様が不気味で何とも言えません。

この小説が自分は好きですが、作品として好きであって、良筆なミステリーかと言われると、難しいです。結末も含め完全に好みの問題です。実際自分は、面白くて一気にこの作品を読み切りました。ミステリーというよりは、ホラーに近いかもしれません。不気味な雰囲気がまとわりついていて、そういう描き方もアガサは得意だと思います。
読み進むにつれてどんどん、アガサのペンが走っているのが分かります。言い方が難しいけど、この不気味な話を、アガサは多分笑顔で書いています。読者に楽しんでほしいと書いてるのが分かります。そんな作品です。最後はやはり、読者はとんでもなく迷宮に入り込み、裏切られ、してやられた!と思わされるのです。(結局、翻弄されて楽しんでいる自分がやっぱりいます)
自分の好みかどうか別にして文句なく傑作の1つと言えます。(複雑な言い方ですが本心です)

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※フジテレビドラマで”元彼の遺言状”綾瀬はるかさん、大泉洋さんでされてますがドラマの中に『ねじれた家』出てきますね。でも原作も読んだんですが、そんなに本筋に直接は関係ないような、、、そもそもドラマの篠田役の大泉さんも随分原作とは違う人物ですから、全然別物として楽しむ内容だと思います

クリスティ短編集Ⅰ


バラエティーに富んで楽しめる度★★★★★
スターがそろい踏み度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度   ★★★☆☆
 
これは早川文庫ではなく新潮文庫になります
13篇の短編が入ってる短編集です。ポアロものが3篇、マープルものが5編、パーカーパインものが3篇、有名な探偵が出てこないけどもとても良質な2編、といったところです。

この短編が好きなのは有名な戯曲『検察側の証人』が入ってる事や自分の大好きな短編の『うぐいす荘』が冒頭に入ってる事です。なるべくネタバレをせずにこの短編集を紹介していきます


検察側の証人★★★
自分は幸運にも小説を読んだ後でBBCドラマを見たのです。小説を読んだときの驚きを単純に楽しめたのです。ドラマになると、やっぱりいろいろ道徳面でというか問題があるんだろうなと思いました。舞台で何度もされてる作品だし、言いたいことはひとつ”検察側の証人”であるその人がすべて。後は、主人公のように翻弄されるのを楽しむのが良いかと思います!

うぐいす荘★★★
早川文庫の『ナイチンゲール荘』と同じお話です。出版社と題名と訳者の違いでしょう。自分はこの作品が好きなので別で詳しく書いています。よろしければそちらも読んでみてください。



エジプト墓地の冒険★★☆
ポアロの短編です。ポアロの相棒、ヘイスティングㇲの語りが重要な短編です。事件解決のためにエジプトに1週間もかけて行ってしまうし、しかも意外とお洒落さんのポアロは、ピカピカの磨かれた靴が砂まみれ、ほこりまみれになるのも厭わずに神秘で不気味な謎に挑みます。これも意外な結末です。


ダヴェンハイム氏の失踪★☆☆
銀行の頭取が失踪した事件を、ポアロの旧友のジャップ警部から聞き、解決できるか賭けをするお話。解決のトリックがシンプルというのもありますが、それよりも、自分としては銀行の頭取とはいえ、中年男性が行方不明になるなんて、ちっともわくわくしない設定で、びっくりしました。ジャップ警部との賭けはどうなるのか?それを自分は楽しんだ作品です。

イタリア貴族の怪死★☆☆
食事をしていたとされる3人の紳士のうち1人が死体で発見される。後の2人は見つからない。一体誰と食事をしていたのか?事細かな食事の内容が語られて、アガサはグルメなんだろうなと思わされるし、それを楽しんで書いたのではないかと思われます。お米のスフレもデザートとして出てきて、事件の鍵を握っています。

火曜日の夜のつどい★★★
安楽椅子探偵として代表といわれるジェーンマープルの出てくる話です。”火曜クラブ”の最初の話になります。”火曜クラブ”というのは、ジェーンマープルの甥の作家のレイモンド・ウエストが発起人となって、とその親戚や仲間たちで謎解きをしようという”集い”のことです。ミスマープルは、甥のレイモンド・ウエストや他の参加者にとっては最初”単なる編み物をしている、ごく単純なよくあるおばあさん”とみられていて、謎解きの仲間にも無視されています。しかし、話を聞いてるだけのはずの、ごく普通のおばあさまに見えるジェーンマープルが謎を鮮やかに解いていくことで、誰からも称賛を得るというお話になっています。その記念すべき第一話となります。詳しい内容は第一話という事で敢えて言わないでおきましょう。アイザック・アシモフの書いた推理小説(短編集です)『黒後家蜘蛛の会』というシリーズがありますが、その給仕のヘンリーに当たるのがミスマープル、という構図になっています。気になる方はそちらも読んで見られてはどうでしょうか。

アスタ―ティーの神殿★☆☆
これも火曜クラブの続きになります。第一話で、ミスマープルは鮮やかに謎を解いているので、すでに皆から一目おかれている状態です。そしてこの”アスタ―ティーの神殿”というお話はイギリスの方ならば誰でも知っているというような神話が出てくるので、その神話を知っていなければ、謎を解くのは難しい。日本でいえば、日本昔はなしの”ももたろう”とかそんな感じでしょうか。ある意味女性が好みそうな神秘的な雰囲気のものです。もちろん、ミスマープルが最後には謎を解き明かします。

金塊事件★☆☆
これも火曜クラブの話になります。これはミスマープルの甥のレイモンドのかかわった話を自ら謎として、解決を提案する話。このお話はミスマープルのセリフで”おまえはロマンチックなんだよ”と甥のレイモンドに言うところがありますが、なるほど、そんな感じの話です。男のロマンとかそんな感じかもしれません。

舗道の血痕★★☆
これも火曜クラブのお話。話し方の工夫が必要になってくる謎です。舗道に血痕があったはずなのに、後で見た時にはすでに血痕はなくなってるという不気味な雰囲気が事件を予見させます。しかし話し手のとりとめのない話し方のためにややこしくなっている気がします。ちょっとずるいなと思わないでもない事件ですが、謎を解いた後でもちょっと不気味な気がするのは実際ありそうな話だからでしょうか?

動機対機会★☆☆
そしてこれも火曜クラブの話。遺言書のサインのお話。トリックは実に簡単。ミステリーの内容が”殺人”ではないせいか小学生向けのミステリーの本にもよくなっていました。しかし、トリックはちょっとずるい気がしますね。どうしてかというと、、、、それはお読みになった方が良いでしょう。

中年の人妻の事件★★☆
”あなたは幸福ですか?もし幸福でなかったらパーカーパイン氏に相談に来なさい”という怪しげな新聞広告から始まるストーリーです。パーカーパインは、アガサの小説の短編シリーズの探偵の1人でもあります。人生の悩みを依頼人から聞き、その悩みの本質を、人間の性を読み取り依頼人の幸福を取り戻す話です。ミステリーでもトリックのある話でもありませんがこれは中年の人妻の悩みにとって、最高に幸福になれる物語でしょう!後は読んでのお楽しみに!

悩める淑女の事件★★☆
これもパーカーパイン氏の話。これは宝石が出てくるお話。どうやって依頼人の悩みを解決するのかなと思っていると”なるほど、こうくるか!”と読者をすがすがしく(?)裏切る話です。(褒めています)

あるサラリーマンの冒険★☆☆
パーカーパインの話。そしてこの短編集の最後を締めるものがたりとなっています。これもミステリーというカテゴリーには入らないかも。まじめに働いてきたサラリーマンに裏切らない”幸福”を考えてくれるパーカーパインの温かさがあります。そしてこれを書いたアガサの”男の人ってこういう夢があるんでしょ?”って見透かしたような、でも楽しい作品となっています。


リスタデール卿の謎

アガサの作品なのかと意外に思う度      ★★★★★
ユーモアミステリー度            ★★★★☆
さくっと読める度              ★★★★★
ポアロもマープルも出てこないがとても面白い度★★★★★
無人島に持っていきたい度          ★★★★★ 

この作品は早川ミステリー文庫の短編集の1つになっています
中には12編の作品がまとめられていますが、この作品集の中にポアロやマープルのような
有名な探偵は出てきません!
しかし、1話ごとに違う主人公が、ある時は何気ない日常から、ある時はユーモアたっぷりに謎にかかわりますので、これまた自分はアガサの多彩な才能を見るのです。もちろん12編もありますので、その中にも特にお気に入りのもの、そうでもないもの(正直ですみません)もありますが、ミステリーの多様性に驚かされるのには違いがありません。そして登場人物が個性的で富裕層からそうでもない人々まで書き分けられている作品群となっています。
アガサクリスティー初心者の方は、最初は、ポアロや、マープルを読み、その魅力にハマったところで、この短編集を読んでみるとより、奥深い魅力に気付けるのではないでしょうか。
もちろん、最初からこの短編集を手に取った方もいらっしゃるでしょう。その方は、是非目次順に読んでいくことをお勧めします。実にうまいこと、バラエティーに富んだ作品の中にすんなりと入っていけるような並び順だな、と思うからです。
どちらかというとユーモアの作品の方が多い短編集です。

リスタデール卿の謎
 この短編集の巻頭を飾る作品。サクッと読めて好きな作品です。ちょっとだけ富裕層の特権意識が気になりますが(個人的に)登場人物の性格が憎めないように書いてあるので、主人公に感情移入できます。この、日本人にはなじみにくい”リスタデール”も”卿”も言いにくいし覚えにくいので、似たような題の『エッジウェア卿の死』と間違う可能性があります。そちらは長編ですし名探偵ポアロの作品ですので、お間違いのないように

ナイチンゲール荘
 自分が大好きな短編です。『うぐいす荘』と全く同じお話です。訳者が違う事と、出版社が違うという事だけと思われます。どちらも好きですが、別のページで紹介しているくらい思い入れがあります。詳しくはそちらを参考にして下さいますように。思いが溢れてしまってますので、、、、


車中の娘
 放蕩息子というか、厳密は”甥”ですが、金持ちボンが出てきます。短編ながらドラマチックな展開の話です。こんなコメディー映画ありそうかな?と、いうのは男の人が10人いたら8人くらいは夢に見たいような、美女との出会いとか冒険とかになってくるのでハッピーな世界です。話の筋とは関係ないですが出てくる執事が、魅力的です。出番が少ないのに実に小粋に書かれていて、この当時の執事というのは本当に気が利いていてシャレが効いていたのかも、と勝手に思います。


六ペンスのうた
 引退した弁護士の元に、かつての”青春”が訪ねてくるところからはじまります。過ぎ去った美しい思い出を連れてきて、無理やり事件解決に乗りださざるえません。事件自体は殺人ですし、悲惨なものですが、無事に解決できます。この話の面白さは、引退した初老の弁護士の男が、人生の”青春”を一瞬思い出し、しかし”今、現在”を愛していると確認するところでしょうか。


エドワード・ロビンソンは男なのだ
 これはお金持ちではない、現実をつつましく生きる男のロマンの話です。長く付き合ってる女友達がいて、婚約も近いかと思われるのですが、このまま結婚すると彼女の尻に敷かれるのは目に見えている。ある面ではしっかり者の彼女に惚れているのも事実なんですが、どうにも、物足りない気がしている。そんな時に合法的に大金をつかんだ主人公は、、、というお話。女の人はこれを読んで”しかたないなあ、男の人って!”と思うだろうとクスっとします。


事故
 これは、この短編の中でもっともゾっとする話です。詳しくは言わない方が、いいと思うのであえて詳しくは触れずにいようと思います。


ジェインの求職
 これは現実をつつましやかに生きる若い女性が主人公の話。明日の食事もどうなるか分からない切羽詰まった状況の中、仕事を探さなきゃならないのに、なかなか見つからずにいたところに怪しげな求人広告が目に留まり、、、という話です。
ミステリー好きの人ならコナンドイルの『赤毛同盟』という小説を思い出すかもしれません。中味は全然違いますよ!
若い女性の就職活動のあるあるに、感情移入できてしまうので、そこからのあり得ない展開も許せます。


日曜日にはくだものを
 つまんないと感じている日常にスパイスがふりかかる話です。そんな感じのお話です。サクッと読めます。


イーストウッド君の冒険
 この話がユニークなのは”キュウリの話”をアガサが思いつくってところです。多分アガサ本人も小説のネタに困った事があるんだろうなと、思わずにいられない。


黄金の玉
 小粋な題名をつけることに定評のあるアガサにしては、ピンとこない題名を付けたな~と思いますが、想像もつかない展開になっていきます。ユーモア小説です。主人公に全く感情移入はできないけど(自分は)


ラジャのエメラルド
 これは自分的に好きなお話です。胸がスカッとするような。身の置く場所で考え方が変わってくる話で、アガサは、富裕層の立場もそうでもない立場も実に簡単に描き分ける人だなと思います。


 
個人的な感想で紹介させていただきましたが、サクッと読める、ユニークな作品が多い短編集なので
ポアロもマープルも出てきませんが、楽しめますよ!

興味がある方は是非読んでみてください(*´▽`*)

ナイル殺人事件(映画感想)



原作『ナイルに死す』の映画版の日本語題名になります
映画を見た感想ですのでネタバレしてます。内容を知りたくない方は、これ以上は進まれませんように、ご注意申し上げます。
エジプトの贅沢度           ★★★★☆
アガサの原作なので見とこう度     ★★☆☆☆
原作に忠実度             ★☆☆☆☆
俳優陣の魅力度            ★★★★☆
ポアロが魅力的、ひょっとしたら原作越え★★★★☆ 

まず、ポアロかっこよかったです。犯人や被害者など大筋は変わっていません。

登場人物はかなりぎゅっとしているというか、でもコスパは良くないかもしれないくらいには俳優陣は豪華です。
豪華客船も素晴らしかったですし映像もエジプト、ナイル川も美しいです。
しかし、原作の人間模様のふくよかさはちょっと違う方向に。個人的感想ですがいろんな役を兼任させて話を成立させていますので、これだけをみてアガサの原作『ナイルに死す』を知った気になってはいけないぞという感じです。
映画は、映画の、原作は原作のそれぞれの良さを感じるしかありません
そしてそんな自分はやはり原作の登場人物の持つ関係性で成り立つ原作『ナイルに死す』が好きですけどね。
完全に個人的意見です。


何度も言いますが映画のケネス・ブラナーのポアロは魅力的です。映画冒頭から、重厚な戦争シーンから入るところは別の映画かな?って思います。でもポアロの魅力を分かりやすく伝えるためでしょう。反戦の想いも必ず入れるのもケネスの映画の特徴です。
ひねくれやで冷静なポアロに愛の理解があると伝えるために恋愛もからめています。それは、いいんですよ、ポアロも恋する人間ですから。でも、最後までその恋心を引っ張るのね、と思った事は確かです。
原作を読んで、この映画を見ると、登場人物の違いに戸惑いこんがらがります。
まず、映画はサロメ・オッタボーンが、魅力的なシンガーで、出てきますからね。原作では昔ヒットを飛ばしたっきりの小説家なんですけどね、ですから全く原作とはちがいます。
レイス大佐は出てこないし、、、そう、出てこないんです!(ちょっぴり不満)そりゃ、事件の解決に直接は関係ないでしょうが自分は愛着があるんですよ。
そしてエンディングが自分が思ったより、あっけないのです。関係者全員を集めて、その前でポアロは演説をし事件を解き明かすのがクライマックスですが、その後の、犯人のエンディングがあっけない。ここが、ポアロの対好敵手であるはずの犯人の魅力の余韻が残るであろう良い所なのに!あまりにもあっけない!と自分には思えます。


このお話は、ジャクリーンをどのように輝かせるか、です。エンディングのジャクリーンにこそが実は原作の主導権を握っているのに!(と、自分は思います)映画の最後はもう一人の共犯者のなすがままなんですよ?(ちょっぴり不満)そしてサイモンをお金はないけど色気たっぷりに、イケメンたっぷりにこの男のどこに魅力があるかってことを表現しなければ、三角関係がそもそも感情移入できません!そこのところは冒頭のエロいダンスで(それはそれで見ごたえありますけどね)表現されてますが、それでしか魅力はないのか?絶世の美女でお金持ちのみんなの注目を浴びるスターのはずのリネットが、軽く見えちゃうよ!そんなリネットがそこまで魅かれる男が彼なのはなぜか?ていうと賢くて魅力的なジャクリーンの男だからでしょ!みたいなところが描かれてたか?というと疑問だと思います。
キャストの皆様はさすがに男女含め美しいですよ!オッタボーンの歌声の力がすばらしいこと、あとナイル川周辺のダイナミックな映像とピストルの音、相当こだわったんだと思います。なので、この映画は、、、原作を見る前に見た方がいい映画かもしれない。だから原作を知らない人、是非ごらんください。
残念ながら自分は原作を好きすぎるんですよ。そんな感じで、今は映画を一回見た段階での感想とさせていただきます。



ナイルに死す

旅行したくなる度        ★★★★★
トリックの冴えてる度      ★★☆☆☆
事件が起こるまで長い度     ★★★★☆
登場人物のセリフのすばらしさ  ★★★★★
無人島に持っていきたい度    ★☆☆☆☆


この作品は、アガサ本人が(旅行ものとして)描いたミステリーの中でもお気に入りの作品。そう、ご本人が気に入ってる作品なのです。
余計な情報を入れるとしたらアガサ本人が失踪したという有名な事件の後の、執筆です。
アガサ失踪事件というのはアガサにとって大きな事件であることに間違いはないのですが、その後のある意味吹っ切れている作品なのかもしれません。
というのはこの作品は『お金も美貌も手に入れてる若い女性のリネット』『お金はないが恐ろしく色気があってイケメンの男のサイモン』『お金はないが個性的で魅力ある女性のジャクリーン』の3人の三角関係を中心にまわっているからです。
アガサの失踪も、旦那様と若い女性との三角関係みたいな事が原因でしたし、そして、この作品はアガサの二回目の結婚の後の作品で自分としてはちょっと下世話に勘ぐるところもあるわけです。(二回目の結婚のお相手は年下の考古学者で、ご夫婦でエジプトに訪れていらっしゃることも関係が絶対ありますから)そして、その前に発表している『ひらいたトランプ』という作品があるのですが、(これも独特な面白い作品)そこにでてくる登場人物の1人がこちらの『ナイルに死す』の中にも出てきてポアロの相棒として活躍していることも申し上げておきます。誰かってことは、ネタバレしたくないので、読んでいただけたら、と思います。



ネタバレなしの紹介

お金も美貌も手に入れてる若い女性リネットは、何かと自分の意図しないところでも敵が多い。(お金をめぐるトラブルや彼女なりの正義感やある意味富裕層の特権意識が引き起こす諸々等)ある時友人の婚約者サイモンを奪って結婚し、新婚旅行に出る。その先々で元婚約者で、元友人の女性ジャクリーンが嫌がらせのために新婚夫婦リネット、サイモンの前に現れる。不安に思ったリネットは船に乗り合わせたポアロに、この状況をどうにかしてほしいと依頼するが、、、という流れ。
新婚旅行先というのがまさにエジプトであり、ナイル川を渡る豪華客船カルナク号が舞台であるので、もちろん豪華で異国情緒も満点。


しかし、事件が起こるまでが長いのであります。ポアロの長編は大好きな自分ですが、それでもこの作品は事件が起こるまでが長いので、より長編に感じます。日本の火曜サスペンスドラマだと、開始早々、殺人が起こりますが、それに慣れてる人だと驚くくらいこの作品は前半全く殺人も事件もおこりません!実際に事件が起こるのは後半から。後半から一気に事件の流れが早まります。それを踏まえて、これはこういう作品なんだと思って楽しんで読む方がいいかと思います。
そして、これももうすぐハリウッドで撮影された映画が”ナイル川殺人事件”という題で日本でも公開されますが、内容的にちょっと変えているんではないかな、と思ってます。(これを描いた時点ではまだ映画はみてません)内容を変えてないのなら、推理物としては火曜サスペンスを見過ぎた自分にとってはトリックがちょっと荒っぽいなあ、、、って思わないでもないんですが(贅沢を言ってますね)、作品の感想としては昼ドラ的な要素と紀行ものが合わさった最上級なものという感想です。たしか、短編でも似たような状況とトリックを使ってどこかで1編書いてます。(題名を思い出したらまた書きますね)それよりも、それぞれの人物に言わせるセリフが本当にすばらしく人間味にあふれていて好きです。そして今回の小説でポアロは名探偵でもありますが、まるで占い師のように、若い女性に予言して回ったりお説教したりしています。そこがちょっと他と違う感じがしましたね。
映像化に至ってはこの作品は女性が圧倒的に魅力的に描かれてほしいという思いでいます。あらためて読み返して映画を見るのが本当に楽しみになっています。

オリエント急行の殺人

アガサが好きなら絶対読んでる度★★★★★
トリックが前代未聞度     ★★★★★
超有名度           ★★★★★
無人島に持っていきたい度   ★★☆☆☆ 

これは超有名な作品ですね!
アガサクリスティーと言えば、これでしょう!と言われる作品のうちの一つと言っていいでしょう。

アガサの作り出した大人気の探偵、ポアロが出てくるこの作品が特に有名なのは奇想天外な犯人というのもあります。
何度もなんども映画化やドラマ化されてきました。それは、華やかな豪華列車が舞台であること、登場人物が多い事、そして列車を使った本格的密室ミステリーであるとういう、おいしそうな状況がそろっているからだと推測しますが、オリエント急行という響きがまたいいのです!いかにも異国情緒あふれるし豪華な寝台列車というだけでも憧れでしょう。
映像化するにあたっては、有名な俳優たちを沢山どっさり配役に使える利点があります!
(出演料は恐ろしい額だろうけど、ヒット間違いなしと予想できるから安心してオファー出来るかも)ただ、大雪と豪華列車が頭を悩ますところ、、、、。そりゃ”タイタニック”という映画ほどには、製作費は掛からないかもしれませんが(あれは豪華客船を海に沈めちゃいますから)列車をとにかく豪華にしないと映像がしょぼくなってしまうことは確かですし大雪も大事。この作品の魅力の一つは状況の特殊さであり、そこが最大の舞台効果でもあるのですから。
この小説は、ある意味フィクションではないところもあります。というのは、アガサが生きていた当時に実際に起こった誘拐事件にアガサ自身が心を動かされて書いたと言われているからです。復讐、敵討ちといった気持ちがあったのではないかと思われるのです。そういったアガサの正義感をふまえて読むとまた違ったイメージになるかもしれませんね。
ただ、客観的にみた推理ミステリー単体としては、名探偵ポアロが初めて”迷”探偵になる作品でもあり、あまりに状況が整っている事や、絶対的悪が存在する事など反則技も出てきます。(言っている意味は真相をご存じの方なら分かりますよね?読んでみた人は察していただきたい)
純粋に推理物としてはちょっとどうかな、とは個人的に思います。じゃ、書けば?って言われると絶対書けないですけど。しかしミステリーとして、すばらしい小説です。
今後どの小説家がこのジャンルに挑戦しても、二番煎じと言われることになるトリックです。


ハリウッドでは、ジョニーディップが出演し、映画化がされたました。これも有名な俳優陣がわんさか出てきます。見るだけでため息が出そうな豪華さです。当時話題になりましたね。

日本では数年前に野村萬斎さんがポアロ役となって脚本家三谷幸喜さんアレンジでドラマ化されていますね。有名どころの俳優さんが沢山出てきます。日本を舞台に豪華列車での密室ミステリーの映像化は難しかったと思いますが、三谷幸喜さんらしくユーモアを交えてエンターテイメントにまとめていたのを思い出します。

一番好きなポアロものは?(5匹の子豚)

五匹の子豚

ポアロの推理が冴えてる度 ★★★★★
小説に情熱を感じる度   ★★★★★
最高傑作度        ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★★★★★   

ポアロの登場する小説が沢山ある中で、どれが一番好きかと聞かれたら『5匹の子豚』と答えます。
題名こそかわいいですが、内容はがっつり大人向けでございます。
近代化に向かう女性の強さ、若さ、芸術家へのリスペクト、ゴシップ、スキャンダル、母の愛、強い愛、などが詰まっているのである!謎解きもすばらしいのですが、なんといっても登場人物の魅力的な事と言ったら、アガサクリスティーの最高傑作と言ってもいいと思われます。
この作品は自分は何回も読んでいるけれど、映像化した時どんな俳優さんがいいかなあ、なんて思いをめぐらせて読んだりしてるのも楽しかったりします。演じる俳優さん達もきっと楽しいだろうなと思うんですよ!

ネタバレなしの紹介
16年前に有名な画家だった父を殺した容疑で捕まった母、犯人は母しかあり得ない状況がそろっていた。しかし母は最後まで無実を訴え、夫は自殺だったと一貫して言うのである。妹には『あなたは何も心配しなくていいんですよ』という意思と手紙だけ残して病気で獄中でなくなってしまう。当時小さかった娘は何も知らされないまま成長し、大人になってから母の事を知った娘は名探偵ポアロに『母の真実を』(出来れば無実を)と依頼する。
無実を訴える母の気高い姿芸術家の父の狂気の情熱若き美しき愛人、この3人だけでも濃い、良い話が出来そうだがここに加わるのは母の妹夫の兄親友で、母と父は犯人と被害者として亡くなっているので、実際に話を聞ける当時の関係者は当時の愛人を含め5人。これをポアロは五匹の子豚になぞらえて、解決していくのである。
この小説でポアロは、当時の関係者を一人一人訪ね歩いて話を聞き、『もう昔のことだ』という彼ら、彼女から鮮やかに当時の記憶をよみがえらせていく。
アガサクリスティーは何年もたった後の過去の事件を解くミステリーはいくつか書いていて、得意な方だと思う。
人が過去を思い出すとき、都合のいい事、悪い事も一緒に思い出すが、ポアロはそれを聞き逃さない。
何人もの人から話を聞き、他の人の話から矛盾を見つけ出し辻褄を合わすことの組み立てはすばらしい。自分は読んでいてこんがらがりそうになるのだが、最後に鮮やかにすっきり過去のタイムテーブルが合う時、過去の矛盾に読者の自分も気がつくのである。その組み立ても素晴らしいし、この作品はやはり、人物の描写のすばらしさが桁違いに鮮やかだ。魅力的な人物ばかり登場するといったらそれまでだが、この作品はそれぞれが昔の同じ事柄、人物を思い描き同じ時間を思い返すことで、その人なりの想い、感情の書き分けが際立って素晴らしい事が分かる。本当に大好きな作品なので、つい紹介にも力がこもることをお許し願いたい。

アガサと無人島と言えば『そして誰もいなくなった』

しばらくしたら、このサイトは消えますが
無人島に持って行きたいアガサクリスティーの本として紹介するファンブログはまた、どこかで作るつもりなので”アガサと無人島”で見つけたら私かもしれません。


『そして誰もいなくなった』

アガサクリスティーの代表作の一つと言っていいですね。
謎を解くというよりは、最後のどんでん返しに読者は驚き魅力にハマるのです。
この作品が発表されてから、これと似たような作品が何度も発表され、オマージュされてきたかわかりません。
この小説は映画化もされてますし、結末も有名なのでいまさら隠す必要もないかもしれません。
でもこれから読む人はいくらでもいる(かもしれない)ということを踏まえて、いつも新しい驚きを持って欲しいと思いますのであえてここではネタバレはしません。

ネタバレなしの紹介
この作品は、無人島に招待された10人の男女がインディアンの子守唄になぞらえて死んでいくミステリーです。
可愛らしいはずのインディアンの人形がまた異様に不気味で、人形が消えると誰かが同時に消えていくようになっているのです。誰が?何のために?

無人島という、隔離された世界で他に助けも呼べばない状態で、一人一人死んでいくのです。
生き残っている人も誰も信じられない恐怖で追い詰められていき発狂寸前です。
ラストは、読者を驚かす仕掛けが待っています。

自分はこれを読んだとき、あんまりな話だなと思ったのです。
もちろん文句なしに面白かったですよ!
この仕掛けを考えたアガサクリスティーはさすがだ!と思いましたし天才だと思いました。
最高傑作と言われてる理由も分かります。
でも、内容的になんだかむなしいなあ、、、、って思ったのです。
完全なる自分の趣味です。
無人島に男女10人滞在できるほどの屋敷は(大きな立派な館)あるんですが、バカンス!っいう感じはまったくなく、ちっとも楽しそうじゃないし(あたりまえっちゃ当たり前、仲良し10人組のパーティーじゃないんです、ほぼ他人同士)それぞれが秘密を抱えてることが前提で、どよ~~~んとした灰色な雰囲気が漂うんです。
それがミステリーだといわれたら、全く文句はありません。
でも、なんていうか怖い方が勝つホラー作品というか、
そう、ミステリーというよりこの作品は自分にとってはホラーでした!
怖い話がお好みの方は是非、お勧めします!

最後まで犯人は分からないまま、読者を引っ張っていく力強い文章力が魅力です。
そして題名が『そして誰もいなくなった』なんてちょっとしゃれてる題名というのも、この作品の価値があると思ってます。他の題名だったら、ここまで有名になったかと言われたらどうかなと思います。

蛇足ですが、作家の赤川次郎さんが、このアガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』をリスペクトしていて、
”自分はこういう作品を書きたい”とそう思って小説を書いてきたと知った時、驚いた自分です。
ユーモアミステリーのイメージがある作家の赤川次郎さんですが、『夜』という作品を読んだときとても怖いホラーだったので、そのことを思い出しました。