茶色の服の男

アガサの作品の中で一番アクティブな女性が出てくる度 ★★★★★
勇気がもらえる度                  ★★★★★
冒険を忘れた人に読んで欲しい度           ★★★☆☆
ミステリー度                    ★★☆☆☆
無人島に持っていきたい度              ★★☆☆☆

ネタばれなしの紹介
この作品は、探偵物ではありません。ポアロもマープルもアガサクリスティーの作品で有名な探偵が出てきません。
たった一人の女の子が冒険を繰り広げる物語です。
そういうとミステリーでは無いように思いますが、それが絶妙に推理小説となり得るギリギリのところで書いてある作品なのです。
偶然にあるショッキングな列車事故(と言っておきます)に遭遇しそれが殺人と絡むことで始まることになりますが、そもそも主人公のアンが、若き女性でたった一人の身内の父親が亡くなったことから始まります。
父親が死んで天涯孤独でしょんぼりしてるかと思うとそうではありません。自由になったとばかり孤独な少女が一人で羽ばたくのです。少しばかり残してくれた遺産を手に向こう見ずで自信家で、、、自分の若さを肯定しているこの少女には驚くほど行動力だけがあります。逆に言えば、一人の少女に行動力を起こさせる事に矛盾を感じさせない工夫をアガサクリスティーはしていますし、そのアイデアは一体どこから思い付くのだろうと思います。
『茶色の服の男』という題名は、私には本の中身を考えると随分”らしくない”題名だなと思います。アガサクリスティーと言えば、『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』『カーテン』などちょっと凝った感じの題名を付け、読んだ後に”ああ、そうか”と思う物が多いのですが、この『茶色の服の男』は、本の中身のアクティブさ冒険活劇の様子を考えると思ったよりおとなしい題だなあと今でも思います。実際、この題名のせいで私はアガサの作品の中でも随分遅くに読むことになりました。茶色の服の男って言われても、全然ときめかない題名だなあと今でも思います。あくまでも私の感性なので、申し訳ありません。でも、読んでみると内容は素晴らしくアグレッシブで冒険、スリル、恋愛、ゴージャスな内容でした。
『茶色の服の男』なんてたいしたことないのでは?と思ってた私はまんまと裏切られました。

映画化してみたら面白い作品だなと思いますね。主人公の女の子がとてもチャーミングに書かれているので足が奇麗な女優さんに是非演じていただきたい、なんて思います。(何故足が奇麗と言うのかは、是非本を読んでいただきたいと思います)
もっともアガサは自分の作品が映画化されることがあまり好きでは無かったと聞いていますが。
そして 女の子というのはどうして危険な男に惹かれてしまうのでしょうか
アガサは恋にのめり込む若さも充分かき分けていて、冒険シーンもさることながら本当に若々しい作品となっています

    

娘は娘

探偵モノではないが気になる一冊度    ★★★★☆
娘を持つ人が読んでおきたい度      ★★★★★
成長するって時間がかかる度       ★★★★★
アガサの男女感がわかる度        ★★★★☆
アガサはこういう本もいい度       ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度        ☆☆☆☆☆

アガサクリスティーと言えば『ポアロ』や『ミスマープル』など探偵が出てくるミステリーが有名でしょう!
しかしこの作品は探偵モノではありません
私も、アガサが推理もの以外の小説を書いていることは、かなりの探偵小説を読んでから知りました
アガサの別の名のメアリ・ウエストマコットで書かれた探偵もの以外の作品です
なので、アガサクリスティーの探偵作品のファンには戸惑いの一冊かもしれません。
しかし『春にして君を離れ』を読んでその世界を理解した後の私には読みたいなという気にさせました。
(詳しくは『春にして君を離れ』のところをご覧ください)
簡単にいうなら人間ドラマです
例えるなら日本のドラマで言うなら『渡る世間は鬼ばかり』の親子版という感じでしょうか
(ざっくり言うと)

最初は深い愛をもつ典型的な母に焦点があります
娘の幸せだけを願う母、盲目的かと思えるほどに娘に服従し、娘は自分ではそうとは分からず母に依存している関係です
娘の身体が大きくなるにつれ、しかし心はまだ身体に追いつかないアンバランスな状態も良く書かれています。
ひとつ思うのは、母親もこういう大人になりかけの娘を育てるのは初めての事だということ。母親自身が無事に大人になったという経験はありますが、娘が大人になるということは全く別の話なのだとこの作品を読んで分かりました。
まず母がシングルマザーであり、新しい恋に生きようとする可能性、自由があるということ
この母親に新しい恋人が出来る設定もよくあるようで、現実にはとても難しい問題があることもある程度想像がつくでしょう
この作品では娘が子どもであることの武器を総動員して母の幸せを阻止するのです

子どもの気持ちは『お母さんの為を思って』なのであるから、一番始末が悪い
『あんな男と結婚したらお母さんは不幸になる』と、母の恋人の欠点だけをことさら大きく宣伝し娘自ら思い込み
母の恋人は敵であるから、全力で攻撃をしまくるのである
ある意味それは正しい
なぜなら、完璧な人などいないから、娘が”この人のここはダメだと思う”は正しいのである
一方、母は大人であるから人は誰も完璧ではないことを知っている。
恋をするとは結婚するとは、夫婦になるということは
完璧な人同士だから幸せになるとは限らないということも知っている
結局は娘の幼さ故、母の愛を独占したいためということも分かりながら、母親は自分の幸せを”娘の為に”苦しくてたまらないのに手放すのである

そういうわけで。。。。
結果的には、相手の幸せを願ったはずなのにそれが相手の幸せにならない愚かさを実に巧妙に書いています
何が言いたいかというと、この作品には人生の滑稽さと未熟さと犠牲の醜さを書いていると言えるのではないだろうか
傍から見たら、冷静に判断できるが(この作品を読んだ後の自分というのもあるが)
もし、当事者であったなら、きっと自分も”何かに負けて”この母のように、犠牲の愚かさ”を選択するのであろうとも思った
小説の中の母は恋人と娘の二択を迫られて、娘のことを取る構図となっているが、結局はこの母は、その時どっちを選んでも悩み苦しい結果になっただろうとは思う。そういう人であろうから。
小説のように娘を選んだ母の立場で物を言うなら、他人から観た自分も意識したり、娘に恩を売る気持ちがあったかもしれない。
でも『誰かの為の犠牲』と自分が思っている限り自分の幸せもない(なかなかそれに気がつかないけど)

これが他人なら違う感想もあるかもしれないが、母娘なので、他の人間関係よりは干渉せざるえないことも『娘は娘』の題に表されているかもしれない。(ちなみに『母と息子』だとこうはならない、絶対に違う。)
作品の後半はそんな母娘の対決になるのですが、そこが唯一謎解きのようにスカッとさせます

そんなわけで、読み応えある一冊ではありますが、私が無人島にもって行くには湿っぽいし、無人島に行ってまで親子関係の謎解きはもうイイかな、と思うので、持っていきたい気持ちはありません(ばっさり)でも、良い作品ですよ!
親子を取り巻く人物がほんとうに面白い。腐れ縁的な悪友もそう、ばあや的なお手伝いさんもすばらしい。
読む人の立場によって感想も違ってくるであろうと思います
でも、声を大にして言いたいですが、ミステリーとしての謎解きはなくとも小説としてとても良い小説です


  

アガサと無人島と言えば『そして誰もいなくなった』

そして誰もいなくなった

これはアガサクリスティーの代表作の一つと言っていいですね。
謎を解くというよりは、最後のどんでん返しに読者は驚き魅力にハマるのです。
この作品が発表されてから、これと似たような作品が何度も発表され、オマージュされてきたかわかりません。
この小説は映画化もされてますし、結末も有名なのでいまさら隠す必要もないかもしれません。
でもこれから読む人はいくらでもいる(かもしれない)ということを踏まえて、いつも新しい驚きを持って欲しいと思いますのであえてここではネタバレはしません。

ネタバレなしの紹介
この作品は、無人島に招待された10人の男女がインディアンの子守唄になぞらえて死んでいくミステリーです。
可愛らしいはずの人形がまた異様に不気味で、人形が消えると誰かが同時に消えていく。誰が?何のために?
無人島という、隔離された世界なので他に助けも呼べばない状態。10人の他に犯人がいるのか?誰も信じられない恐怖で追い詰められていく。ラストは、読者を驚かす仕掛けとなっている。
自分はこれを読んだとき、あんまりな話だなと思ったのです。
いえ、文句なしに面白かったですよ!アガサクリスティーはさすがだ!と思いましたし天才だと思いましたし。
最高傑作と言われてる理由も分かります。
でも、内容的になんだかむなしいなあ、、、、って思いがしたのです。
完全なる自分の趣味です。
無人島に男女10人滞在できるほどの屋敷は(たぶん大きな立派な館)あるんですが、バカンス!っいう感じはまったくなく、ちっとも楽しそうじゃないし(あたりまえっちゃ当たり前か、仲良し10人組のパーティーじゃないんです、ほぼ他人同士)それぞれが秘密を抱えてるからそれが前提で、どよ~~~んとした灰色な雰囲気が漂うんです。
それがミステリーだといわれたら、全く文句はありません。でも、なんていうかホラー、そう、ミステリーというよりこの作品は自分にとってはホラーでした!
最後まで犯人は分からないまま、読者を引っ張っていく力強い文章力が魅力です。
そして題名が『そして誰もいなくなった』なんてちょっとしゃれてる題名というのも、ひっくるめてこの作品の価値があると思ってます。他の題名だったら、ここまで有名になったかと言われたらどうかなと思います。

蛇足ですが、作家の赤川次郎さんが、このアガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』をリスペクトしていて、
”自分はこういう作品を書きたい”とそう思って小説を書いてきたと知った時、驚いた自分です。
ユーモアミステリーのイメージがある作家の赤川次郎さんですが、『夜』という作品を読んだときホラーだったので、そのことを思い出しました。