ABC殺人事件

アガサの代表作度   ★★★★★
ABC本の名前の有名度  ★★★★★
アガサの人を観察する度    ★★★★★
コレを読んでおけばミステリーの
世間話が出来るぞ度      ★★★★★ 
無人島に持っていきたい度   ★★☆☆☆


ABC殺人事件と言えばアガサクリスティーの代表作の一つで、その印象的な題名は一度聞いたら忘れる事はないでしょう。日本で言えば”あいうえお”殺人事件みたいな感じでしょうか
殺人現場に残されるABCの本から『ABC殺人事件』と言われるのですが、この本は”鉄道案内のガイドブック”で親切にABCのアルファベット順で地域と駅、時間や金額、近くのホテルや観光場所など詳しく載っていて大変便利だったようです
ミステリー好きであれば、話のネタにも一回は読んでおきたいアガサの超有名作品です


あらすじ
『ABC』と名乗る犯人からの殺害予告がポアロの元に届き、予告通りの日にちと場所、しかも最初の事件がAの付く町で
Aの頭文字の人が殺されてしまいます。その事件が解決しないまま次の殺人予告がまた届き、今度はBの付く町で、Bの頭文字の人が殺されてしまうのです。そしてまたCの町の殺人予告がポアロの元に届く、という連続殺人事件となっています。
殺人現場には『鉄道案内ABC』のガイドブックが必ず置かれているという状況から『ABC殺人事件』と言われるのですが
このセンセーショナルで残忍な事件をポアロがヘイスティングズと解決する作品です

ネタバレなしの紹介
あらすじ
難事件を解決し名探偵として名をあげてきたポアロのもとに殺人予告の手紙が届きます。差出人はタイプライターで打たれた『ABC』とだけ。内容は”Aのつく町で21日に殺人が起こるから警戒せようぬぼれた探偵ポアロよ”(簡単に言うと)と、かなりポアロを煽る感じなのです。この手紙だけでは、いたずらなのかもしれないし、わかりません。事件はそんな奇妙な始まりです


ポアロは探偵も引退していて夢だったカボチャ作りに夢中だったはずなのですが、実のところは、事件の依頼がチラホラあり完全に引退まではしていなかったようです。それどころか難事件を解決してきた自分の灰色の脳細胞を持て余し気味でした。そこへ南アフリカから旧友のヘイスティングズが帰ってきたので(ヘイスティングズは南アフリカに妻を残して来ているので期間は限られているのですが)昔のエキサイティングな事件の事などがよみがえったのでしょう。
”なにか気の利いた事件”をまた二人で解決しよう!と持ちかけます(なんて物騒な話なんでしょう!)その直後に『ABC』の殺人予告の手紙がポアロ宛に届くので、びっくりです
しかも、ご丁寧に殺人の場所と日にちまで書いてあるのです。ポアロも随分軽く見られてしまってたようです!(これは犯人の思惑があったのですが)私はポアロがヘイスティングズに”また何か2人で事件を解決したい”的な事を言った直後の殺人予告の手紙だったので、てっきりヘイスティングズの何かの伏線か、関係があるのかと思ってしまいましたが、実際はそういうわけではなく、たまたまだったようです(すみません、私の考えすぎでした)
最初のポアロと旧友のヘイスティングズの再会は、ポアロファンならニヤニヤするくらいの会話の応酬ですし、直接事件とは関係ないところですが最終回の作品と呼ばれる『カーテン』への伏線もうっすら入っています。『カーテン』を読んでいる方なら、”あ、この会話は!”と気付かれるかと思います

いつもは語り部としてヘイスティングズの目を通して事件を追うのですが、今回の『ABC殺人事件』はある理由から他の視点でも描かれます。これは最後まで読み終わって、ようやくそういうことか!と思います(言いたいけどネタバレなので言いません)ポアロ宛に殺人予告が届くこと、しかし防げずに殺人は次々と起こるので犯人の狙いはポアロに恨みがあると考えるのが話の流れではないでしょうか?散々推理小説を読んできた私は、そう考えもしますが、話はそんな単純ではありませんでした。予告があるのにもかかわらずポアロが手も足も出ず殺人が起こってしまう失態の連続ですし難事件と言っても良いと思います。
ミスリードもありますし素直に読んでいる読者は犯人が誰かさっぱり分からないと思います!犯人捜しは難しかったです
トリックとしては偶然に頼りすぎているので私にとって無人島に持っていくリストには最優先に入れる本ではありませんが、ABC順に殺人が起こるという前代未聞のアイデアはさすがだなと言うしかありません。
最後のポアロの謎解きのシーンはいつもながら大どんでん返しでスカッとします。事件は悲惨ですがハッピーエンドと言っても良いでしょう。(複雑ですが)
そして私のこの作品の大好きなところをあげるとミステリーでありながら①戦争反対の意思、戦争の後遺症の悲惨さ、②弱者への暖かいまなざしを感じられるところ、があります(それを感じられるシーンは少ないけど印象に残ります)もちろん魅力はそれだけではありませんので是非まだの方は読んでいただきたいと思います

映像化も沢山されている『ABC殺人事件』、BBCドラマも映像化をされていますがこのABC殺人事件のドラマ化に関してはとても面白い解釈と表現がされていました
こちらも機会があれば、原作を読んだ後でですが鑑賞をおすすめします(原作を読んでなくても面白いと思いますが、原作を読んでいた方がドラマの面白さは増えるかなと私は思いました)









鳩のなかの猫

アガサクリスティーの視野の広さ度  ★★★★★
学校経営の面白さ度         ★★★★★
教育とは何か            ★★★★☆
ただのミステリーではありません度  ★★★★★
とにかく女は膝は大事なのね度    ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度      ★★☆☆☆

ネタバレなしの紹介
この作品の中心はメドウバンクという有名お金持ち女学校です。イギリスの学校は全寮制というのはハリーポッターで有名ですが、そんな全寮制の学校が舞台の作品です。そういうと、学園モノで学園ミステリーなのか?と簡単にくくりたくなりますが、そう簡単な作品ではありません。なぜなら、冒頭に革命テロなど血なまぐさいシーンがいきなり出てくるからで革命的な方向と女学校を絡めとてもスリリングな作品になっています。これは誤解されないように言うのは難しいけれど男子校が舞台では又違う話になってしまうでしょう。
私が面白い、と思ったのはミステリー自体も独特で新鮮ですが女学校の考え方を校長先生であるバルストロードが痛快に理想をもって経営している所でした。今まで学校を”経営”としての観点から考えたことがなかったのでとても新鮮に感じたし、学生時代に戻ってこの学校で学んでみたいと思う校風がありました。言い方が難しいけれど、花嫁学校ではありません。この言い方はもう古いですよね、でもこの時代はまだこの考え方があった頃だと思います。現代に学ぶべき学校の本質を突いているので読んでいてワクワクします。ミステリーなのに、その背景の女学校自体がもう面白いのです。
そんな女学校で起こってしまう殺人事件は、学校長を悩ませます。普通なら殺人事件が起こった学校などとんでもないことでつぶれてもおかしくない所ですが、肝がすわっているこのバルストロード校長は考え方が斬新で世間をよく知っていてピンチをチャンスに変える考え方が出来る人に書かれています。この人の魅力にポアロも協力を惜しまないであろう、と想像出来ます。
大人になりきらない女性の、ちょうど微妙な時期を上手く書いています。イギリスの少女は、アジアの女性よりも幼い、と表現しそこが推理の重要な事柄でもあります。多分アジアの女性の方が結婚してしまう時期が早かった頃の名残なのかなと思いますし、とてもその表現はアジア圏でも生活したことがあるアガサならではの表現かなとも思います。
大部分が女学校が舞台ですから、それに伴い、女学生や女性教師いろんな女性の生き方が出てきます。戦後の影響もあり女スパイの話も出てきます。アガサの時代は戦争の背景が色濃く、リアルに女性の仕事としてあったんだろうなと思うのです。作り話でなく、戦争とはそういうものなのかと考えさせられます。

ネタバレちょっとありの紹介
この作品は有名女学校で起こる連続殺事件です。なぜか室内競技場(体育館のようなものでしょう)で殺人が起こることが事件のカギになります。そして、そこへ唯一の男と言って良いのですが男前の庭師が入り込みます。年配の庭師であれば問題はないのですが、女性の園に男前の若い男の庭師というのは怪しさ満点です。この作品の映像化の時は是非ともキャスティングに力を入れていただきたく思います。(これはアガサが映像化の時にお楽しみがあった方がいいと思った為ではなかろうかと思いましたが)
最大のヒントとしたら以前にアガサが書いた『茶色い服の男』のトリックが出てきます。でもそれが分かったからと言って、このミステリーの面白さは変わりませんので、興味がある方は読んでみてはいかがでしょうか。
そして肝心のポアロなのですが、この作品においてはポアロは後半からしかでてきません。ほぼ、女性が主人公と言ってもいいくらい、魅力的な女性陣が出てきます。アガサの脳みそは”女性脳””男性脳”の区別を超えているのかもしれません。女性の身体の一部(膝)に非常に関心があるようで、その表現は他の作品でも出てきます。
ポアロが登場すると驚きの展開とともに一気に解決となります。ここの展開の仕方は非常に面白いなと思います。
殺人事件は陰惨なのですが、それでも精一杯のハッピーエンドを用意しています。ここはアガサの上手いところかなと思います。