象は忘れない

アガサファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
ポアロファンなら読んでおきたい度    ★★★★★
大逆転度                ★★☆☆☆
無人島に持ってきたい度         ★★★☆☆ 

実は私が一番最後に紹介したかった作品です
なぜならアガサが書いたポアロものの本当に最後の作品だからです
チョット詳しい方ならポアロの最後の作品と言ったら『カーテン』じゃないのって言われるかも知れません
アガサの死後に発表するよう遺言され、その通りに世間に発表された作品は確かに『カーテン』です
詳しくはいつか「カーテン」を紹介したときにしたいと思いますが、とにかく実際にポアロもので「カーテン」後に書かれたのはこの『象は忘れない』なのです
なので、作中に昔に解いてきた、過去に遡って解決する『5匹の子豚』とか『ひらいたトランプ』とか他にもそんな作品名が出てきて、読みながらああ、本当にコレはアガサのポアロの最後の作品なのかとしみじみ思います
(今回紹介に至ったのは、世界情勢でのいろいろや災害いろんなことが起こるので、明日を後悔しないように、紹介したい作品を早めにしておこうと思った次第です、、、おおげさですけどね!)

過去の事件を掘り起こして真相にたどり着くポアロお得意の回顧推理ストーリーです
過去の事件自体は悲惨で悲しいのですが作品の構成はとても粋な作品です
ポアロの友人小説家のオリヴァが受けた依頼が発端で、過去の事件の真相を暴いていきますがオリヴァ自身もあちこち話を聞きに行く活躍ぶりです
その報告をもとにポアロは順序立て、真相を組み立てていきます
友人で小説家のオリヴァは、売れっ子でまるでアガサの分身のようです
有名人としてパーティーに呼ばれて行くことの滑稽さや“ファンです”と言われることの苦痛なども書いていて、この作品はその気の進まない催しの描写などから始まります
アガサもそんな気の進まないパーティーに出ていたのかもと思ったりして面白いです
この本の題名”象は忘れない”は”象は決して過去の事を忘れない”親切にしてくれた人の顔も、危害を加えた人の事も全て覚えている、その象の特性をアガサ自身も気に入っていたのでしょう
関係者の過去を思い出を『象』と名付けて“象をさがしに言ってくるわ”とオリヴァに言わせながらユーモアにして捜査に出かけていくことから題名が付いています
頻繁に”象”という言葉が出てきますが実際に本物の象は出てきません

トリックとしては、難しくはないです。今となってはミステリー好きなら思い付くネタかもと思わないでもないですし、トリックというよりは人間関係、動機は何かという謎解きになると思います。ちょっと感傷的な作品です
なので自分としては無人島まではもって行くにはちょっと湿っぽいなという感じです
いつも強気なポアロが自分はすでに過去の探偵なんだと自覚しているようなシーンもあって切ないです
自分の灰色の脳細胞に絶対的な自信のある傲慢気味なポアロがですよ?今まであり得なかった事です
対比として未来に生きる若い人間のたくましさを書いているのも、アガサ的に最後のポアロ作品『カーテン』の後の作品らしいと言えばらしいです。
作品の中に重要なアイテムの住所録が出て来るのですが、その年代別の住所録の年代のままに作品も書かれているのを知った時、直接事件のトリックとは関係ないですがアガサが生きていた時代をリアルに感じることが出来て興味深いと思います
最後のオリヴァの台詞を読み終えたとき、アガサはこの一言が最後にいいたかったのかなとハッとします

作品のあらすじ
小説家のオリヴァはあるパーティーの最中、一人の女性に頼み事をされます
以前オリヴァが名付け親になった女性がうちの息子と結婚する予定だが、その女性の親が過去に謎の心中事件を起こしている。男親の方が母親を殺してから自殺したのか、または逆なのかまたは第3者の殺しの可能性があるのか、それによっては息子の結婚に賛成しかねる、そんな内容です。オリヴァにとったら、過去何人もの名付け親になってるうち一人のことだし、いきなりそんなこと言われたって“いい迷惑”でございます。しかしまるっきり無視も出来ないので、そのパーティーの帰りに、早速ポアロの家に押しかけ(事前に電話するだけマシ)“こんなこと頼まれたのよ!過去の事件を調べるのあなた得意でしょう!”てな具合でまくし立て、ポアロに協力させるのです。遠慮なんてオリヴァに存在しません
ポアロは、その時にはすでに引退状態で、引き受けるギリなんてありませんが、オリヴァはポアロを上手に使うすべを知っています。そんなわけで引き受けたポアロとオリヴァは事件の真相に迫っていくのです

オリヴァに依頼してきた女性にも、秘密があり、ただ息子を心配するだけじゃない”何か”もあぶり出します
依頼主はそこまで暴かれたくなかったでしょうが、ポアロはお構いなしです。
とにかく関係者からの聞き取り、噂話の収集から始まります。過去の話ということもあり、聞く人によって事件の見方が違うことや、同じ家族の印象も違うので、何が本当か分からなくなってきます。それでも、地道に過去の思い出を聞き取りに旅に出るオリヴァとポアロがいて、些細なこと、例えば飼っている犬のことやかつらのことなどから真相が解かれたとき、なるほどなあ、、、と思います



ホロー荘の殺人

個性的な登場人物がいる度     ★★★★★
トリックの複雑度         ★★☆☆☆
ポアロの活躍度          ★☆☆☆☆ 
アガサの芸術家に対する秀逸な表現 ★★★★★
無人島に持っていきたい度     ★★☆☆☆

ネタばれ無しの紹介
この作品は一見単純に見えます。明らかに最初に犯人が分かるからです。
(しかしそういう単純な話ではもちろんありません)
なにせ私がこの作品を最初に読んだのが中学生でしたから『なんて単純な話だろう、ポアロが出る幕もない!』などと思ったものです。今思えば、人生経験も少ない時の浅はかな幼さ故なのですが。
それと同時に物語を引っ張る女性、”ヘンリエッタ”という芸術家が出てくるのですがその女性のようになりたいとあこがれを抱きました。彼女に自立と愛する人に媚びない強さ(当時はそう思いました)を感じたからです。
魅力的で個性的な女性5人が出てきます。幼い私はどんな大人の女性になろうかと思ったときにサンプルがこの本に出てくる、と感じていました。あこがれのヘンリエッタと対照的な女性”ガーダ”にはイライラしましたし、ホロー荘の女主人の”ルーシー”にはまさかこんな支離滅裂な人いるかしら?と思ったし(でも、社会に出たら、意外といました(^_^;))親近感を覚えるのが”ミッジ”、絶対に共感できない”ヴェロニカ”これだけで、充分かき回せそうな設定です。

さて話が少しずれましたね!
そもそもこの作品は読んでその名の通り『ホロー荘』で起こる殺人の話なのですが、『ホロー荘』というのは富裕層の持つ邸宅の名前です。そこに仲良し親族が集まるのが年中行事になっているわけです。それだけでは殺人の臭いはしませんね?殺人事件が起こるまでに、実に本編の3分の1読み終わらなければなりません。全ては殺人が起こるまでの入念な舞台装置を設置するためなんですが、その間に男女のドロドロなドラマがありまして今から思えば中学生には刺激が強いですね!パワハラはあるし浮気はするし!(詳しくは言いませんが)
すっかり整えられた舞台で、起こる殺人(に見える情景)をポアロは目撃して推理が始まるのですが、それまでに読者は前の日に何がこのホロー荘で起こったかは分かっています。それでも次の日のあまりにも急展開な殺人の情景をポアロの目線で一緒に知らされるので読者はこれは殺人が起こったという合図なんだろうか?どうなんだろうか?なんて混乱すると思います。そこが新鮮です。
この作品を推理小説とするにはあまりにも読者に対して証拠が少なすぎる気がするので、トリックの複雑度は★少なめです。犯人が”この人が犯人なんだ?”と共感出来ない自分がいるので、無人島に持っていきたい度も少なめですが、アガサの”脚本”の上手さにはうなります。
アガサの芸術家に対するリスペクトを感じる作品でもあります。他の作品『5匹の子豚』でも芸術家に対してのリスペクトを感じることが出来ます。

カリブ海の秘密

マープルのかっこよさ   ★★★★☆
マープルの足を痛める度  ★★★★★
ちょっとずるい推理度   ★★★★★
無人島にもって行きたい度 ★★★☆☆

 

ネタバレあまり無しの紹介
アガサクリスティーの作品の中のミスマープルシリーズ
大人気の安楽椅子探偵ミスマープルの長編です
探偵といっても見た目はどこにでもいるようなおばあさんですから周りはその見た目に油断してしまいます
いつも村にいるはずのミスマープルが今回は海外にお出かけをしているところが特別な作品です!
セントメアリー村に住むマープルが甥のデズモンドの好意で南の島へ療養に行くことになるのですが、アガサクリスティーはミスマープルにご褒美のつもりで南の島へ行って欲しかったかもしれません。
お金持ちのリゾート地、カリブ海が舞台でミスマープルが活躍するわけなのでときめかないわけがありませんね

物語は、『人殺しの写真をごらんになりますかな?』といわれてその写真を見せようとしたパルグレイヴ少佐の死から始まります。高齢であること、高血圧だったなどから、病死とかたづけられるのですが、ミスマープルだけは疑問を抱きます。人殺しの写真を見せようとした時に、ミスマープルの肩越しにそっくりな”誰か”を見つけ、マープルにその写真をみせることなく慌てて写真を隠した姿を思い出すからです。

いつものセントメアリー村ならば、親しい警部も警察関係者もいて、協力してくれる人もいるマープルですが、ここは西インド諸島、マープルを知ってる人はいません。カリブ海のホテルに滞在する全ての人が怪しく見える中で、ミスマープルはただ一人調査を始めるのです。
最初は自分の”どこかしら身体の調子が悪い老人”に見えるであろう特性を生かし、人の良いお医者さんを巻き込むところから始めるのも面白いです。
最後には、世界的にお金持ちで有名な、しかし身体が不自由で口うるさい傲慢な年寄りのラフィール氏まで味方につけるという所も面白いです。一人の老婦人でしかないはずのマープルに味方がどんどん増えて行くのです。
(ラフィール氏を気に入ったのか、アガサはまたマープルの長編『復讐の女神』にも登場させてます)

そして余談ですがミスマープルはよく、足を痛めます!
お年寄りの特権と言って良いでしょう(ポジティブに言っています)
マープルもお年なので仕方ないと言えば仕方ないのですがファンとしてはキタキタ!と思います。

推理やトリックについて読者に対してずるいな!と思うところもあるので★は少なめです
読者をだましてるわけではないのですが、語らない事実は存在しないのと同じなので、そこの所をどう捉えるかという所です。
クライマックスはやはり最後の犯人が分かるところですが、この時のマープルの描写がまさに女神様のようで素晴らしいです。

あまりにも印象的なのでアガサはこのマープルが書きたかったので、この作品を書いたのでは?と思ったくらいです。
ラストにこんな粋な演出を用意してるなんて憎いなと思います。
アガサは本当にマープルが好きなんだなと思います。
ぜひ、そこの所も楽しん読んで欲しいと思います。

クリスマスにはアガサを!

クリスマスプティングの冒険

クリスマス度      ★★★★★
ユニークなお話度    ★★★★★
ポアロの魅力満載度   ★★★★★
無人島に持って行きたい度★★★★★

『クリスマスにはアガサクリスティー』を!

これは人気作家のアガサの当時のキャッチコピーです。
寒い冬、クリスマスも近い雪も降り積もるようなそんな日にぬくぬくした部屋でゆっくり推理小説を読む、、、読書家にはたまらない情景です!

クリスマスらしい題名の本として『ポアロのクリスマス』という長編作品もあるのですが

今回は短編集のアガサの推理小説『クリスマスプティングの冒険』がありますので紹介しましょう。
これは短編集で、巻頭を飾るのがこの題名の短編となります。
東洋のエキゾチック的なそんな香りが漂う中で、しかもクリスマスという時期にポアロに事件の依頼がくるのです。
どのような依頼かは、ここでは言いませんが、ポアロはお金のためには働かない、自分がしたいと思う事件のみ引き受けるというところがあるのですが、そんなポアロにあの手この手で引き受けさせようとする依頼者との攻防も面白いのです。
よりによって独身を自由に謳歌しているポアロに”家庭的なクリスマスを過ごしてもらうことも可能ですよ~っ”てアピールするのですが、よりによってあのポアロにですよ?!
それがはたしてポアロにとって良い作戦かどうか、、、想像つきますよね?

この作品の特徴は、イギリスの良き時代のクリスマスをアガサクリスティーがとても愛してたことが分かる作品です。
特別なクリスマスのご馳走、伝統的なクリスマスへの反発の若者達、その若者への慈愛、変わらない恋愛模様、推理だけでない楽しみがそこにあります。
特に表題になっている”クリスマスプティング”は事件の重要なアイテムでもありますが本当に美味しそうに書かれているので食べて見たいなあって思います
ポアロの推理はもちろん素晴らしいのですけど、クリスマスらしい結末になるところもいいですね


クリスマスプティングの冒険』は
短編集ですので同時に掲載のその他の作品は以下の作品になります
スペイン櫃の秘密
負け犬
二十四羽の黒つぐみ

グリーンショウ氏の阿房宮

いくつかの短編集の中にも収録済みの話もありますので重複しています
不思議なことに
最後の『グリーンショウ氏の阿房宮』だけはミスマープルのお話です

スペイン櫃の秘密
バクダッドの大櫃の謎』と大筋は同じですが、ポアロの秘書ミスレモンが出てくるのが違います。
ファアムファタル、男を破滅させる女が出てきます。週刊誌ネタ的もあり、血なまぐさくもあります。
お話の筋は同じですが私は、『バクダッドの大櫃の謎』よりこっちの方がお話の流れは好きですね!

負け犬
なかなかきわどい作品です。
というのは、ポアロが奇術を利用するからなんです。推理は、完璧ですよ。でも解決の仕方が、、、いまいち。
ポアロ好きな方でも好き嫌い分かれる作品ではないでしょうか

二十四羽の黒つぐみ
ポアロが実はグルメだと分かる作品です。
黒つぐみというのはブラックベリー、黒いちごのパイに使う名称のようです。
日本で言うなら「桑の実」のようなものでしょうか。
おいしそうな料理が出てきますよ!推理は、人間心理に乗っ取って納得の仕上がりです。


このトリックは前代未聞!思いもつかない方法で殺人が行われるしアリバイも驚きです。そんなにうまくいくかな?って思う事もひっくるめて、驚く作品だと思います

グリーンショウ氏の阿房宮
この作品も、他の短編集で似たお話が収録されています。(大筋は同じだと思いますが、雰囲気が違います)
この短編集において、唯一ミスマープルの作品です。
奇っ怪な、、、いえ、個性的な!お金持ちが建てた家が出てきます。それがどんなモノかは想像するしかないのですから
これを映像化するとなると、むずかしいでしょうね。(記憶が確かなら像化も1回してたは思いますが)
マープルおばあちゃんのおしゃべりは、いつも関係ないようでいて、最後に帳尻が合う小気味よさを楽しんで欲しいと思います。

ハロウィン・パーティー


イギリスのハロウィンパーティーを感じてみよう度  ★★★★★
アガサの分身?!推理作家のオリヴァが出てくる度  ★★★★★
リンゴ、リンゴ、カボチャじゃなくて?度      ★★★☆☆
純粋さやずるさは子も大人も関係なし度       ★★★★★
無人島に持って行きたい度             ★☆☆☆☆


ネタバレ無し紹介

ハロウィンとは具体的にはどんな事をするのか、私は今でも実はよく分かっていません。
日本に元々無い行事でなじみがないんですが、最近は楽しく仮装をしたりして『トリックアトリート』”お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!”っていってお菓子をもらいに行ったりって事を楽しんでるイメージです
でも、この本の中では、子どもを楽しますために地域の大人達があれやこれや用意したりしてる場面から始まりますので、日本で言うと自治体の子供会で用意するお楽しみ会に近いのかなと思います。
そんなアガサの時代のハロウィンの様子が分かるので、それを楽しみに読んでも面白いかも知れません。
(そしてよく言われる『トリックアトリート』”お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!”のシーンは出てこないのですよ!)

哀しいことに、そんな子どものお楽しみ会の合間に楽しんでたはずの子どもが殺されてしまう話なのです。

この話は、名探偵ポアロと推理作家のオリヴァが出てきます。晩年の方の作品になるので、作品中に過去に解決した事件の名前を出して懐かしくさせます。(ポアロが”ヘラクレスの冒険”などについて思いをはせたりしてファンの心をノスタルジックにさせるんですよ)、スペンス警視が引退して”元”警視で登場したりします。
ここで、推理作家のオリヴァについて説明しますと、この女流作家は、アガサ自身をモデルにしてると言われています。
実に、お茶目でおしゃべりで、リンゴ好き、ユニークな存在です。(本当にアガサはこんな感じの人なのかな?と、想像して楽しくなります)
今までの作品の中でも散々オリヴァがリンゴを食べるシーンが出てきます。
イギリスのリンゴは日本のリンゴと違って小ぶりのようですが、そのリンゴが殺人事件にも関わってきます。
”リンゴ食べゲーム”で使ったバケツと水、これが凶器になるんです。
(ハロウィン、といえばカボチャのはずですが、リンゴが目立つのも特徴的です)
そして、ある意味、人気推理作家のオリヴァがいるからこそ、起こる殺人だとも言えます。
それはどういう意味か、読んでみないと分からないのでぜひ興味がある方は読んで見てください。

ちょっとだけネタバレ

ミステリーファンで推理小説をたくさん読んでる人なら、このお話の中盤くらいで、犯人が分かるかと思います。
私も、犯人はこの人だろうって想像がつきました。アガサにしてはとても珍しいそれくらい単純なトリックです。
とはいっても、それを思い付いて矛盾のない内容にするのはやっぱりさすがアガサクリスティーです。
そこがどこか、楽しみに読んでもらいたい気持ちもあるので、紹介するのが難しいですね。
事件としてはハロウィンパーティーで女の子が殺されてしまい、その犯人捜し、となりますが、その子どもが言い放つ『私は殺人を見た』という嘘とも本当とも分からない言葉が原因なのではないか、とオリヴァはポアロに助けを求めます。
子どもたちにも人気がある推理作家オリヴァが、ハロウィンの子どもイベントのゲストとして呼ばれてるので、子ども達も殺人事件の話になり、その場の気を惹きたい子どもがついた嘘、ともとれる。
はたして子どもが見たという殺人は本当にあったのか?それが原因で殺された事に間違いは無いのか?
ポアロは捜査に乗り出します。
実はその殺人が起こった村は、昔一緒に事件を捜査していたスペンス元警視の終の住処なのです。(アガサファンとしては警察を引退してからも、ポアロと交流がある設定をうれしく思うのですが)
スペンス元警視から村人の情報を聞き出し、主要人物を訪ねて回り推理をしますが村人も一人一人、”こんな人いるなあ~”って人ばかりですから、人物描写が素晴らしいのです。
あっけなく事件は解決してしまうし、犯人は(私的に)すぐ分かってしまうし、無人島までは持って行って読む感じではないので、★は少なめですが。
見所、ならぬ”読所”としては、たくさんありますよ!
🎃ポアロの旧友のオリヴァ、スペンス元警視が出てくる
🎃アガサの時代のハロウィンの雰囲気が味わえる
🎃子どもの愚かさも狡猾さもよく出てる
🎃大人の愚かさも狡猾さもあいかわらず
🎃美男美女が出てきます
🎃前半の緩やかなストーリーから後半一気に解決に向かう時の緊迫の面白さ
🎃終盤の殺人の瞬間をまさに見ているかのような臨場感の表現(ぞっとしますよ)
といったところです。

ちなみに2023年映画化された『ベネチアの亡霊』は『ハロウィーン・パーティー』の原作を元にして作成されたと言われていますが、かなり別物となっています。オマージュ的な作品だと思います。映画は別物として面白かったです。
感想は全然別のブログのところに『ベネチアの亡霊』簡単に書いています。

春にして君を離れ

もしかしたらあなたを変える一冊かもしれない度  ★★★★★
傑作度               ★★★★☆
人と年齢を選ぶかもしれない作品度        ★★☆☆☆
探偵らしさ                   ☆☆☆☆☆
無人島に持って行きたい度            ★★☆☆☆ 

ネタバレなしの紹介
これは覚悟して読まなければなりません。なぜなら、読み終わった後にあなたを変えるかもしれないからです。
もしくは、全く響かないかもしれない。
なぜなら、そういう私が最初にこの小説を読んだときは”なんて退屈な話だろう”と思ったのです。読んだのは小学校のころでしたから無理もないかもしれません。アガサクリスティーの推理小説にハマりだしたころで、ポアロやマープルなどと同じ推理小説と疑わずに読んで、探偵も殺人も出てこないのですから一旦『?』となった作品です。
あらすじは、ありふれた主婦が主人公の物語。優しい夫、子どもにも恵まれて幸せに暮らすジョーンの人生のある一角を描いています。結婚した娘の病気を知りバクダッドに看病に出かけたジョーンはその帰りに古い友人と出会い、さらに宿泊所に留まることによって何かが彼女に起こるのです。
女として、母として光り輝く昼間にいたと思っていたのに気がつけば闇が迫っているかのようなぞわっとする感覚。
最後まで読まなくては彼女の真実にはたどり着けません。

これがサスペンスだと気づくには時間がかかりました。小学生の自分には気づけなかったのです。
再度私が読んだときは、いい大人になってからでしたが、その”意味”に気づいたとき、この小説の価値が一気に代わりました。その時の衝撃は面白いほどでした。


ネタバレギリギリの内容
私にとってこの本の中で印象的なのは夕暮れの”二人”のシーンでした。ここの描写は、素晴らしいです。こんな文章を書きたいと、ある意味憧れにしている文章のひとつです。
後は、思い出の中の恩師たちが思い出されて、ジョーンをゆさぶるところも巧妙です。すべては最初に出てくる旧友との再会がそうさせるという無理のない流れです。それまでは本当に何ごとも順調な幸せなジョーン。そして、バクダッドの宿泊所で起こった唐突な出来事がすべてを変えます。しかし、それだけでは終わりません。
最後に列車の中で出会う女性が自分には不気味なのです。一見、ただの通りすがりの乗客にしか過ぎない人物のように描かれていますし、ある決意をもったジョーンの救いのようにも思いますが、果たして救いだったのでしょうか?はたしてなんのためにアガサはこの女性に会わせたのだろう、もし出会わなければ、、、ジョーンの運命も大きく変わったかもしれないのです。それくらい最後に出会う女性の存在が私には異質に思います。
最後まで読んで、ようやく主人公のジョーンが、やはり誰よりも幸せな女性、でもそうではない側面があると言うことを読んだ自分自身が感じずにいられないのです。
そして、この小説は歴史的に世界が暗い争いの影に覆われてくような描写もあります。そこも西暦2022年の夏に通じる一冊だと思います。

招かれざる客(戯曲)

アガサクリスティーのミステリー戯曲のひとつです。題名が秀逸です!
ポアロやマープルのような有名な登場人物は出てこない戯曲ですが、最初からミステリアスに登場する主人公がばっちり読者をつかみます。
そして、主人公は美人ですが、男運が悪い!と、思ってしまうような展開に、そういう方向で読んでも、違った印象の作品になるかもなと思います。

戯曲としての面白さ   ★★★★★
ドラマティック度    ★★★★★
どんでん返し度     ★★★★★
この人妻を演じてみたい度★★★★★
無人島に持って行きたい度★★★☆☆

ネタバレなしの紹介
この作品は戯曲、つまり舞台で上演されるのを前提とした作品です。戯曲とは台本のような、つまりはシナリオなので、本を開くと、しょっぱなから舞台の配置図の記載があってそこから読み始めるようになってます。そこで読み慣れてない人は『ん?』と思うでしょう。大丈夫、十分面白く読めます!長編ほどには時間がかからずサクッと読めますし舞台としてどんな風に俳優が動くのかなとか、思ったりしながら読むのもありです。戯曲としては『ブラックコーヒー』というポアロの主人公のものがアガサの初めて書いた戯曲になりますが、この『招かれざる客』は、有名な登場人物はいない作品です。つまりポアロなどの有名な探偵は出てきませんがすでにヒットを何本も飛ばしているアガサの腕は確かで、登場人物が無名であっても面白さへの期待は十分なのです。よくできた題であって、誰が誰にとって招かれざる客なのか?読む前から想像力に火がつきそうな題名です。そもそも、アガサは題名の付け方が抜群にうまいのであります。印象的な題としては『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』『春にして君を離れ』などがあると思いますが、この”招かれざる客”も優れた題名だと思います。


あらすじ
車の故障で困ってる男が、屋敷に助けを求めてくるところから始まります。すると、なんとその屋敷の中には男の死体があり、その同じ部屋にいる美しい女性が『私が殺しました』と言い放つという、ドラマチックな始まりです。そしてこの女性は死んでいる男の妻なのですが、なぜか偶然訪ねてきたこの男が、話を聞くうちに殺した女性に同情できる点があるとして、彼女をかばおうとする話です。

ネタバレ少しあり
この作品の面白さは、観客をいかにロマンチックにだますか、ということに工夫している点かなと思います。アガサの作品は大体、読者があっと驚くような仕掛けのミステリーが得意ですが、これはそれに愛憎劇が混じるのです。突然現れた見ず知らずの男マイクル・スタークウエッターがやってきて、困っている美しい妻ローラを助けようとする、その一部始終といえばそうなんですが、お互いが一目惚れなんじゃ無いの?というくらい最初から二人っきりの掛け合いシーンが続きます。大体、突然家を訪れたら人が死んでいて、傍らにたたずむ人が”私が撃ちました”とか言ったら、すぐに警察を呼ぶなり、捕まえるなりするものでしょう?しかしそうはならない、なぜなら、お互い美男美女で恋に墜ちたから!だから!と言わんばかりの冒頭の二人の掛け合いに、観客もマイクル・スタークウェッターローラへ同情的になっていくのだろうと予想されます。(いや、そもそも、妻と言ってる時点で夫が死んでるとはいえ道徳的にどうなのと思わなくも無いけど)そしていわば突然前現れたヒーローであるかのような彼のアリバイ工作、証拠隠しなどを観客は一緒に見ているので一幕終わる頃には”どうなるのだろう?犯人の女性を男は隠し通せるのだろうか”ということに引き込まれてしまいます。しかし、だんだんと彼女の嘘が暴かれていき本当に彼女が殺したのか、それすらもわからなくなってくる。なにしろ、ローラには元々不倫相手がいるのです。ほんとに人妻とはいえ、美人ってモテるのね!(と納得させるほどにローラに魅力がなきゃいけませんが)じゃローラは悪女なのか?と言われたら同情できる背景が用意されてるし、一筋縄ではいきません。真犯人は誰だ?と観客が思った頃にはまんまとアガサの罠にはまっているのです。怒濤の後半の逆転劇にうなるしかない、作品です。
あまりにロマンチックすぎるのでこの作品を読むシュチュエーションとして無人島に持って行くよりは、秋の夜などにお酒を飲みながら読みたいなと思う本です(個人的な感想です)

ポアロの秘書ミス・レモンについて



登場人物の紹介
ポアロ作品に出てくる人物になります

ミス・レモンというのはポアロの秘書です。45歳くらいの女性秘書で、しっかりとした仕事ぶりの、いかにもポアロが雇いそうな、そういった意味では申し分ない秘書として登場します。事務的な処理については”失敗しない”有能キャラです。
文章の的確さから、請求書の分別、業者への対応、手紙のタイピングなど秘書としてすべて完璧です。
あまり人をほめないポアロですが、その完璧さに一目置いてる感じがあります。ここまで聞くとポアロと恋仲になっても良いのではと思うのですが、そうはなりません!

なぜなら彼女の唯一欠点ば”人間についての興味がない”ということなのです。ポアロミス・レモンに『どう思う?』と興味ある事件について聞いたりしますがミス・レモンはイラッとした顔で”私の仕事の範囲と違うことを聞かないでください、それは今必要ですか?”と、まるで機械のような無機質さで答え、ポアロをがっかりさせます。人間に対する想像力があまりないタイプなのです。ですから、秘書として優秀でもポアロと恋仲になりそうな雰囲気は全くありません。
想像豊かなポアロの友人ヘイスティングズとの比較に使われているようにも思います。

アガサの作品の『スペイン櫃の秘密』『バクダッド大櫃の秘密』は同じ題材でほとんど同じ内容の話ですが、雰囲気は違います。『スペイン櫃の秘密』にはミスレモンが、事件に関わる人物の説明をわかりやすく説明させているシーンがあります。『バクダッド大櫃の秘密』にはヘイスティングズが出てくるので、そこも違います。微妙な違いを読み比べてみてもいいかもしれません。
”ヒッコリーロードの殺人”という長編の中では、ミスレモンの姉が関わる事件を依頼をするのでその時はいつもより出番が多く、人間的なところをのぞかせるシーンも出てきます。(そこも面白い所だなと思います)
他にもミスレモンの活躍を思い出せたら、随時追加していきますが、それにしてもポアロの完璧な秘書として、彼が雇うにふさわしいなと思える人物かもしれません。出番は少なくとも、ポアロの作品において印象に残る登場人物です。
ミスレモンが、機械的な受け答えなど徹底しており、決して恋仲にならず、ポアロに対して女性的な”隙”が全く見えないのは、雇い主のポアロが(多少)変人に書かれていますので、もしかしたら、”雇い主としては良いけど恋愛対象にはならないわ!”というミスレモンの暗にそういう意思表示なのかもしれないと最近思うようになりました。今のところはなんとも言えないですが。そこらへんも想像しながら読んでみるのもいいかもしれません。


検察側の証人(情婦)

アガサのエンターテインメント度 ★★★★★
超有名作品           ★★★★★             
誰も思いつかないミステリー   ★★★★☆
後味の複雑な両面の味わい    ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度    ★★★★☆

ネタバレしてます!
ネタバレを望まない方は、これより下を読まないでくださいね!
この作品は短編集のところでも紹介しましたが、アガサを知るならこれも読んでないなんてことあり得ない、というくらいに有名な戯曲作品です。別名『情婦』とも言われます。
初演から”絶対にエンディングは誰にも話さないで”と観客に約束させてたというくらいにすべての謎がエンディングにあります。 まあ、ここではこの後その謎をばらしますけどね!
ある富豪の老女が惨殺される事件が起き、直前に交際したとされる若い男ヴォールが容疑者として裁判にかけられます。彼の弁護士いわく、ハンサムでスポーツマンでしかし裕福ではないヴォールがお金以外の理由で老女になんの下心もなしに親切にするだろうか?しかも、彼は自分に妻がいることを老女に隠していたし、その老女は遺産相続人をヴォールに指定している。その老女が死ねば莫大な財産は彼のものになるという動機が出来ているのである。真っ黒黒である!アリバイもない、動機はある、その弁護を引きうけた弁護士メイハーンは負けを確信している。ヴォールは、殺人の時間には家に帰っていた事を妻ロメインが証人になってくれるというので、弁護士は会いに行くのである。ところが唯一彼のアリバイ証言をした妻ロメインに会いに行ったとき、彼女は言う『私が、9時には夫が家にいたと申したら、無罪になるのでしょうか?その他に無罪放免になる可能性のある証言をされる方はいるのでしょうか』と。彼はしぶしぶ『誰もいません』という。そこから彼女は、夫であるヴォールへの激しい憎しみを告白し『あの人が罪に問われて縛り首になるのを見たいのだ』と驚くことを言う。それを聞いた弁護士は、妻ロメインが夫を有罪にするために証言をでっちあげてると確信し、それを崩すために妻の身辺を探るのである。すると次々と嘘が分かり、結果ヴォール無罪となるのである。弁護士の汗と涙の結晶!弁護士万歳!とよろこんでいると、実はそれこそが嘘であり、夫ヴォールを助けるためにすべては妻ロメインが仕掛けた嘘の痕跡の数々だったのである。献身的な妻が証言したアリバイなどなんの役にも立たないと判断したロメインは、わざと夫を憎んでいる芝居をし、夫のアリバイを逆に証明するのである。まんまと、だまされる弁護士、そして裁判所と民衆、警察。しかし驚くべきことは更にある。その妻が付いた嘘は彼の無罪を信じるが故と思うではないですか!違うんです!ここまでで終われば、献身的な妻の美しい話で終わるはずなのに!

『誰よりもヴォールの無実を信じてるから、このような事をしたのですね?』と弁護士がロメインに聞いた後の一言が『誰よりも私が彼が犯人だと分かっているからです』と言い放つので、さらに驚かせるのです。
BBCドラマでは、その辺をもっとどす黒く描き、戦後の暗い影をひきずり(BBCドラマはわりとそうですね)ハッピーには終わりません。後味が悪いったらありゃしない!(個人的感想)でも美しく、おどろおどろしい世界観は観るべき価値があります。アガサの作品を普通にタダでは終わらせない感じです。
一度はこの情婦(あえて情婦と言いましょう)役のロメインを演じたいと思う女優さんが少なくないかも、と思わせるほど怪しい魅力です。原作は夫を愛するが故の賢い情婦、ある意味けなげ、と読み取れなくもない。実際最初読んだとき、そう感じ取れました。しかし、BBCドラマでは悪女色を強めています。実際、殺人犯を無罪にしてしまう話ですからね、倫理的には賛成しかねます。エンターテイメントとしては最高ですが。それを含め、素晴らしい作品だと思います。

※最近、BSプレミアムで『名探偵ポアロ』のドラマが放送してます。(2022/07/現在水曜9:00~)
短編のドラマ化なのですが、ポアロの変人ぶりが俳優さんの演技力でわかりやすく伝わると思います。(褒めてます)
ナイル殺人事件の映画でのかっこいいポアロとはまた違うイメージですよ!原作はドラマの方がより近いなと思います。

ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴として面白いのは意味のないと思われる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては疑問が出るのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。そこに矛盾がないのが素晴らしいです。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、色んな物がなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかりなくなるのですが、そこの寮母として働いているのがポアロの秘書ミスレモンのお姉さんなので、様子を見に行く事になります。初めて訪れるシェアハウスで、捜し物のなくなったはずの靴の片方を携えて現われるポアロは魔法使いのようです。そこもすばらしい演出です。この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放ち、まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さがあぶり出されるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多くそれぞれが個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからは少しネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一の欠点は人間についての興味がないという事なのです。そのミス・レモンに実は姉がいて、姉の方は世話好きで人間に興味がありシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、強い口調で『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。甘くて熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大ショックの急展開過ぎます。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、姉は犯罪には無関係でした。ですがオーナー、ニコレティス夫人は犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それで却って犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたときそれぞれ俳優さんは誰がいいかな、なんて想像してしまう作品でそこも実に面白い作品だと思います。
ちなみに、ポアロの別作品『死者のあやまち』の中に似たようなトリックが出てきます。どこが似てるかはこれから読む人のお楽しみとして言わないでおきます。