旅行したくなる度 ★★★★★
トリックの冴えてる度 ★★☆☆☆
事件が起こるまで長い度 ★★★★☆
登場人物のセリフのすばらしさ ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★☆☆☆☆
この作品は、アガサ本人が(旅行ものとして)描いたミステリーの中でもお気に入りの作品。そう、ご本人が気に入ってる作品なのです。
余計な情報を入れるとしたらアガサ本人が失踪したという有名な事件の後の、執筆です。
アガサ失踪事件というのはアガサにとって大きな事件であることに間違いはないのですが、その後のある意味吹っ切れている作品なのかもしれません。
というのはこの作品は『お金も美貌も手に入れてる若い女性のリネット』『お金はないが恐ろしく色気があってイケメンの男のサイモン』『お金はないが個性的で魅力ある女性のジャクリーン』の3人の三角関係を中心にまわっているからです。
アガサの失踪も、旦那様と若い女性との三角関係みたいな事が原因でしたし、そして、この作品はアガサの二回目の結婚の後の作品で自分としてはちょっと下世話に勘ぐるところもあるわけです。(二回目の結婚のお相手は年下の考古学者で、ご夫婦でエジプトに訪れていらっしゃることも関係が絶対ありますから)そして、その前に発表している『ひらいたトランプ』という作品があるのですが、(これも独特な面白い作品)そこにでてくる登場人物の1人がこちらの『ナイルに死す』の中にも出てきてポアロの相棒として活躍していることも申し上げておきます。誰かってことは、ネタバレしたくないので、読んでいただけたら、と思います。
ネタバレなしの紹介
お金も美貌も手に入れてる若い女性リネットは、何かと自分の意図しないところでも敵が多い。(お金をめぐるトラブルや彼女なりの正義感やある意味富裕層の特権意識が引き起こす諸々等)ある時友人の婚約者サイモンを奪って結婚し、新婚旅行に出る。その先々で元婚約者で、元友人の女性ジャクリーンが嫌がらせのために新婚夫婦リネット、サイモンの前に現れる。不安に思ったリネットは船に乗り合わせたポアロに、この状況をどうにかしてほしいと依頼するが、、、という流れ。
新婚旅行先というのがまさにエジプトであり、ナイル川を渡る豪華客船カルナク号が舞台であるので、もちろん豪華で異国情緒も満点。
しかし、事件が起こるまでが長いのであります。ポアロの長編は大好きな自分ですが、それでもこの作品は事件が起こるまでが長いので、より長編に感じます。日本の火曜サスペンスドラマだと、開始早々、殺人が起こりますが、それに慣れてる人だと驚くくらいこの作品は前半全く殺人も事件もおこりません!実際に事件が起こるのは後半から。後半から一気に事件の流れが早まります。それを踏まえて、これはこういう作品なんだと思って楽しんで読む方がいいかと思います。
そして、これももうすぐハリウッドで撮影された映画が”ナイル川殺人事件”という題で日本でも公開されますが、内容的にちょっと変えているんではないかな、と思ってます。(これを描いた時点ではまだ映画はみてません)内容を変えてないのなら、推理物としては火曜サスペンスを見過ぎた自分にとってはトリックがちょっと荒っぽいなあ、、、って思わないでもないんですが(贅沢を言ってますね)、作品の感想としては昼ドラ的な要素と紀行ものが合わさった最上級なものという感想です。たしか、短編でも似たような状況とトリックを使ってどこかで1編書いてます。(題名を思い出したらまた書きますね)それよりも、それぞれの人物に言わせるセリフが本当にすばらしく人間味にあふれていて好きです。そして今回の小説でポアロは名探偵でもありますが、まるで占い師のように、若い女性に予言して回ったりお説教したりしています。そこがちょっと他と違う感じがしましたね。
映像化に至ってはこの作品は女性が圧倒的に魅力的に描かれてほしいという思いでいます。あらためて読み返して映画を見るのが本当に楽しみになっています。