リスタデール卿の謎

アガサの作品なのかと意外に思う度      ★★★★★
ユーモアミステリー度            ★★★★☆
さくっと読める度              ★★★★★
ポアロもマープルも出てこないがとても面白い度★★★★★
無人島に持っていきたい度          ★★★★★ 

この作品は早川ミステリー文庫の短編集の1つになっています
中には12編の作品がまとめられていますが、この作品集の中にポアロやマープルのような
有名な探偵は出てきません!
しかし、1話ごとに違う主人公が、ある時は何気ない日常から、ある時はユーモアたっぷりに謎にかかわりますので、これまた自分はアガサの多彩な才能を見るのです。もちろん12編もありますので、その中にも特にお気に入りのもの、そうでもないもの(正直ですみません)もありますが、ミステリーの多様性に驚かされるのには違いがありません。そして登場人物が個性的で富裕層からそうでもない人々まで書き分けられている作品群となっています。
アガサクリスティー初心者の方は、最初は、ポアロや、マープルを読み、その魅力にハマったところで、この短編集を読んでみるとより、奥深い魅力に気付けるのではないでしょうか。
もちろん、最初からこの短編集を手に取った方もいらっしゃるでしょう。その方は、是非目次順に読んでいくことをお勧めします。実にうまいこと、バラエティーに富んだ作品の中にすんなりと入っていけるような並び順だな、と思うからです。
どちらかというとユーモアの作品の方が多い短編集です。

リスタデール卿の謎
 この短編集の巻頭を飾る作品。サクッと読めて好きな作品です。ちょっとだけ富裕層の特権意識が気になりますが(個人的に)登場人物の性格が憎めないように書いてあるので、主人公に感情移入できます。この、日本人にはなじみにくい”リスタデール”も”卿”も言いにくいし覚えにくいので、似たような題の『エッジウェア卿の死』と間違う可能性があります。そちらは長編ですし名探偵ポアロの作品ですので、お間違いのないように

ナイチンゲール荘
 自分が大好きな短編です。『うぐいす荘』と全く同じお話です。訳者が違う事と、出版社が違うという事だけと思われます。どちらも好きですが、別のページで紹介しているくらい思い入れがあります。詳しくはそちらを参考にして下さいますように。思いが溢れてしまってますので、、、、


車中の娘
 放蕩息子というか、厳密は”甥”ですが、金持ちボンが出てきます。短編ながらドラマチックな展開の話です。こんなコメディー映画ありそうかな?と、いうのは男の人が10人いたら8人くらいは夢に見たいような、美女との出会いとか冒険とかになってくるのでハッピーな世界です。話の筋とは関係ないですが出てくる執事が、魅力的です。出番が少ないのに実に小粋に書かれていて、この当時の執事というのは本当に気が利いていてシャレが効いていたのかも、と勝手に思います。


六ペンスのうた
 引退した弁護士の元に、かつての”青春”が訪ねてくるところからはじまります。過ぎ去った美しい思い出を連れてきて、無理やり事件解決に乗りださざるえません。事件自体は殺人ですし、悲惨なものですが、無事に解決できます。この話の面白さは、引退した初老の弁護士の男が、人生の”青春”を一瞬思い出し、しかし”今、現在”を愛していると確認するところでしょうか。


エドワード・ロビンソンは男なのだ
 これはお金持ちではない、現実をつつましく生きる男のロマンの話です。長く付き合ってる女友達がいて、婚約も近いかと思われるのですが、このまま結婚すると彼女の尻に敷かれるのは目に見えている。ある面ではしっかり者の彼女に惚れているのも事実なんですが、どうにも、物足りない気がしている。そんな時に合法的に大金をつかんだ主人公は、、、というお話。女の人はこれを読んで”しかたないなあ、男の人って!”と思うだろうとクスっとします。


事故
 これは、この短編の中でもっともゾっとする話です。詳しくは言わない方が、いいと思うのであえて詳しくは触れずにいようと思います。


ジェインの求職
 これは現実をつつましやかに生きる若い女性が主人公の話。明日の食事もどうなるか分からない切羽詰まった状況の中、仕事を探さなきゃならないのに、なかなか見つからずにいたところに怪しげな求人広告が目に留まり、、、という話です。
ミステリー好きの人ならコナンドイルの『赤毛同盟』という小説を思い出すかもしれません。中味は全然違いますよ!
若い女性の就職活動のあるあるに、感情移入できてしまうので、そこからのあり得ない展開も許せます。


日曜日にはくだものを
 つまんないと感じている日常にスパイスがふりかかる話です。そんな感じのお話です。サクッと読めます。


イーストウッド君の冒険
 この話がユニークなのは”キュウリの話”をアガサが思いつくってところです。多分アガサ本人も小説のネタに困った事があるんだろうなと、思わずにいられない。


黄金の玉
 小粋な題名をつけることに定評のあるアガサにしては、ピンとこない題名を付けたな~と思いますが、想像もつかない展開になっていきます。ユーモア小説です。主人公に全く感情移入はできないけど(自分は)


ラジャのエメラルド
 これは自分的に好きなお話です。胸がスカッとするような。身の置く場所で考え方が変わってくる話で、アガサは、富裕層の立場もそうでもない立場も実に簡単に描き分ける人だなと思います。


 
個人的な感想で紹介させていただきましたが、サクッと読める、ユニークな作品が多い短編集なので
ポアロもマープルも出てきませんが、楽しめますよ!

興味がある方は是非読んでみてください(*´▽`*)

好きな短編集は?

クリスティー短編集Ⅰ(新潮社)

アガサクリスティーの短編集の中で、どれが好きか?といったら、まずは新潮社の『クリスティー短編集Ⅰ』かなと思います。この中には有名なポアロとミスマープルとパーカーパインという登場人物の短編がいくつか収められているのと、そういった有名な探偵が出てこない作品2作品が含まれているので、アガサの見本市の紹介みたいな本になります。この短編集で自分が好きな理由はなんといっても、『検察側の証人』『うぐいす荘』が収められていることが大きいです。この2つの作品には有名な探偵は出てきません。


作品が有名過ぎて、原作を読むよりそういった映像化されたものを先に知ってしまう事もあるでしょう。自分は幸運にも先に原作を読んでから、映像を見たという『検察側の証人』がありますが、これは、傑作、そう、読者をだます最高なお話です。(ネタバレをしないように伝えるのは非常に難しい!)
この短編は新潮社の”クリスティー短編集Ⅰ” 一番目を飾る作品です。のちにBBCドラマや昔の映画化されたものを見て結末が違ったので、驚いたり、ああ、コンプライアンス的に問題があるのかもなあ、と思ったりしたものです。
『うぐいす荘』も有名な探偵の出ない短編ですが、これも大好きな短編です。アクリスという結婚適齢期をすぎた女性が主人公なのですが、やっとステキな人と巡り合い結婚できたのに、不安が付きまといます。その不安の正体に気付いた時、彼女はたった一人で危機に立ち向かうのですが、そこの描写がスリル満点なのです。最後のセリフがまた最高の一言です!
ちなみにこの”うぐいす荘”という作品は早川文庫では『ナイチンゲール荘』という題で『リスタデール卿の謎』という短編集に収められています。(この短編集も大好きなので、この話はまたの機会に)ほとんど訳は同じですが、自分は『ナイチンゲール荘』の方が好きですね。最後のセリフのニュアンスが若干違うだけですけども。

一番好きな短編は何?(うぐいす荘)

うぐいす荘(ナイチンゲール荘)

短編で女性の心理が分かる度★★★★★
ゾクゾクする度      ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★★ 
アガサクリスティーの短編集は戯曲の原案も含めて18編もあり、その中には15本のお話が詰まっているとはお伝えしたと思います。(出版社によって増減アリ、重複する話もアリ)
アガサが描いた短編の中にはポアロ、マープルなど有名な探偵の出てくるもの以外の名もない登場人物のものもいくつかありますが有名な探偵が出ずともその短編の数々の短編もびっくりするくらいすばらしいのです。アガサクリスティーが好きで読み込んできている自分が、何度も読んで、さらに短編なのに『やっぱりアガサは天才だ』とにやにやしながら読んでしまうのですから。

ここではそんな、有名な探偵が出てこない作品の1つ『うぐいす荘』を紹介しましょう
これは新潮社のクリスティー短編集Ⅰの巻頭を飾る一編です。
早川文庫では『ナイチンゲール荘』という別名でも収録されています。



ネタバレなしの紹介
今の時代にそぐわない言い方をすると、アクリスという結婚適齢期を過ぎた女性が主人公で、長い間付き合った結婚直前の男性と別れた直後に、別のステキな男性と出会い見事に結婚してからの話なのである。背景はこんな感じ。
幸せな結婚生活を送っているのに、ある日突然、不安が襲う。それも昔結婚直前までいった元カレから電話があってから胸騒ぎが止まらないのである、、、、と書くと『え?恋愛もの?三角関係?どこがミステリーだよ?』って言われそうですが立派なミステリーになっているのです。
そこはアガサですから!
この面白さは、主人公のアクリスの聡明さです。ある理由があって彼女は命の危機に見舞われるのですが、頭をフル回転させてたった一人で危機に立ち向かうのです。その恐怖の描写の細かさ、心情の動きがスリル満点なのです。最後のセリフがまた最高の一言です!
短編であっという間に読めるし、ポアロもマープルもいないけど、アガサクリスティーってこういう話も書くんだ?!と驚いていただきたい短編です。
『うぐいす荘』『ナイチンゲール荘』は内容はほぼ同じ訳がされていますが、自分は実は『ナイチンゲール荘』の方が好きです。最後のセリフのニュアンスが全然違うのです。これは完全に個人の好みの問題です!
ちなみに『うぐいす荘』は井上宗次さん、石田英二さん訳、『ナイチンゲール荘』は田村隆一さん訳です。


ここからはネタバレしながら自分の感想を言っています


結婚適齢期を過ぎた女性(今の時代にそぐわない)が、いきなりイケメンにプロポーズされて結婚したというところから始まる。そこまでの簡潔な小説の入りは見事で、元カレとの別れなんかも実に分かりやすく表現されています。シンデレラストーリーかと思いきや、実は結婚した相手が殺人犯であったというヒヤヒヤドキドキする話なんです!しかも今夜自分が殺される予定だというのを偶然に知ってしまうが、逃げ出すタイミングも逃してしまう。そこで知恵をしぼり、たった一人でその危機に立ち向かうという、スリルとサスペンスの話なのであります。