ポアロの秘書ミス・レモンについて



登場人物の紹介
ポアロ作品に出てくる人物になります

ミス・レモンというのはポアロの秘書です。45歳くらいの女性秘書で、しっかりとした仕事ぶりの、いかにもポアロが雇いそうな、そういった意味では申し分ない秘書として登場します。事務的な処理については”失敗しない”有能キャラです。
文章の的確さから、請求書の分別、業者への対応、手紙のタイピングなど秘書としてすべて完璧です。
あまり人をほめないポアロですが、その完璧さに一目置いてる感じがあります。ここまで聞くとポアロと恋仲になっても良いのではと思うのですが、そうはなりません!

なぜなら彼女の唯一欠点ば”人間についての興味がない”ということなのです。ポアロミス・レモンに『どう思う?』と興味ある事件について聞いたりしますがミス・レモンはイラッとした顔で”私の仕事の範囲と違うことを聞かないでください、それは今必要ですか?”と、まるで機械のような無機質さで答え、ポアロをがっかりさせます。人間に対する想像力があまりないタイプなのです。ですから、秘書として優秀でもポアロと恋仲になりそうな雰囲気は全くありません。
想像豊かなポアロの友人ヘイスティングズとの比較に使われているようにも思います。

アガサの作品の『スペイン櫃の秘密』『バクダッド大櫃の秘密』は同じ題材でほとんど同じ内容の話ですが、雰囲気は違います。『スペイン櫃の秘密』にはミスレモンが、事件に関わる人物の説明をわかりやすく説明させているシーンがあります。『バクダッド大櫃の秘密』にはヘイスティングズが出てくるので、そこも違います。微妙な違いを読み比べてみてもいいかもしれません。
”ヒッコリーロードの殺人”という長編の中では、ミスレモンの姉が関わる事件を依頼をするのでその時はいつもより出番が多く、人間的なところをのぞかせるシーンも出てきます。(そこも面白い所だなと思います)
他にもミスレモンの活躍を思い出せたら、随時追加していきますが、それにしてもポアロの完璧な秘書として、彼が雇うにふさわしいなと思える人物かもしれません。出番は少なくとも、ポアロの作品において印象に残る登場人物です。
ミスレモンが、機械的な受け答えなど徹底しており、決して恋仲にならず、ポアロに対して女性的な”隙”が全く見えないのは、雇い主のポアロが(多少)変人に書かれていますので、もしかしたら、”雇い主としては良いけど恋愛対象にはならないわ!”というミスレモンの暗にそういう意思表示なのかもしれないと最近思うようになりました。今のところはなんとも言えないですが。そこらへんも想像しながら読んでみるのもいいかもしれません。


ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴として面白いのは意味のないと思われる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては疑問が出るのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。そこに矛盾がないのが素晴らしいです。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、色んな物がなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかりなくなるのですが、そこの寮母として働いているのがポアロの秘書ミスレモンのお姉さんなので、様子を見に行く事になります。初めて訪れるシェアハウスで、捜し物のなくなったはずの靴の片方を携えて現われるポアロは魔法使いのようです。そこもすばらしい演出です。この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放ち、まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さがあぶり出されるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多くそれぞれが個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからは少しネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一の欠点は人間についての興味がないという事なのです。そのミス・レモンに実は姉がいて、姉の方は世話好きで人間に興味がありシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、強い口調で『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。甘くて熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大ショックの急展開過ぎます。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、姉は犯罪には無関係でした。ですがオーナー、ニコレティス夫人は犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それで却って犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたときそれぞれ俳優さんは誰がいいかな、なんて想像してしまう作品でそこも実に面白い作品だと思います。
ちなみに、ポアロの別作品『死者のあやまち』の中に似たようなトリックが出てきます。どこが似てるかはこれから読む人のお楽しみとして言わないでおきます。

ビッグ4

ポアロとヘイスティングズの友情度  ★★★★☆
他のポアロの探偵小説にはない感じ度 ★★★★☆
あくまで個人的にあわない度     ★★★★★
別の探偵の話なら良いかもしれない  ★★★★☆
無人島に持っていきたい度      ☆☆☆☆☆

本当にこれをアガサが描いたのだろうか?ポアロを主人公にして?というくらい他の作品とテイストが違います。
この作品はアガサの名前を爆発的に(と私は思ってます)世に知らしめた名作(迷作)の『アクロイド殺し』を発表したすぐ後の作品なのです。推理小説界を騒然とさせたすぐ後の作品なので、期待も大きかったと思います。ポアロの作品は、最初の『スタイルズ荘の怪事件』を発表、本当はこういうスパイを追う的な作品を書きたかったのでしょうか?と思うのですが、間に発表された『ゴルフ場殺人事件』はまた違うテイストで、こっちの方が自分は好みなんですよね。(個人的な好みですみません)
個人的な感想なので、申し訳ないですが、アガサ好きの自分がこの作品は途中で眠気が襲うくらいに、読み終わるのに苦労しました。(ひどい)数年たって、また再度読みました。最初読んだときは自分も幼かったですからね!しかし、やはり再度チャレンジしても読むのにつらいという感情がひしひしと。そして今回、また読み直しましたがやっぱり全然進まない。プロローグから頭に入らないので、困りました。他の探偵が主人公ならば面白かったかもしれません。
敢えて言うならポアロにデンジャラスな冒険と活劇をさせたかった、そういうことなのだろうと理解します。
東洋のギャングのビッグ4の存在を追う話です。らしくない、灰色の頭脳を使うポアロらしくないんです!(個人的見解)ちゃんと読めば、その奥にある面白さに気付くのかもしれませんがこれは今後の私の課題ですね。

ネタバレなしの紹介
ヘイスティングズは長年ポアロから離れた暮らしを堪能し、残りの人生を久しぶりに旧友のポアロのもとで過ごそうと思いたち、感動の再開をします。しかし再開したとたん、その矢先に怪しげな男がやってきて、息も絶え絶え倒れ込みます。ある策略によって、ポアロたちがその男から目を離した途端にその男は死を遂げる。そこからはポアロの謎のギャングビッグ4を追い詰め、逆に追い詰められ、という冒険が始まるのです。読者を裏切る仕掛けもあるし、なによりポアロが大変にアクティブで、あっちゃこっちゃ行きます。中国系のマフィア的な”ビッグ4”の首領リー・チャン・エン人物を追い詰めるのですが、、、、という話です。ポアロとヘイスティングズとの友情の証みたいなエピソードも満載だから、それも書きたかったのかなあと思わないでもないです。とにかく、いつものポアロの推理小説とは一味違うテイストな作品だと言うことはお伝えしたいです。(個人的意見です)こういうポアロの一面もあるんだなと思える作品ではあります。無人島に持って聞きたい度が★ゼロなのは、ギャングとの冒険活劇なので、無人島では真逆な感じですごく疲れるかなっていうのと完全に好みの問題です。


スタイルズ荘の怪事件

犯人が一転二転三転する度       ★★★★★
アガサの才能は最初からすごい度    ★★★★☆
ポアロつかみはOK 度          ★★★★★
ヘイティングスおちゃめ度       ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★☆☆☆ 

アガサの記念すべき推理小説一作目です。
アガサ自身が長く付き合うことになる名探偵ポアロがここでで登場します。
ポアロの語り部で相棒のヘイスティングズももちろん出てきます。
ヘイスティングズポアロの友人であります。
この2人の性格と年の離れた関係性がこの作品を面白くしています。
トリックも、この当時の時代だから成立すると言うこともありますが、看護師の経験があるアガサならではの知識があってこそのしっかりとした小説になってます。


ネタバレなしの紹介

”スタイルズ地方の地主の
奉仕活動家女主人殺人事件”


傷病兵として休暇中のヘイスティングズが旧友の勧めで旧友の実家のあるスタイルズ荘に招かれ、ゆっくりすごそうかと思った矢先に継母の女主人が毒殺されてしまいます。
その犯人探しになりますが、家族も誰もが遺産を巡って動機があって怪しいのです。


読み進めていくと、一転二転して新しい事実がでてくるし遺言状は何枚も出てくるし、誰かが誰かをかばっているのかややこしい状況も出てきて、怪しい人ばかりでいったい誰が犯人か全く分からないのです。


後妻業ならぬ、後夫業的な若い夫もあやしいし、不倫もあり、ワイドショーのネタ満載です。
殺された女主人にお世話になったことがあるポアロもたまたまスタイルズ地方を訪れており、必然的に事件解決に乗り出す事になります。


ヘイスティングズの独り言にヒントがあるのですが基本ポアロの推理のすごさを助長させるだけだったりします。その独り言を分かった今でも私にはさっぱり推理できませんからアガサのすごいところはつまりはアガサ自身がすごい名探偵だというところですね。(今更ですが)
ヘイスティングズの惚れっぽいところとか何回も同シリーズを既に読んでる私は知っているので、改めて第一話のこの『スタイルズ荘の怪事件』を最初からヘイスティングズはこんなに惚れっぽいんだ、若いなあってニヤってするところもあります。
アガサはポアロを一回切りの登場で、続き物を書く気はなかったと聞いたことがありますが、この作品で意外にも人気になってしまい必然的に書き続けることになる記念すべき作品です。

私的には登場人物、特に殺された女主人に自分は共感を持てないし魅力を感じないので(失礼ですね)作品的にはあんまり好きな作品ではないんです。しかし、最後の大どんでん返しに読者は驚くと思いますし、記念すべきポアロの初挑戦推理小説ですから読んでおいて損はありません。。
私が無人島に持っていく本としては、他のポアロ作品の方が私は大好きすぎるので★少なめですが、でも、あくまでも個人的な好みの理由なので面白い推理小説の1つであることに変わりありません。
ポアロが好きなら是非読んでいただきたい作品です。

杉の柩

愛憎の表現のロマンチック度 ★★★★★
最後のどんでん返し驚き度  ★★★★★
ポアロの冴えわたり度    ★★★★★
無人島に持っていきたい度  ★★★★★


個人的に大好きな作品です!
この作品は主人公はポアロでなければ解けない謎ではないかと思われるくらい、依頼人にとって最初から不利な事件なのです。
小説の最初から、エノリアの有罪が漂っています。被告人エノリアは、お金もあり洗練されている聡明な美女です。そこはまず大事なコトになりますね。彼女には幼い時から決められたロディーという婚約者がいるのですが、実はエノリアはこのロディーをめちゃくちゃに愛しているのです。しかし、いよいよそのロディーと結婚間際という時にメアリーという若い女が現れに奪われてしまいそうになるのです。メアリー・ゲラードは使用人の娘なのだが、特別に雇い主によって教育もバッチリ受けて性格も可愛く、容姿もカワイイ。そのメアリーに、愛しい婚約者のロディーが心奪われてしまう、もしかしたら財産も奪われかねないピンチな自体です。エノリアは表面的に冷静さを装いますが心の中は激しい嫉妬がうずまきます。まさにそんな時にメアリーが殺されるのです。エノリアには動機もある、機会もある、そして、なにより被害者を殺したいと思う感情が渦巻いたことを読者にも明確に匂わせているので、エノリアは犯人として裁判にかけられていても仕方がないのです。しかし、そこに、エノリアに恋する男、ピーター・ロード医師が登場します!(ちなみにエノリアは何とも思ってません、何ということでしょう!)ピーター・ロード医師が片思いのエノリアのために有名なポアロに無罪を証明してほしいと依頼することで、推理小説となっていくのです。

まさに、愛の三角関係物語!しかし、ここからがすばらしいミステリーの幕が開きます。
最後の謎解きが裁判形式なのも、珍しいです。アガサの看護師時代の知識も出てきます。
ちょっと最後にバタバタとご都合主義の感じもありますけど、それを吹き飛ばすぐらいの説得力はあります(多分)
自分が感銘を受けたのは、アガサの愛に関するうんちくの言葉やセリフの数々。いろいろあったアガサですから説得力がありますね!
ポアロは一生独身ですが、アガサが書く主人公だからでしょうか?愛に関して決して無知ではありません。(と思われます)
最後の最後にポアロが放つ言葉が、実にかっこよく自分は大好きなのです。
読んで損はありません!

ひらいたトランプ

ゾクゾク度        ★★★★★
数回読んで味を占める度  ★★★★★
設定の面白さ度      ★★★★★
無人島に持っていきたい度 ★★★★★
 
これは、エルキュール・ポアロ作品です。
ひらいたトランプというように、トランプのゲームが出てきてきますが、ババ抜きとかじゃないですよ!この作品は日本人にはなじみのないゲームが出てきます。ルールは分からないけれど、登場人物が熱狂している描写が出てくるので、面白いゲームなんだろうな、と思われます。賭け棒とか出てくるし、賭け麻雀に近いかもしれません。もちろん、そのトランプゲームが、事件の大事な要になってきますが、ルールを知らなくとも楽しめる作品です。”こんなトランプゲームがあるんだな”で、いいので、読み進めて下さい。人間の本質をあぶりだしていく、とてもゾクゾクする作品です。自分はとてもこの作品が好きですね。

ネタバレなしの紹介

この作品が他と違っているのは、ここに出てくる登場人物は全員、殺人を犯してる事。でも、法の合間をかいくぐって、誰もなんの刑も受けてはいない。え?ネタバレじゃないのかって?大丈夫です。そんなことではこの作品は語れません。そんな犯罪者たちをコレクションして楽しんでいる”シャイタナ氏”が一番悪いのですが、というお話。トランプゲームの様子、やり方には人間性が出るということからのアガサの人間観察の鋭さがすばらしいです。最後の最後まで犯人が分からない、読者を裏切らない面白さがあります。私は何回も読んでますが、結末を知っててもやはり面白いです。私はこの作品が好きなので定期的に読みたくなる一冊なのです。