黄色いアイリス短編集

いろんな探偵ものが読める度★★★★★
アガサの原点かもしれない度★★★★☆
ドラマにしたい度     ★★★★☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★☆ 

表題にある『黄色いアイリス』の入った短編集です
9つの短編が収められており、ポアロもの、マープルもの、パーカーパインもの、有名な探偵は出ない話など、混合したバラエティーに富んだ短編集となっています。それはまるでフランス料理の重厚なフルコースというよりは、インドネシアのワンディッシュランチのような楽しさとユニークさです。一つのお皿にナシゴレンやサティやミーゴレン色鮮やかに辛いも甘いも乗っているようなそんなイメージをして頂いたらいいかもしれません。
この短編集の中には長編の原型ではないかと思われる作品がいくつかあります。『黄色いアイリス』が『忘られぬ死』の原型ではないかというのは有名な話ですが、それ以外にもいくつかある気がします。これは私だけが思うのかもしれません。是非、読んだ皆様がどう思われるか聞きたいところです。
特殊なのは『帆の暗い鏡の中に』です。有名な探偵が出てこない、不思議な話となっています。不気味な夢を見た気持ちになります。アガサは愛の側面、つまり甘いだけではないという事をこんな風に表現するんだなと思ったのです。アガサを語る時にこれは読んでた方がいい1つかもしれないと思う作品です。


ネタバレなしの紹介


レガッタ・デーの事件★☆☆
パーカー・パインの話。単純にいうと目の前でダイヤがきれいさっぱりに消えてしまう話。そこにいる誰もに身体検査をするのに、出てこない、、、。これは、やはり何かの長編の原型とまではいきませんが、どっかで既視感の有る感じです。なんの作品の元になってるのか今後、どこかで紹介する長編ではっきりするかも!(今はまだいいません)


バクダッドの大櫃(おおびつ)の謎★★★
ポアロの話。週刊誌ネタのような”バクダッドの大櫃の謎”という新聞の記事から始まる。異国情緒あふれる飾りのついた(たぶん当時はインテリアとしても使われてたのではなかろうか?)大櫃から大量の血がにじんでいた、その中にはなんと一人の男の死体が!という血生臭い話なのであるが、登場人物の三角関係にメロドラマを思わせる設定です。読んでるだけで、鮮やかな異国の飾りのある大櫃の舞台装置が頭の中で作り出されます。そして、ファアムファタルの存在なくしてはこの作品は意味を成しません!(男性にとって運命、もしくは破滅させる女性の存在)
『スペイン櫃の秘密』とほぼ同じ話です。(『クリスマスプティングの冒険』短編集に収録)


あなたの庭はどんな庭?★★☆
ポアロに切羽詰まった依頼の手紙が届くことから始まる。ポアロは依頼を受ける手紙を出すのであるが着くかつかないかで、実は依頼主が亡くなってしまう。依頼主が亡くなったので依頼の話はなかったことに、という断りの手紙が届くのにも関わらずポアロはいけしゃあしゃあとその家庭に乗り込んで謎を解いていくという話。しかし、理不尽な”死”に対してポアロは容赦しません。

ポリェンサ海岸の事件★☆☆
パーカー・パインのお話。ポアロが刑事事件を取り扱うとするならば、パーカー・パインはどちらかというと民事事件を扱う探偵といったところでしょうか。今、現在不幸な依頼者を幸せに導く探偵です。今回は海辺のリゾート地を舞台に”ユニークな方法で事件”を解決します。このパーカー・パインものは仲間がいてその仲間が非常に優秀です。どうやったらそんな人材が集まるんでしょう、、、、等と毎回思います。それも含めてユニークな作品です。

黄色いアイリス★★☆
この短編集の表題になってる作品。長編『忘られぬ死』の原型です。これに関していえば前回別に解説していますのでそちらを読んでいただけたら、ありがたいです。ポアロが珍しく妖艶な美女と絡みますよ!と言ったら誤解をさせるかもしれませんね。でもそんなご褒美もたまにはアガサは書くのだなって思います。

ミス・マープルの思い出話★★☆
話を座って聞いてるだけで、事件を論理立てて解決に導く”おばあさん”の話。つまりミス・マープルの話ですが、有罪確定と言われた知り合いの友人を救うのですが、現場に足を運んだりしないで、今までの人生経験と人間観察を武器として真犯人とその方法を導くのです。ネタバレになるので詳しくは書けないですが、男性は服装などに対してあんまり違いを見いだせないんだな、とアガサはそこを歯がゆく思ってたかもしれません。それを逆手に取ったトリックになります。妻殺しの罪で絞首刑確定の容疑者から話を聞くだけで瞬く間に解決するのですからすごい話です。ですからそんなスゴイ思い出話を甥のレイモンドに話す形になりますがそれはシレッと自慢話にもなりますね。町医者と、最先端の大病院の医者との比較をしてる所なんてマープル自身も恥ずかしそうにしてはいますがまんざらでもなさそうです。

仄暗い鏡の中に★★★
この話は有名な探偵が出てこないお話です。しかし、私はこの話に魅力を感じます。不思議だし、ちょっと考えたら不気味で狂気でしかない気もします。改めて読み返すと、、、読み返すたびに妙な何とも言えない怖さがありアガサの違った作品の楽しみ方が出来るのではないでしょうか。

船上の怪事件★☆☆
船の旅を楽しむポアロだったが、そこに事件が、、、という話。このお話はどことなく『アレとアレを組み合わせたような話』だなって思います。設定が『ナイルに死す』ぽいなと思うんです。(”ナイルに死す”を読んで短編を思い出したと以前書いたのですが、このお話でした!)サクッと読めます

二度目のゴング★☆☆
ポアロが依頼を受けて、その館に来てみれば、そのほんの15分前に依頼主が自殺しちゃってるっていうトンでもない話。当然自殺ではありません。お金持ちの家のルールはいろいろあるんでしょうが、ゴングが鳴ったら全員食卓を囲むとか、そういう食事のルールが出てきます。それが事件解決の糸口にもなります。ちなみに受けた依頼の内容は横領事件なのですが、その横領事件も一緒に解決してしまいます。その場合、依頼主は亡くなってるしその分の報酬はもらえるのかな?なんてどうでもいい事を考えてしまう自分です。




黄色いアイリス

ロマンチック度     ★★★★★
だまされるストーリー度 ★★★★★
ドラマにしたい度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度★★☆☆☆ 



黄色いアイリスは短編です
早川文庫短編集『黄色いアイリス』の中の1つ。表題になっている通りこの短編の中でも”代表格”と思われる作品です。
この作品を紹介するのには『忘られぬ死』という長編の存在を無視できません。なぜなら『忘られぬ死』の元となっている作品だからです。
『黄色いアイリス』と『忘られぬ死』短編と長編、違いはありますが、どちらも話の筋は似ています。

ネタバレなしの紹介


ポアロに謎めいた電話が掛かってきてくるところから始まります。ここが非常にドラマチック!まんまと興味を魅かれたポアロは電話で告げられた高級レストランに出かけるのですが、ポアロは探偵としてすでに有名で顔パスでそのレストランに入れるところが素晴らしい。そして、そこでは目印の”黄色いアイリス”が。実は4年前に亡くなった妻の追悼パーティーをしているのだという。そこで、、、、、というお話。
誰が電話を掛けたのか?なにが起こるのか?それをポアロが解いていくのです。読んだ最初の感想としたら”驚かされた!”ですかね。あと、話の筋と直接は関係はありませんが、高級レストランの給仕、もしくは支配人というのはお客様の事をよく見ているってこと!そして記憶力が素晴らしいんだなって思うんです。アガサも実際に良く利用されてたのでしょうね。確かにお得意様がどんなものを召し上がるか、どんなサービスをお望みかデザートのお好みや席の具合など神経を張っていなければお金持ちの常連客を繋ぎとめてはおけないでしょう。カッコいいお仕事だな、とそんなことを思いましたね!
短編なので慣れた方なら5分くらいで読めるんじゃないでしょうか。ポアロ作品の場、長編の方が私は好きなので星は少なめです。