エッジウェア卿の死

ポアロがだまされる度    ★★★★☆
犯人に同情できない度    ★★★★★
女優の華やかさ度      ★★★★★
無人島に持ってきたい度   ★☆☆☆☆

ネタばれなしの紹介
この作品は読み始めからドラマティックです
華やかなショービジネスが舞台、美男美女が出てきますし何しろポアロの友人のヘイスティングズが最初に”ある非常に魅力的な一女性の心からの願いを実現することにもなる”などと思わせぶりに読み手を誘うからです

この頃のショービジネスの風景も今と変わりがないようで、結婚離婚の繰り返しで世間を賑やかすのは定番
そこにはお金とスキャンダルがてんこ盛りです
そんな中、よりによってポアロに離婚問題の解決を依頼する美人女優が出てくるのです
それがエッジウェア卿の奥様、ジェーン・ウィルキンスンなのです
エッジウェア卿は大金持ち、しかし性格に難ありで有名なひとなのですが前の夫人ともすったもんだでなかなか離婚に応じなかった過去があります
それが分かっていながら、その問題のエッジウェア卿と結婚するなんて女優っておかしな生き物ですねっと凡人の私などは思うのですが、大金持ちというのは変人を魅力的に魅せるものですから何回も問題おこしつつ結婚しちゃうわけです(だろうと思われます)
なので簡単にはいかない離婚に応じるように説得して欲しいとポアロにお願いするのも分からないではないのですが、そもそもポアロがやることがない案件です
自ら面白いと思う事件しか引き受けないポアロも強引な女優に無理やりその離婚問題を引き受けさせられますが
どちらかというと、ヘイスティングズがその女優のファンだったから、と言うのが理由ではないかと思います
ヘイスティングズは女性に弱いんだなと毎回思いますが、今回もその傾向は顕著です

とにかくその離婚問題が事件の発端になりますが離婚問題はあっけなく解決します
さすがポアロ!と言いたくなりますが別にポアロの手柄ではありません
ポアロが離婚問題に着手する前にエッジウェア卿はすでに離婚に応じていたというのです
そこもこの作品を惑わせるひとつの要因です
ウソをついているのは夫か夫人かどっちなのか?どちらもだまされているのか?
題名通りポアロが会ったその後にエッジウェア卿が殺されて亡くなるので、いうなればポアロは無理やり事件に巻き込まさせられたと言っていいと思います

離婚したい理由が、他の男と結婚したいからと言ってのけていた夫人の女優ジェーンは限りなく怪しい
しかし、完璧なアリバイがある
犯人は今の夫人と結婚したい新しい男なのか、前の夫人との間に出来た娘なのか、それとも?
一体エッジウェア卿を殺したのは誰なのか?
事件はどのように解決出来るのか?そんな作品です


アガサの作品にはいくつか女優が出てくる作品があります

女優ってこういう生き物でしょって言わんばかりのアガサの表現の面白さがそこにあります
例えば『鏡は横にひび割れて』なども女優が登場しますが(この作品はエリザベステイラーが演じられていた事もあります)こちらの女優はまたちがう表現をされてます
沢山の女優さんの表現がある中で自分がどんなに魅力的か分かっている女優のエゴイストの表現は上手いなと思います
そして同時に芸術として賞賛される女優も出てきたりします
今作ではカーロッタ・アダムズという女優の存在が面白いです
とても面白いなと思います
それだけでも読む価値はあるかもしれません

それをふまえた上で、
この『エッジウェア卿の死』重要人物の女優がちょっと大げさな描写かなと思いますし(そこが面白いと言えば面白いけれども)そこは置いといても、今作のポアロの推理はちょっと冴えが良くない気がするんです。ヘイスティングズの気に入った女性への盲目度は半端ないですし。(アガサはわざとでしょうが)そんなわけでこの作品が好きですか?と聞かれれば 私はあんまり好きではありませんと答えますがこの作品を面白いか、と言われれば、面白いと答えるでしょう
矛盾するかも知れませんが、そんなわけで無人島までは持っていかない本ではあるんですけど単純に見えて複雑な事件にしている、あり得ない設定のそんな作品とだけ言っておきます







ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴として面白いのは意味のないと思われる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては疑問が出るのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。そこに矛盾がないのが素晴らしいです。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、色んな物がなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかりなくなるのですが、そこの寮母として働いているのがポアロの秘書ミスレモンのお姉さんなので、様子を見に行く事になります。初めて訪れるシェアハウスで、捜し物のなくなったはずの靴の片方を携えて現われるポアロは魔法使いのようです。そこもすばらしい演出です。この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放ち、まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さがあぶり出されるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多くそれぞれが個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからは少しネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一の欠点は人間についての興味がないという事なのです。そのミス・レモンに実は姉がいて、姉の方は世話好きで人間に興味がありシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、強い口調で『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。甘くて熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大ショックの急展開過ぎます。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、姉は犯罪には無関係でした。ですがオーナー、ニコレティス夫人は犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それで却って犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたときそれぞれ俳優さんは誰がいいかな、なんて想像してしまう作品でそこも実に面白い作品だと思います。
ちなみに、ポアロの別作品『死者のあやまち』の中に似たようなトリックが出てきます。どこが似てるかはこれから読む人のお楽しみとして言わないでおきます。

杉の柩

愛憎の表現のロマンチック度 ★★★★★
最後のどんでん返し驚き度  ★★★★★
ポアロの冴えわたり度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度  ★★★★★


個人的に大好きな作品です!
この作品は主人公はポアロでなければ解けない謎ではないかと思われるくらい、依頼人にとって最初から不利な事件なのです。
小説の最初から、エノリアの有罪が漂っています。被告人エノリアは、お金もあり洗練されている聡明な美女です。そこはまず大事なコトになりますね。彼女には幼い時から決められたロディーという婚約者がいるのですが、実はエノリアはこのロディーをめちゃくちゃに愛しているのです。しかし、いよいよそのロディーと結婚間際という時にメアリーという若い女が現れに奪われてしまいそうになるのです。メアリー・ゲラードは使用人の娘なのだが、特別に雇い主によって教育もバッチリ受けて性格も可愛く、容姿もカワイイ。そのメアリーに、愛しい婚約者のロディーが心奪われてしまう、もしかしたら財産も奪われかねないピンチな自体です。エノリアは表面的に冷静さを装いますが心の中は激しい嫉妬がうずまきます。まさにそんな時にメアリーが殺されるのです。エノリアには動機もある、機会もある、そして、なにより被害者を殺したいと思う感情が渦巻いたことを読者にも明確に匂わせているので、エノリアは犯人として裁判にかけられていても仕方がないのです。しかし、そこに、エノリアに恋する男、ピーター・ロード医師が登場します!(ちなみにエノリアは何とも思ってません、何ということでしょう!)ピーター・ロード医師が片思いのエノリアのために有名なポアロに無罪を証明してほしいと依頼することで、推理小説となっていくのです。

まさに、愛の三角関係物語!しかし、ここからがすばらしいミステリーの幕が開きます。
最後の謎解きが裁判形式なのも、珍しいです。アガサの看護師時代の知識も出てきます。
ちょっと最後にバタバタとご都合主義の感じもありますけど、それを吹き飛ばすぐらいの説得力はあります(多分)
自分が感銘を受けたのは、アガサの愛に関するうんちくの言葉やセリフの数々。いろいろあったアガサですから説得力がありますね!
ポアロは一生独身ですが、アガサが書く主人公だからでしょうか?愛に関して決して無知ではありません。(と思われます)
最後の最後にポアロが放つ言葉が、実にかっこよく自分は大好きなのです。
読んで損はありません!

ひらいたトランプ

ゾクゾク度        ★★★★★
数回読んで味を占める度  ★★★★★
設定の面白さ度      ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★★★★★
 
これは、エルキュール・ポアロ作品です。
ひらいたトランプというように、トランプのゲームが出てきてきますが、ババ抜きとかじゃないですよ!この作品は日本人にはなじみのないゲームが出てきます。ルールは分からないけれど、登場人物が熱狂している描写が出てくるので、面白いゲームなんだろうな、と思われます。賭け棒とか出てくるし、賭け麻雀に近いかもしれません。もちろん、そのトランプゲームが、事件の大事な要になってきますが、ルールを知らなくとも楽しめる作品です。”こんなトランプゲームがあるんだな”で、いいので、読み進めて下さい。人間の本質をあぶりだしていく、とてもゾクゾクする作品です。自分はとてもこの作品が好きですね。

ネタバレなしの紹介

この作品が他と違っているのは、ここに出てくる登場人物は全員、殺人を犯してる事。でも、法の合間をかいくぐって、誰もなんの刑も受けてはいない。え?ネタバレじゃないのかって?大丈夫です。そんなことではこの作品は語れません。そんな犯罪者たちをコレクションして楽しんでいる”シャイタナ氏”が一番悪いのですが、というお話。トランプゲームの様子、やり方には人間性が出るということからのアガサの人間観察の鋭さがすばらしいです。最後の最後まで犯人が分からない、読者を裏切らない面白さがあります。私は何回も読んでますが、結末を知っててもやはり面白いです。私はこの作品が好きなので定期的に読みたくなる一冊なのです。