象は忘れない

アガサファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
ポアロファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
大逆転度                ★★☆☆☆
無人島に持ってきたい度         ★★★☆☆ 

実は私が一番最後に紹介したかった作品です
なぜならアガサが書いたポアロものの本当に最後の作品だからです
チョット詳しい方ならポアロの最後の作品と言ったら『カーテン』じゃないのって言われるかも知れません
アガサの死後に発表するよう遺言され、その通りに世間に発表された作品は確かに『カーテン』です
詳しくはいつか「カーテン」を紹介したときにしたいと思いますが、とにかく実際にポアロもので「カーテン」後に書かれたのはこの『象は忘れない』なのです
なので、作中に昔に解いてきた、過去に遡って解決する『5匹の子豚』とか『ひらいたトランプ』とか他にもそんな作品名が出てきて、読みながらああ、本当にコレはアガサのポアロの最後の作品なのかとしみじみ思います
(今回紹介に至ったのは、世界情勢でのいろいろや災害いろんなことが起こるので、明日を後悔しないように、紹介したい作品を早めにしておこうと思った次第です、、、おおげさですけどね!)

過去の事件を掘り起こして真相にたどり着くポアロお得意の回顧推理ストーリーです
過去の事件自体は悲惨で悲しいのですが作品の構成はとても粋な作品です
ポアロの友人小説家のオリヴァが受けた依頼が発端で、過去の事件の真相を暴いていきますがオリヴァ自身もあちこち話を聞きに行く活躍ぶりです
その報告をもとにポアロは順序立て、真相を組み立てていきます
友人で小説家のオリヴァは、売れっ子でまるでアガサの分身のようです
有名人としてパーティーに呼ばれて行くことの滑稽さや“ファンです”と言われることの苦痛なども書いていて、この作品はその気の進まない催しの描写などから始まります
アガサもそんな気の進まないパーティーに出ていたのかもと思ったりして面白いです
この本の題名”象は忘れない”は”象は決して過去の事を忘れない”親切にしてくれた人の顔も、危害を加えた人の事も全て覚えている、その象の特性をアガサ自身も気に入っていたのでしょう
関係者の過去を思い出を『象』と名付けて“象をさがしに言ってくるわ”とオリヴァに言わせながらユーモアにして捜査に出かけていくことから題名が付いています
頻繁に”象”という言葉が出てきますが実際に本物の象は出てきません

トリックとしては、難しくはないです。今となってはミステリー好きなら思い付くネタかもと思わないでもないですし、トリックというよりは人間関係、動機は何かという謎解きになると思います。ちょっと感傷的な作品です
なので自分としては無人島まではもって行くにはちょっと湿っぽいなという感じです
いつも強気なポアロが自分はすでに過去の探偵なんだと自覚しているようなシーンもあって切ないです
自分の灰色の脳細胞に絶対的な自信のある傲慢気味なポアロがですよ?今まであり得なかった事です
対比として未来に生きる若い人間のたくましさを書いているのも、アガサ的に最後のポアロ作品『カーテン』の後の作品らしいと言えばらしいです。
作品の中に重要なアイテムの住所録が出て来るのですが、その年代別の住所録の年代のままに作品も書かれているのを知った時、直接事件のトリックとは関係ないですがアガサが生きていた時代をリアルに感じることが出来て興味深いと思います
最後のオリヴァの台詞を読み終えたとき、アガサはこの一言が最後にいいたかったのかなとハッとします

作品のあらすじ
小説家のオリヴァはあるパーティーの最中、一人の女性に頼み事をされます
以前オリヴァが名付け親になった女性がうちの息子と結婚する予定だが、その女性の親が過去に謎の心中事件を起こしている。男親の方が母親を殺してから自殺したのか、または逆なのかまたは第3者の殺しの可能性があるのか、それによっては息子の結婚に賛成しかねる、そんな内容です。オリヴァにとったら、過去何人もの名付け親になってるうち一人のことだし、いきなりそんなこと言われたって“いい迷惑”でございます。しかしまるっきり無視も出来ないので、そのパーティーの帰りに、早速ポアロの家に押しかけ(事前に電話するだけマシ)“こんなこと頼まれたのよ!過去の事件を調べるのあなた得意でしょう!”てな具合でまくし立て、ポアロに協力させるのです。遠慮なんてオリヴァに存在しません
ポアロは、その時にはすでに引退状態で、引き受けるギリなんてありませんが、オリヴァはポアロを上手に使うすべを知っています。そんなわけで引き受けたポアロとオリヴァは事件の真相に迫っていくのです

オリヴァに依頼してきた女性にも、秘密があり、ただ息子を心配するだけじゃない”何か”もあぶり出します
依頼主はそこまで暴かれたくなかったでしょうが、ポアロはお構いなしです。
とにかく関係者からの聞き取り、噂話の収集から始まります。過去の話ということもあり、聞く人によって事件の見方が違うことや、同じ家族の印象も違うので、何が本当か分からなくなってきます。それでも、地道に過去の思い出を聞き取りに旅に出るオリヴァとポアロがいて、些細なこと、例えば飼っている犬のことやかつらのことなどから真相が解かれたとき、なるほどなあ、、、と思います



ホロー荘の殺人

個性的な登場人物がいる度     ★★★★★
トリックの複雑度         ★★☆☆☆
ポアロの活躍度          ★☆☆☆☆ 
アガサの芸術家に対する秀逸な表現 ★★★★★
無人島に持っていきたい度     ★★☆☆☆

ネタばれ無しの紹介
この作品は一見単純に見えます。明らかに最初に犯人が分かるからです。
(しかしそういう単純な話ではもちろんありません)
なにせ私がこの作品を最初に読んだのが中学生でしたから『なんて単純な話だろう、ポアロが出る幕もない!』などと思ったものです。今思えば、人生経験も少ない時の浅はかな幼さ故なのですが。
それと同時に物語を引っ張る女性、”ヘンリエッタ”という芸術家が出てくるのですがその女性のようになりたいとあこがれを抱きました。彼女に自立と愛する人に媚びない強さ(当時はそう思いました)を感じたからです。
魅力的で個性的な女性5人が出てきます。幼い私はどんな大人の女性になろうかと思ったときにサンプルがこの本に出てくる、と感じていました。あこがれのヘンリエッタと対照的な女性”ガーダ”にはイライラしましたし、ホロー荘の女主人の”ルーシー”にはまさかこんな支離滅裂な人いるかしら?と思ったし(でも、社会に出たら、意外といました(^_^;))親近感を覚えるのが”ミッジ”、絶対に共感できない”ヴェロニカ”これだけで、充分かき回せそうな設定です。

さて話が少しずれましたね!
そもそもこの作品は読んでその名の通り『ホロー荘』で起こる殺人の話なのですが、『ホロー荘』というのは富裕層の持つ邸宅の名前です。そこに仲良し親族が集まるのが年中行事になっているわけです。それだけでは殺人の臭いはしませんね?殺人事件が起こるまでに、実に本編の3分の1読み終わらなければなりません。全ては殺人が起こるまでの入念な舞台装置を設置するためなんですが、その間に男女のドロドロなドラマがありまして今から思えば中学生には刺激が強いですね!パワハラはあるし浮気はするし!(詳しくは言いませんが)
すっかり整えられた舞台で、起こる殺人(に見える情景)をポアロは目撃して推理が始まるのですが、それまでに読者は前の日に何がこのホロー荘で起こったかは分かっています。それでも次の日のあまりにも急展開な殺人の情景をポアロの目線で一緒に知らされるので読者はこれは殺人が起こったという合図なんだろうか?どうなんだろうか?なんて混乱すると思います。そこが新鮮です。
この作品を推理小説とするにはあまりにも読者に対して証拠が少なすぎる気がするので、トリックの複雑度は★少なめです。犯人が”この人が犯人なんだ?”と共感出来ない自分がいるので、無人島に持っていきたい度も少なめですが、アガサの”脚本”の上手さにはうなります。
アガサの芸術家に対するリスペクトを感じる作品でもあります。他の作品『5匹の子豚』でも芸術家に対してのリスペクトを感じることが出来ます。

ポアロの秘書ミス・レモンについて



登場人物の紹介
ポアロ作品に出てくる人物になります

ミス・レモンというのはポアロの秘書です。45歳くらいの女性秘書で、しっかりとした仕事ぶりの、いかにもポアロが雇いそうな、そういった意味では申し分ない秘書として登場します。
事務的な処理については”失敗しない”有能キャラです。
文章の的確さから、請求書の分別、業者への対応、手紙のタイピングなど秘書としてすべて完璧。
あまり人をほめないポアロですが、その完璧さに一目置いてる感じがあります。
ここまで聞くとポアロと恋仲になっても良いのではと思うのですが、そうはなりません!

彼女の唯一、欠点としてあげるならば”人間についての興味がない”ということです。ポアロミス・レモンに『どう思う?』と興味ある事件について聞いたりしますがミス・レモンはイラッとした顔で”私の仕事の範囲と違うことを聞かないでください、それは今必要ですか?”と、まるで機械のような無機質さで答え、ポアロをがっかりさせます。人間に対する想像力があまりないタイプなのです。
想像豊かなポアロの友人ヘイスティングズとの比較に使われているようにも思います。

アガサの作品の『スペイン櫃の秘密』『バクダッド大櫃の秘密』は同じ題材でほとんど同じ内容の話ですが、『スペイン櫃の秘密』にはミスレモンが、事件に関わる人物の説明をわかりやすく説明させているシーンがあります。『バクダッド大櫃の秘密』にはヘイスティングズが出てくるので、そこも違います。読み比べてみてもいいかもしれません。
”ヒッコリーロードの殺人”という長編の中では、ミスレモンの姉が関わる事件を依頼をするのでその時はいつもより出番が多く、人間的なところをのぞかせるシーンも出てきます。(そこも面白い所だなと思います)
他にもミスレモンの活躍(?)を思い出せたら、随時追加していきますが、それにしてもポアロの秘書として、ポアロの秘書として彼が雇うにふさわしいな、と思える人物かも。出番は少なくとも、ポアロの作品において印象に残る登場人物です。
ミスレモンが、機械的な受け答えなどでポアロに対して女性的な”隙”が全く見えないのは、雇い主のポアロが(多少)変人に書かれていますので、もしかしたら、”雇い主としては良いけど恋愛対象にはならないわ!”というミスレモンの暗にそういう意思表示なのかもしれないと最近思うようになりました。今のところはなんとも言えないですけどね。そこらへんも想像しながら読んでみるのもいいかもしれません。

※最近、BSプレミアムで『名探偵ポアロ』のドラマが放送してます。(2022/07/現在水曜9:00~)
短編のドラマ化なのですが、ポアロの変人ぶりが俳優さんの演技力でわかりやすく伝わると思います。(褒めてます)
ナイル殺人事件の映画でのかっこいいポアロとはまた違うイメージですよ!アガサの原作のポアロ像としてはドラマの方がより近いかもなと思います。

ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴としては意味のないとおもわれる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては面白くないのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、不可解なものがなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかり。そこにポアロは縁あって様子を見に行くのですが(なぜかシェアハウスでなくなったはずの靴の片方を携えて。そこもすばらしい演出)、この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放つのです。まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さが増してくるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多く個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからはネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一苦手なのは人間についての興味がないって事。そのミス・レモンに実は姉がいて、ある寮というかシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大変おかしい。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、犯罪には無関係でした。そのオーナー、ニコレティス夫人も犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それでかえって、犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたとき女優さんは誰がいいかな、なんて思う作品で好きですね。

スタイルズ荘の怪事件

犯人が一転二転三転する度       ★★★★★
アガサの才能は最初からすごい度    ★★★★☆
ポアロつかみはOK 度          ★★★★★
ヘイティングスおちゃめ度       ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★☆☆☆ 

アガサの記念すべき推理小説一作目です。
アガサ自身が長く付き合うことになる名探偵ポアロがすでにここでで登場します。
その次に有名なヘイスティングズももちろん出てきます。
ヘイスティングズポアロの友人であり、推理の中で大事なポアロの相棒となります。
この2人の性格と関係性がこの作品を面白くしています。
トリックも、この当時の時代だから成立すると言うこともありますが、看護師の経験があるアガサならではの知識があってこそのしっかりとした小説になってます。


ネタバレなしの紹介

簡単に事件を説明すると

”スタイルズ地方の地主の
奉仕活動家女主人殺人事件”

といったところでしょうか!


傷病兵として休暇中のヘイスティングズが旧友の勧めで実家のあるスタイルズ荘に招かれ、ゆっくりすごそうかと思った矢先に旧友の継母である女主人が毒殺されてしまう。
その犯人探しになりますが、誰もが遺産を巡って動機があって怪しい。


読み進めていくと、一転二転して新しい事実がでてくるわ、遺言状は何枚も出てくるし、誰かが誰かをかばい
ややこしくするし、いったい誰が犯人か、てんやわんやします。


後妻業ならぬ、後夫業的な要素もアリ、不倫もあり、ワイドショーのネタ満載です。殺された女主人にお世話になったことがあるポアロもスタイルズ地方を訪れており、必然的に事件解決に乗り出すのです。


ヘイスティングズの独り言にヒントがあったりしますが
基本ポアロの推理のすごさを助長させるだけだったりします
最初から、ヘイスティングズの性格が固まってる
(女性の好みとか惚れっぽいとか)ので何回も同シリーズを読んでる私は、最初からヘイスティングズはこんなに惚れっぽいんだ、若いなあってニヤってするところもあります。
ポアロを登場させたこの時からアガサは続きものを書くつもりがあったかどうかは分からないですが(続き物を書く気はなかったと聞いたことがあります)

推理ものとしてとても面白い作品ですが、私的には登場人物、特に殺された女主人に自分は共感を持てないし魅力を感じないので(失礼だな)あんまり好きな作品ではないんです。
私が無人島に持っていく本としては、他のポアロ作品が私は大好きすぎるのです。あくまでも個人的な理由なので★少なめですが、面白い推理小説の1つであることに変わりありません。

黄色いアイリス短編集

いろんな探偵ものが読める度★★★★★
アガサの原点かもしれない度★★★★☆
ドラマにしたい度     ★★★★☆
無人島に持っていきたい度 ★★★★☆ 

表題にある『黄色いアイリス』の入った短編集です
9つの短編が収められており、ポアロもの、マープルもの、パーカーパインもの、有名な探偵は出ない話など、混合したバラエティーに富んだ短編集となっています。それはまるでフランス料理の重厚なフルコースというよりは、インドネシアのワンディッシュランチのような楽しさとユニークさです。一つのお皿にナシゴレンやサティやミーゴレン色鮮やかに辛いも甘いも乗っているようなそんなイメージをして頂いたらいいかもしれません。
この短編集の中には長編の原型ではないかと思われる作品がいくつかあります。『黄色いアイリス』が『忘られぬ死』の原型ではないかというのは有名な話ですが、それ以外にもいくつかある気がします。これは私だけが思うのかもしれません。是非、読んだ皆様がどう思われるか聞きたいところです。
特殊なのは『帆の暗い鏡の中に』です。有名な探偵が出てこない、不思議な話となっています。不気味な夢を見た気持ちになります。アガサは愛の側面、つまり甘いだけではないという事をこんな風に表現するんだなと思ったのです。アガサを語る時にこれは読んでた方がいい1つかもしれないと思う作品です。


ネタバレなしの紹介


レガッタ・デーの事件★☆☆
パーカー・パインの話。単純にいうと目の前でダイヤがきれいさっぱりに消えてしまう話。そこにいる誰もに身体検査をするのに、出てこない、、、。これは、やはり何かの長編の原型とまではいきませんが、どっかで既視感の有る感じです。なんの作品の元になってるのか今後、どこかで紹介する長編ではっきりするかも!(今はまだいいません)


バクダッドの大櫃(おおびつ)の謎★★★
ポアロの話。週刊誌ネタのような”バクダッドの大櫃の謎”という新聞の記事から始まる。異国情緒あふれる飾りのついた(たぶん当時はインテリアとしても使われてたのではなかろうか?)大櫃から大量の血がにじんでいた、その中にはなんと一人の男の死体が!という血生臭い話なのであるが、登場人物の三角関係にメロドラマを思わせる設定です。読んでるだけで、鮮やかな異国の飾りのある大櫃の舞台装置が頭の中で作り出されます。そして、ファアムファタルの存在なくしてはこの作品は意味を成しません!(男性にとって運命、もしくは破滅させる女性の存在)
『スペイン櫃の秘密』とほぼ同じ話です。(『クリスマスプティングの冒険』短編集に収録)


あなたの庭はどんな庭?★★☆
ポアロに切羽詰まった依頼の手紙が届くことから始まる。ポアロは依頼を受ける手紙を出すのであるが着くかつかないかで、実は依頼主が亡くなってしまう。依頼主が亡くなったので依頼の話はなかったことに、という断りの手紙が届くのにも関わらずポアロはいけしゃあしゃあとその家庭に乗り込んで謎を解いていくという話。しかし、理不尽な”死”に対してポアロは容赦しません。

ポリェンサ海岸の事件★☆☆
パーカー・パインのお話。ポアロが刑事事件を取り扱うとするならば、パーカー・パインはどちらかというと民事事件を扱う探偵といったところでしょうか。今、現在不幸な依頼者を幸せに導く探偵です。今回は海辺のリゾート地を舞台に”ユニークな方法で事件”を解決します。このパーカー・パインものは仲間がいてその仲間が非常に優秀です。どうやったらそんな人材が集まるんでしょう、、、、等と毎回思います。それも含めてユニークな作品です。

黄色いアイリス★★☆
この短編集の表題になってる作品。長編『忘られぬ死』の原型です。これに関していえば前回別に解説していますのでそちらを読んでいただけたら、ありがたいです。ポアロが珍しく妖艶な美女と絡みますよ!と言ったら誤解をさせるかもしれませんね。でもそんなご褒美もたまにはアガサは書くのだなって思います。

ミス・マープルの思い出話★★☆
話を座って聞いてるだけで、事件を論理立てて解決に導く”おばあさん”の話。つまりミス・マープルの話ですが、有罪確定と言われた知り合いの友人を救うのですが、現場に足を運んだりしないで、今までの人生経験と人間観察を武器として真犯人とその方法を導くのです。ネタバレになるので詳しくは書けないですが、男性は服装などに対してあんまり違いを見いだせないんだな、とアガサはそこを歯がゆく思ってたかもしれません。それを逆手に取ったトリックになります。妻殺しの罪で絞首刑確定の容疑者から話を聞くだけで瞬く間に解決するのですからすごい話です。ですからそんなスゴイ思い出話を甥のレイモンドに話す形になりますがそれはシレッと自慢話にもなりますね。町医者と、最先端の大病院の医者との比較をしてる所なんてマープル自身も恥ずかしそうにしてはいますがまんざらでもなさそうです。

仄暗い鏡の中に★★★
この話は有名な探偵が出てこないお話です。しかし、私はこの話に魅力を感じます。不思議だし、ちょっと考えたら不気味で狂気でしかない気もします。改めて読み返すと、、、読み返すたびに妙な何とも言えない怖さがありアガサの違った作品の楽しみ方が出来るのではないでしょうか。

船上の怪事件★☆☆
船の旅を楽しむポアロだったが、そこに事件が、、、という話。このお話はどことなく『アレとアレを組み合わせたような話』だなって思います。設定が『ナイルに死す』ぽいなと思うんです。(”ナイルに死す”を読んで短編を思い出したと以前書いたのですが、このお話でした!)サクッと読めます

二度目のゴング★☆☆
ポアロが依頼を受けて、その館に来てみれば、そのほんの15分前に依頼主が自殺しちゃってるっていうトンでもない話。当然自殺ではありません。お金持ちの家のルールはいろいろあるんでしょうが、ゴングが鳴ったら全員食卓を囲むとか、そういう食事のルールが出てきます。それが事件解決の糸口にもなります。ちなみに受けた依頼の内容は横領事件なのですが、その横領事件も一緒に解決してしまいます。その場合、依頼主は亡くなってるしその分の報酬はもらえるのかな?なんてどうでもいい事を考えてしまう自分です。




クリスティ短編集Ⅰ


バラエティーに富んで楽しめる度★★★★★
スターがそろい踏み度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度   ★★★☆☆
 
これは早川文庫ではなく新潮文庫になります
13篇の短編が入ってる短編集です。ポアロものが3篇、マープルものが5編、パーカーパインものが3篇、有名な探偵が出てこないけどもとても良質な2編、といったところです。

この短編が好きなのは有名な戯曲『検察側の証人』が入ってる事や自分の大好きな短編の『うぐいす荘』が冒頭に入ってる事です。なるべくネタバレをせずにこの短編集を紹介していきます


検察側の証人★★★
自分は幸運にも小説を読んだ後でBBCドラマを見たのです。小説を読んだときの驚きを単純に楽しめたのです。ドラマになると、やっぱりいろいろ道徳面でというか問題があるんだろうなと思いました。舞台で何度もされてる作品だし、言いたいことはひとつ”検察側の証人”であるその人がすべて。後は、主人公のように翻弄されるのを楽しむのが良いかと思います!

うぐいす荘★★★
早川文庫の『ナイチンゲール荘』と同じお話です。出版社と題名と訳者の違いでしょう。自分はこの作品が好きなので別で詳しく書いています。よろしければそちらも読んでみてください。



エジプト墓地の冒険★★☆
ポアロの短編です。ポアロの相棒、ヘイスティングㇲの語りが重要な短編です。事件解決のためにエジプトに1週間もかけて行ってしまうし、しかも意外とお洒落さんのポアロは、ピカピカの磨かれた靴が砂まみれ、ほこりまみれになるのも厭わずに神秘で不気味な謎に挑みます。これも意外な結末です。


ダヴェンハイム氏の失踪★☆☆
銀行の頭取が失踪した事件を、ポアロの旧友のジャップ警部から聞き、解決できるか賭けをするお話。解決のトリックがシンプルというのもありますが、それよりも、自分としては銀行の頭取とはいえ、中年男性が行方不明になるなんて、ちっともわくわくしない設定で、びっくりしました。ジャップ警部との賭けはどうなるのか?それを自分は楽しんだ作品です。

イタリア貴族の怪死★☆☆
食事をしていたとされる3人の紳士のうち1人が死体で発見される。後の2人は見つからない。一体誰と食事をしていたのか?事細かな食事の内容が語られて、アガサはグルメなんだろうなと思わされるし、それを楽しんで書いたのではないかと思われます。お米のスフレもデザートとして出てきて、事件の鍵を握っています。

火曜日の夜のつどい★★★
安楽椅子探偵として代表といわれるジェーンマープルの出てくる話です。”火曜クラブ”の最初の話になります。”火曜クラブ”というのは、ジェーンマープルの甥の作家のレイモンド・ウエストが発起人となって、とその親戚や仲間たちで謎解きをしようという”集い”のことです。ミスマープルは、甥のレイモンド・ウエストや他の参加者にとっては最初”単なる編み物をしている、ごく単純なよくあるおばあさん”とみられていて、謎解きの仲間にも無視されています。しかし、話を聞いてるだけのはずの、ごく普通のおばあさまに見えるジェーンマープルが謎を鮮やかに解いていくことで、誰からも称賛を得るというお話になっています。その記念すべき第一話となります。詳しい内容は第一話という事で敢えて言わないでおきましょう。アイザック・アシモフの書いた推理小説(短編集です)『黒後家蜘蛛の会』というシリーズがありますが、その給仕のヘンリーに当たるのがミスマープル、という構図になっています。気になる方はそちらも読んで見られてはどうでしょうか。

アスタ―ティーの神殿★☆☆
これも火曜クラブの続きになります。第一話で、ミスマープルは鮮やかに謎を解いているので、すでに皆から一目おかれている状態です。そしてこの”アスタ―ティーの神殿”というお話はイギリスの方ならば誰でも知っているというような神話が出てくるので、その神話を知っていなければ、謎を解くのは難しい。日本でいえば、日本昔はなしの”ももたろう”とかそんな感じでしょうか。ある意味女性が好みそうな神秘的な雰囲気のものです。もちろん、ミスマープルが最後には謎を解き明かします。

金塊事件★☆☆
これも火曜クラブの話になります。これはミスマープルの甥のレイモンドのかかわった話を自ら謎として、解決を提案する話。このお話はミスマープルのセリフで”おまえはロマンチックなんだよ”と甥のレイモンドに言うところがありますが、なるほど、そんな感じの話です。男のロマンとかそんな感じかもしれません。

舗道の血痕★★☆
これも火曜クラブのお話。話し方の工夫が必要になってくる謎です。舗道に血痕があったはずなのに、後で見た時にはすでに血痕はなくなってるという不気味な雰囲気が事件を予見させます。しかし話し手のとりとめのない話し方のためにややこしくなっている気がします。ちょっとずるいなと思わないでもない事件ですが、謎を解いた後でもちょっと不気味な気がするのは実際ありそうな話だからでしょうか?

動機対機会★☆☆
そしてこれも火曜クラブの話。遺言書のサインのお話。トリックは実に簡単。ミステリーの内容が”殺人”ではないせいか小学生向けのミステリーの本にもよくなっていました。しかし、トリックはちょっとずるい気がしますね。どうしてかというと、、、、それはお読みになった方が良いでしょう。

中年の人妻の事件★★☆
”あなたは幸福ですか?もし幸福でなかったらパーカーパイン氏に相談に来なさい”という怪しげな新聞広告から始まるストーリーです。パーカーパインは、アガサの小説の短編シリーズの探偵の1人でもあります。人生の悩みを依頼人から聞き、その悩みの本質を、人間の性を読み取り依頼人の幸福を取り戻す話です。ミステリーでもトリックのある話でもありませんがこれは中年の人妻の悩みにとって、最高に幸福になれる物語でしょう!後は読んでのお楽しみに!

悩める淑女の事件★★☆
これもパーカーパイン氏の話。これは宝石が出てくるお話。どうやって依頼人の悩みを解決するのかなと思っていると”なるほど、こうくるか!”と読者をすがすがしく(?)裏切る話です。(褒めています)

あるサラリーマンの冒険★☆☆
パーカーパインの話。そしてこの短編集の最後を締めるものがたりとなっています。これもミステリーというカテゴリーには入らないかも。まじめに働いてきたサラリーマンに裏切らない”幸福”を考えてくれるパーカーパインの温かさがあります。そしてこれを書いたアガサの”男の人ってこういう夢があるんでしょ?”って見透かしたような、でも楽しい作品となっています。