クリスティ短編集Ⅰ


バラエティーに富んで楽しめる度★★★★★
スターがそろい踏み度     ★★★★★
無人島に持っていきたい度   ★★★☆☆
 
これは早川文庫ではなく新潮文庫になります
13篇の短編が入ってる短編集です。ポアロものが3篇、マープルものが5編、パーカーパインものが3篇、有名な探偵が出てこないけどもとても良質な2編、といったところです。

この短編が好きなのは有名な戯曲『検察側の証人』が入ってる事や自分の大好きな短編の『うぐいす荘』が冒頭に入ってる事です。なるべくネタバレをせずにこの短編集を紹介していきます


検察側の証人★★★
自分は幸運にも小説を読んだ後でBBCドラマを見たのです。小説を読んだときの驚きを単純に楽しめたのです。ドラマになると、やっぱりいろいろ道徳面でというか問題があるんだろうなと思いました。舞台で何度もされてる作品だし、言いたいことはひとつ”検察側の証人”であるその人がすべて。後は、主人公のように翻弄されるのを楽しむのが良いかと思います!

うぐいす荘★★★
早川文庫の『ナイチンゲール荘』と同じお話です。出版社と題名と訳者の違いでしょう。自分はこの作品が好きなので別で詳しく書いています。よろしければそちらも読んでみてください。



エジプト墓地の冒険★★☆
ポアロの短編です。ポアロの相棒、ヘイスティングㇲの語りが重要な短編です。事件解決のためにエジプトに1週間もかけて行ってしまうし、しかも意外とお洒落さんのポアロは、ピカピカの磨かれた靴が砂まみれ、ほこりまみれになるのも厭わずに神秘で不気味な謎に挑みます。これも意外な結末です。


ダヴェンハイム氏の失踪★☆☆
銀行の頭取が失踪した事件を、ポアロの旧友のジャップ警部から聞き、解決できるか賭けをするお話。解決のトリックがシンプルというのもありますが、それよりも、自分としては銀行の頭取とはいえ、中年男性が行方不明になるなんて、ちっともわくわくしない設定で、びっくりしました。ジャップ警部との賭けはどうなるのか?それを自分は楽しんだ作品です。

イタリア貴族の怪死★☆☆
食事をしていたとされる3人の紳士のうち1人が死体で発見される。後の2人は見つからない。一体誰と食事をしていたのか?事細かな食事の内容が語られて、アガサはグルメなんだろうなと思わされるし、それを楽しんで書いたのではないかと思われます。お米のスフレもデザートとして出てきて、事件の鍵を握っています。

火曜日の夜のつどい★★★
安楽椅子探偵として代表といわれるジェーンマープルの出てくる話です。”火曜クラブ”の最初の話になります。”火曜クラブ”というのは、ジェーンマープルの甥の作家のレイモンド・ウエストが発起人となって、とその親戚や仲間たちで謎解きをしようという”集い”のことです。ミスマープルは、甥のレイモンド・ウエストや他の参加者にとっては最初”単なる編み物をしている、ごく単純なよくあるおばあさん”とみられていて、謎解きの仲間にも無視されています。しかし、話を聞いてるだけのはずの、ごく普通のおばあさまに見えるジェーンマープルが謎を鮮やかに解いていくことで、誰からも称賛を得るというお話になっています。その記念すべき第一話となります。詳しい内容は第一話という事で敢えて言わないでおきましょう。アイザック・アシモフの書いた推理小説(短編集です)『黒後家蜘蛛の会』というシリーズがありますが、その給仕のヘンリーに当たるのがミスマープル、という構図になっています。気になる方はそちらも読んで見られてはどうでしょうか。

アスタ―ティーの神殿★☆☆
これも火曜クラブの続きになります。第一話で、ミスマープルは鮮やかに謎を解いているので、すでに皆から一目おかれている状態です。そしてこの”アスタ―ティーの神殿”というお話はイギリスの方ならば誰でも知っているというような神話が出てくるので、その神話を知っていなければ、謎を解くのは難しい。日本でいえば、日本昔はなしの”ももたろう”とかそんな感じでしょうか。ある意味女性が好みそうな神秘的な雰囲気のものです。もちろん、ミスマープルが最後には謎を解き明かします。

金塊事件★☆☆
これも火曜クラブの話になります。これはミスマープルの甥のレイモンドのかかわった話を自ら謎として、解決を提案する話。このお話はミスマープルのセリフで”おまえはロマンチックなんだよ”と甥のレイモンドに言うところがありますが、なるほど、そんな感じの話です。男のロマンとかそんな感じかもしれません。

舗道の血痕★★☆
これも火曜クラブのお話。話し方の工夫が必要になってくる謎です。舗道に血痕があったはずなのに、後で見た時にはすでに血痕はなくなってるという不気味な雰囲気が事件を予見させます。しかし話し手のとりとめのない話し方のためにややこしくなっている気がします。ちょっとずるいなと思わないでもない事件ですが、謎を解いた後でもちょっと不気味な気がするのは実際ありそうな話だからでしょうか?

動機対機会★☆☆
そしてこれも火曜クラブの話。遺言書のサインのお話。トリックは実に簡単。ミステリーの内容が”殺人”ではないせいか小学生向けのミステリーの本にもよくなっていました。しかし、トリックはちょっとずるい気がしますね。どうしてかというと、、、、それはお読みになった方が良いでしょう。

中年の人妻の事件★★☆
”あなたは幸福ですか?もし幸福でなかったらパーカーパイン氏に相談に来なさい”という怪しげな新聞広告から始まるストーリーです。パーカーパインは、アガサの小説の短編シリーズの探偵の1人でもあります。人生の悩みを依頼人から聞き、その悩みの本質を、人間の性を読み取り依頼人の幸福を取り戻す話です。ミステリーでもトリックのある話でもありませんがこれは中年の人妻の悩みにとって、最高に幸福になれる物語でしょう!後は読んでのお楽しみに!

悩める淑女の事件★★☆
これもパーカーパイン氏の話。これは宝石が出てくるお話。どうやって依頼人の悩みを解決するのかなと思っていると”なるほど、こうくるか!”と読者をすがすがしく(?)裏切る話です。(褒めています)

あるサラリーマンの冒険★☆☆
パーカーパインの話。そしてこの短編集の最後を締めるものがたりとなっています。これもミステリーというカテゴリーには入らないかも。まじめに働いてきたサラリーマンに裏切らない”幸福”を考えてくれるパーカーパインの温かさがあります。そしてこれを書いたアガサの”男の人ってこういう夢があるんでしょ?”って見透かしたような、でも楽しい作品となっています。