ゴルフ場殺人事件

アガサの若々しい作品       ★★★★★
ヘイスティングズの惚れっぽさ度  ★★★★★
ポアロの推理が冴えてる度     ★★★☆☆
警察を出し抜く度         ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度     ★★★☆☆


ネタバレなしの紹介
このお話は、ポアロの第2弾になります
『スタイルズ荘の殺人』でポアロが鮮烈デビューをした次の作品なので、アガサの文章も若々しさに溢れています。
あらすじは
あるとき富豪のルノール氏から南米の仕事上のトラブルで脅迫を受けているとポアロは依頼を受け、この男の家にいくのですが、そのルノール氏の家に行くとすでにその富豪は死んでしまっていたという不本意な始まりです。
しかもゴルフ場のバンカーの穴に入っているという状態で見つかるので”ゴルフ場殺人事件”なのです
家で縛られて生き残っていたエロイーズ夫人の話によると南米からの不審者が2人訪問し、ルノール氏は連れ出されてしまい殺されてしまったらしいのです。
当然事件解明に乗り出すポアロなのですが、よそから来た探偵のポアロを良く思っていない地元警察と確執が生まれます。
ポアロ対地元刑事のジロー刑事との推理合戦もこの小説を面白くさせています。

しかし、そもそも、このお話の最初が
”シンデレラ”と名乗る魅力的な女性が登場し、ヘイスティングズと出会うところからお話が始まるので、なんてロマンチックな恋愛ドラマが始まるんだろうという感じなのです。(もちろんこの女性も事件に大いに関係してきます)
ポアロと訪れたルノアール宅のとなりの美女にも好意を抱きますし、なんてヘイスティングズは惚れっぽいんだろうと思います。なので読み始めた私は戸惑いました。
それくらいヘイスティングズが恋に墜ちる描写が若い感性で書かれていて、あまりに惚れっぽくて推理小説になるんだろうかと心配するくらいです。恋するが故、事件を引っかき回すしポアロの邪魔もしまくります。中学生の初恋じゃあるまいし一体何歳の設定なのかと思うんですが恋愛に歳は関係ないですね。しかし初恋物語かと勘違いしそうです。
でもちゃんと推理小説になっています。

ネタバレちょっとあり
この作品の面白いところは、南米から来たと思われる人物が犯人らしく単純に思われるけども、そう単純ではないところです。複雑に丁寧に過去に起こった事件との絡みを旨く組み合わせているところです。コレはちょっと難しいなと思う事件です。
そしてエロイーズ夫人とおとなりのドーブルーユ夫人が事件のカギですがどちらも強い特徴があります。
男を愛し、そしてお金を愛する女性。両方欲しいのが人間なんでしょうけどもなかなか割り切れるモノではないと思うのです。
結局は愛の為に罪を犯し自分の欲望のために犯罪に手を染めるのですが、どっちがどっちとは言えませんが、どちらの女性も強いです。それだけは言っておきます。
ポアロの推理は冴えています。ただ時代的に可能な犯罪なだけで、現代では通用しない犯罪かなと思います。その辺は推理小説と割り切って楽しみたいと思います。

ところでゴルフ場で死体が見つかっただけで、特にゴルフをするシーンとかでてきません。
そもそもポアロはゴルフが嫌いなんじゃないでしょうか?(言い過ぎかも)ゴルフに関して全く関心ある描写がありません。ヘイスティングズはたしなむようですが。
そしてアガサの小説は題名が凝っているイメージがあると思うのですが、この『ゴルフ場殺人事件』は『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』に比べれば印象は残らないですね。それが残念と言えばそこだけ残念な作品です。
この小説のヘイスティングズの描き方を見て、アガサはこの段階ではまだ名探偵ポアロをシリーズ化にするつもりはなかったんじゃないかとさえ思います。

ポアロのクリスマス

クリスマスアドベントカレンダーのような作品   ★★★★☆
アガサのクリスマスは陰と陽、度          ★★★☆☆
内容は血に飢えたクリスマス度          ★★★★★ 
クズ男がモテるのは何故なんだ度         ★★★★★
無人島にもっていきたい度            ★★☆☆☆


ネタバレなしの紹介
人気作家であるアガサクリスティーの作品は出版社が『クリスマスにはアガサを』とキャッチフレーズにしてキャンペーンをしていたのは有名な話ですね。売るための出版社なりの作戦だったのでしょうが、それだけ楽しみにしていた読者のファンがいたということでしょう。そのための新作を出し続けるアガサも相当凄いと思います。
今回紹介するのは、そのキャンペーにのっとって書いたズバリ『ポアロのクリスマス』という作品です。
クリスマスと言えば、ケーキにツリーにリース、ご馳走の数々など明るいお祭りのように思う人も多いかもしれません。
実際、アガサもイギリスらしいクリスマス、プティング等のご馳走が大好きで『クリスマスプティングの冒険』では思う存分ご馳走を登場させて明るいクリスマスの作品を書いています。
しかし今回の『ポアロのクリスマス』は全く違います。
『クリスマスプティングの冒険』が陽だとすると『ポアロのクリスマス』は陰といったところでしょう。
何しろ、読者の一人に『もっと血まみれの殺人を書いて欲しい』と言われて奮起して書いているのですから、始末が悪い!
(とても誉めています)
実際には12月22日から28日までの7日間の話になりますが、犯罪が起こる前の22日はこんなことがあった、23日は、というようにアドベントカレンダーをなぞるように始まります。作品事件が起こるのはクリスマスイブの24日、犯人が分かるのが27日、エンディングが28日、つまりポアロの灰色の脳細胞に掛かればクリスマスイブに事件が起ころうとも年内に解決してしまうのです。
殺されるのはお金持ちの老人、若い頃から散々女を(男も)泣かせてきた良心の欠片もない老人になったシメオン・リーという男です。
でもなぜ、こんなクズのような男が女に好かれるのでしょうか、私にとっては全く不思議でしかないのです。顔がイイとだけは描いてありますけど、中味はクズです。(何回言うのだろう)そしてクズがお金を持つとさらにタチが悪いし女好き、、、、となればまあ、殺されても仕方ないか!と思える人物に書かれています。
だからこそ血まみれになって殺害された時、マクベスの台詞『あの年寄りが、あんなにたくさんの血をもっていると誰が考えただろう』を登場人物に言わせて人間の愚かさを全面に出しているのかもしれません。

ネタバレちょっとあり
イギリスのクリスマスは、日本で言うところの『お盆』や『お正月』の行事と同じような感覚ではないでしょうか。
疎遠になってる家族、親戚等がクリスマスだから、と言って集まる口実がそこにあります。
当然、犯人は集まった親戚家族の中にいるわけですが、そんなクリスマスだからこその事件と言って良いでしょう。どうしてこんな話を思い付くのか、いつもながらびっくりします。私は最後まで犯人を見抜けませんでした!
なにしろアガサはびっくりする仕掛けを考えているし、タネを全部見せているようで、見せてない上手い書き方をしています。恋愛もからめて結局はハッピーエンドにするところもクリスマスのお慈悲と言ったところでしょうか。
ここでのクリスマスはイギリスの良きクリスマスではありません。『クリスマスプティングの冒険』ではクリスマスの良さを沢山書いているのに、ここではクリスマスを否定するかのような扱いです。アガサに何があったのでしょう、と思わずにいられません。そんなアガサの気持ちも想像しながら読んでみるのも良いかもしれません。
無人島にもって行くにはちょっと好みじゃないので★は少なめですが、だまされることは必須の良い作品です。



葬儀を終えて


斬新な切り口のミステリー度  ★★★★☆
人物のユニークな描写度    ★★★☆☆
遺産相続への興味惹かれる度  ★★★☆☆
犯人への共感度        ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度   ★☆☆☆☆

ネタばれなしの紹介
お葬式が終わるところからこの作品は始まります。
亡くなったのは薬で財をもうけたお金持ちのリチャードです。
唯一の子どもは先に亡くなっているので、遺産は兄弟姉妹、親戚などリチャードが残した遺言書にならって分けることになります。

何も不審な点がなかったリチャードの死ですが
葬儀に出席した妹コーラの『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』の一言ですべてがひっくり返ります。
コーラは昔から天真爛漫な性格で言って良いことと悪いことの区別がつかない所があり、皆が隠したがる秘密を言い当てるような所も多分にあったため、葬儀に集まった皆はその言葉の真意を計り知れないまま家路につくことになります。
そしてその言葉を言い放ったコーラは家に帰った後、誰かの手によって惨殺されるのです。
コーラがあきらかに他殺であることにより、コーラが言い残した『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』の戯れ言がクローズアップされてきます。

葬儀に居合わせ、そのコーラの一言を聞いた全員に疑いかかかるのも無理はありません。
もしくは全然関係のない殺人なのか?
遺産相続の泥沼な争いもからめて、殺人の動機は誰にでも充分にあるのです。
ポアロは遺産管理者の一人に依頼されて真相を探ることになります。

ネタバレちょっとありの感想
遺産相続は自分にとってはまだあんまりピンと来てないので、アガサクリスティーの小説に出てくると本当に他人事なんです。ですから楽しんで読める、と言うのもあるのかもしれません。
そういう意味で私は楽しめました。
後はコーラという人の人物描写が絶妙です。最初の被害者であるコーラの描写が一番重要だからです。
コーラが『だって、リチャードは殺されたんでしょう?』と言ったのでなければ、ここまで事件にならず問題にならなかったでしょう。しかし、このコーラは残念ながら兄弟姉妹親戚共に好かれてはいない、疎遠な関係であることを冒頭にアガサは上手に書き示しています。本当に上手い書き方だな、と思います。それによって読み手も真実はどうだったのかと好奇心が止まらなくなります。
犯人は私にとっては意外ではなかったのですが、動機が全く分からなかった作品です。
人によっては、犯人に対して全く共感をしないでしょう。しかし、私は同情はしないけど、共感は出来ました。動機に対してではなくて、コーラ(に似てるタイプと接する)に対しての感情も心の奥底にあったのかなと、ちょっと感じたりしたのです。誤解されると悲しいので、いつか完全ネタバレも書くつもりでいるので、その時にその感情は書きたいなと思っています。
そして一点、この作品の中に、他の作品の重要なシュチュエーションを彷彿とさせる場面が出てきます。コレは私だけが感じることかもしれませんが”多分コレはアノ作品のアノ場面にしてるな”と思う部分があります。ネタバレのなる可能性があるので、ここでは言いたいけど言いません。ヒントはこの作品以降に書かれる作品の中にあります。読まれる方は、そこの所も感じながら読んでみるのも面白いかもしれません。

作品順についてはこちらを参考にしてみてください↓

茶色の服の男

アガサの作品の中で一番アクティブな女性が出てくる度 ★★★★★
勇気がもらえる度                  ★★★★★
冒険を忘れた人に読んで欲しい度           ★★★☆☆
ミステリー度                    ★★☆☆☆
無人島に持っていきたい度              ★★☆☆☆

ネタばれなしの紹介
この作品は、探偵物ではありません。ポアロもマープルもアガサクリスティーの作品で有名な探偵が出てきません。
たった一人の女の子が冒険を繰り広げる物語です。
言うなれば、冒険活劇というジャンルに近いかもしれません。
そういうとミステリーでは無いように思いますが、それが絶妙に推理小説となり得るギリギリのところで書いてある作品なのです。

偶然にあるショッキングな列車事故(と言っておきます)に遭遇しそれが殺人と絡むことで始まることになりますが、そもそも主人公のアンが、若き女性でたった一人の身内の父親が亡くなったことから始まります。
父親が死んで天涯孤独でしょんぼりしてるかと思うとそうではありません。自由になったとばかり孤独な少女が一人で羽ばたくのです。少しばかり残してくれた遺産を手に向こう見ずで自信家で、、、自分の若さを肯定しているこの少女には驚くほど行動力だけがあります。逆に言えば、一人の少女に行動力を起こさせる事に矛盾を感じさせない工夫をアガサクリスティーはしていますし、そのアイデアは一体どこから思い付くのだろうと思います。

それにしても『茶色の服の男』という題名は、私には本の中身を考えると随分”らしくない”題名だなと思います。アガサクリスティーと言えば、『そして誰もいなくなった』『ABC殺人事件』『カーテン』などちょっと凝った感じの題名を付け、読んだ後に”ああ、そうか”と思う物が多いのですが、この『茶色の服の男』は、本の中身のアクティブさ冒険活劇の様子を考えると思ったよりおとなしい題だなあと今でも思います。実際、この題名のせいで私はアガサの作品の中でも随分遅くに読むことになりました。茶色の服の男って言われても、全然ときめかない題名だなあと今でも思います。あくまでも私の感性なので、申し訳ありません。でも、読んでみると内容は素晴らしくアグレッシブで冒険、スリル、恋愛、ゴージャスな内容でした。
『茶色の服の男』なんてたいしたことないのでは?と思ってた私はまんまと裏切られました。

映画化してみたら面白い作品だなと思いますね。主人公の女の子がとてもチャーミングに書かれているので足が奇麗な女優さんに是非演じていただきたい、なんて思います。(何故足が奇麗と言うのかは、是非本を読んでいただきたいと思います)
もっともアガサは自分の作品が映画化されることがあまり好きではなかったと聞いていますが。
そして 女の子というのはどうして危険な男に惹かれてしまうのでしょうか
アガサは恋にのめり込む若さも危険も充分に書き分けていて、冒険シーンもさることながら本当に若々しい作品となっています

そしてこの作品は後にポアロの推理小説のヒントとなる事柄というか仕掛けが出てくるそうなのですが、アガサファンでポアロファンならその作品がどれかというのはすぐ分かるでしょう!
自慢じゃないですが、私はすぐに分かりました
皆様も、どの作品がそうなのか挑戦して読んでみてはいかがでしょうか

    

クリスマスにはアガサを!

クリスマスプティングの冒険

クリスマス度      ★★★★★
ユニークなお話度    ★★★★★
ポアロの魅力満載度   ★★★★★
無人島に持って行きたい度★★★★★

『クリスマスにはアガサクリスティー』を!

これは人気作家のアガサの当時のキャッチコピーです。
寒い冬、クリスマスも近い雪も降り積もるようなそんな日にぬくぬくした部屋でゆっくり推理小説を読む、、、読書家にはたまらない情景です!

クリスマスらしい題名の本として『ポアロのクリスマス』という長編作品もあるのですが

今回は短編集のアガサの推理小説『クリスマスプティングの冒険』がありますので紹介しましょう。
これは短編集で、巻頭を飾るのがこの題名の短編となります。
東洋のエキゾチック的なそんな香りが漂う中で、しかもクリスマスという時期にポアロに事件の依頼がくるのです。
どのような依頼かは、ここでは言いませんが、ポアロはお金のためには働かない、自分がしたいと思う事件のみ引き受けるというところがあるのですが、そんなポアロにあの手この手で引き受けさせようとする依頼者との攻防も面白いのです。
よりによって独身を自由に謳歌しているポアロに”家庭的なクリスマスを過ごしてもらうことも可能ですよ~っ”てアピールするのですが、よりによってあのポアロにですよ?!
それがはたしてポアロにとって良い作戦かどうか、、、想像つきますよね?

この作品の特徴は、イギリスの良き時代のクリスマスをアガサクリスティーがとても愛してたことが分かる作品です。
特別なクリスマスのご馳走、伝統的なクリスマスへの反発の若者達、その若者への慈愛、変わらない恋愛模様、推理だけでない楽しみがそこにあります。
特に表題になっている”クリスマスプティング”は事件の重要なアイテムでもありますが本当に美味しそうに書かれているので食べて見たいなあって思います
ポアロの推理はもちろん素晴らしいのですけど、クリスマスらしい結末になるところもいいですね


クリスマスプティングの冒険』は
短編集ですので同時に掲載のその他の作品は以下の作品になります
スペイン櫃の秘密
負け犬
二十四羽の黒つぐみ

グリーンショウ氏の阿房宮

いくつかの短編集の中にも収録済みの話もありますので重複しています
不思議なことに
最後の『グリーンショウ氏の阿房宮』だけはミスマープルのお話です

スペイン櫃の秘密
バクダッドの大櫃の謎』と大筋は同じですが、ポアロの秘書ミスレモンが出てくるのが違います。
ファアムファタル、男を破滅させる女が出てきます。週刊誌ネタ的もあり、血なまぐさくもあります。
お話の筋は同じですが私は、『バクダッドの大櫃の謎』よりこっちの方がお話の流れは好きですね!

負け犬
なかなかきわどい作品です。
というのは、ポアロが奇術を利用するからなんです。推理は、完璧ですよ。でも解決の仕方が、、、いまいち。
ポアロ好きな方でも好き嫌い分かれる作品ではないでしょうか

二十四羽の黒つぐみ
ポアロが実はグルメだと分かる作品です。
黒つぐみというのはブラックベリー、黒いちごのパイに使う名称のようです。
日本で言うなら「桑の実」のようなものでしょうか。
おいしそうな料理が出てきますよ!推理は、人間心理に乗っ取って納得の仕上がりです。


このトリックは前代未聞!思いもつかない方法で殺人が行われるしアリバイも驚きです。そんなにうまくいくかな?って思う事もひっくるめて、驚く作品だと思います

グリーンショウ氏の阿房宮
この作品も、他の短編集で似たお話が収録されています。(大筋は同じだと思いますが、雰囲気が違います)
この短編集において、唯一ミスマープルの作品です。
奇っ怪な、、、いえ、個性的な!お金持ちが建てた家が出てきます。それがどんなモノかは想像するしかないのですから
これを映像化するとなると、むずかしいでしょうね。(記憶が確かなら像化も1回してたは思いますが)
マープルおばあちゃんのおしゃべりは、いつも関係ないようでいて、最後に帳尻が合う小気味よさを楽しんで欲しいと思います。

ポアロの秘書ミス・レモンについて



登場人物の紹介
ポアロ作品に出てくる人物になります

ミス・レモンというのはポアロの秘書です。45歳くらいの女性秘書で、しっかりとした仕事ぶりの、いかにもポアロが雇いそうな、そういった意味では申し分ない秘書として登場します。
事務的な処理については”失敗しない”有能キャラです。
文章の的確さから、請求書の分別、業者への対応、手紙のタイピングなど秘書としてすべて完璧。
あまり人をほめないポアロですが、その完璧さに一目置いてる感じがあります。
ここまで聞くとポアロと恋仲になっても良いのではと思うのですが、そうはなりません!

彼女の唯一、欠点としてあげるならば”人間についての興味がない”ということです。ポアロミス・レモンに『どう思う?』と興味ある事件について聞いたりしますがミス・レモンはイラッとした顔で”私の仕事の範囲と違うことを聞かないでください、それは今必要ですか?”と、まるで機械のような無機質さで答え、ポアロをがっかりさせます。人間に対する想像力があまりないタイプなのです。
想像豊かなポアロの友人ヘイスティングズとの比較に使われているようにも思います。

アガサの作品の『スペイン櫃の秘密』『バクダッド大櫃の秘密』は同じ題材でほとんど同じ内容の話ですが、『スペイン櫃の秘密』にはミスレモンが、事件に関わる人物の説明をわかりやすく説明させているシーンがあります。『バクダッド大櫃の秘密』にはヘイスティングズが出てくるので、そこも違います。読み比べてみてもいいかもしれません。
”ヒッコリーロードの殺人”という長編の中では、ミスレモンの姉が関わる事件を依頼をするのでその時はいつもより出番が多く、人間的なところをのぞかせるシーンも出てきます。(そこも面白い所だなと思います)
他にもミスレモンの活躍(?)を思い出せたら、随時追加していきますが、それにしてもポアロの秘書として、ポアロの秘書として彼が雇うにふさわしいな、と思える人物かも。出番は少なくとも、ポアロの作品において印象に残る登場人物です。
ミスレモンが、機械的な受け答えなどでポアロに対して女性的な”隙”が全く見えないのは、雇い主のポアロが(多少)変人に書かれていますので、もしかしたら、”雇い主としては良いけど恋愛対象にはならないわ!”というミスレモンの暗にそういう意思表示なのかもしれないと最近思うようになりました。今のところはなんとも言えないですけどね。そこらへんも想像しながら読んでみるのもいいかもしれません。

※最近、BSプレミアムで『名探偵ポアロ』のドラマが放送してます。(2022/07/現在水曜9:00~)
短編のドラマ化なのですが、ポアロの変人ぶりが俳優さんの演技力でわかりやすく伝わると思います。(褒めてます)
ナイル殺人事件の映画でのかっこいいポアロとはまた違うイメージですよ!アガサの原作のポアロ像としてはドラマの方がより近いかもなと思います。

検察側の証人(情婦)

アガサのエンターテインメント度 ★★★★★
超有名作品           ★★★★★             
誰も思いつかないミステリー   ★★★★☆
後味の複雑な両面の味わい    ★★★☆☆
無人島に持っていきたい度    ★★★★☆

ネタバレしてます!
ネタバレを望まない方は、これより下を読まないでくださいね!
この作品は短編集のところでも紹介しましたが、アガサを知るならこれも読んでないなんてことあり得ない、というくらいに有名な戯曲作品です。別名『情婦』とも言われます。
初演から”絶対にエンディングは誰にも話さないで”と観客に約束させてたというくらいにすべての謎がエンディングにあります。 まあ、ここではこの後その謎をばらしますけどね!
ある富豪の老女が惨殺される事件が起き、直前に交際したとされる若い男ヴォールが容疑者として裁判にかけられます。彼の弁護士いわく、ハンサムでスポーツマンでしかし裕福ではないヴォールがお金以外の理由で老女になんの下心もなしに親切にするだろうか?しかも、彼は自分に妻がいることを老女に隠していたし、その老女は遺産相続人をヴォールに指定している。その老女が死ねば莫大な財産は彼のものになるという動機が出来ているのである。真っ黒黒である!アリバイもない、動機はある、その弁護を引きうけた弁護士メイハーンは負けを確信している。ヴォールは、殺人の時間には家に帰っていた事を妻ロメインが証人になってくれるというので、弁護士は会いに行くのである。ところが唯一彼のアリバイ証言をした妻ロメインに会いに行ったとき、彼女は言う『私が、9時には夫が家にいたと申したら、無罪になるのでしょうか?その他に無罪放免になる可能性のある証言をされる方はいるのでしょうか』と。彼はしぶしぶ『誰もいません』という。そこから彼女は、夫であるヴォールへの激しい憎しみを告白し『あの人が罪に問われて縛り首になるのを見たいのだ』と驚くことを言う。それを聞いた弁護士は、妻ロメインが夫を有罪にするために証言をでっちあげてると確信し、それを崩すために妻の身辺を探るのである。すると次々と嘘が分かり、結果ヴォール無罪となるのである。弁護士の汗と涙の結晶!弁護士万歳!とよろこんでいると、実はそれこそが嘘であり、夫ヴォールを助けるためにすべては妻ロメインが仕掛けた嘘の痕跡の数々だったのである。献身的な妻が証言したアリバイなどなんの役にも立たないと判断したロメインは、わざと夫を憎んでいる芝居をし、夫のアリバイを逆に証明するのである。まんまと、だまされる弁護士、そして裁判所と民衆、警察。しかし驚くべきことは更にある。その妻が付いた嘘は彼の無罪を信じるが故と思うではないですか!違うんです!ここまでで終われば、献身的な妻の美しい話で終わるはずなのに!

『誰よりもヴォールの無実を信じてるから、このような事をしたのですね?』と弁護士がロメインに聞いた後の一言が『誰よりも私が彼が犯人だと分かっているからです』と言い放つので、さらに驚かせるのです。
BBCドラマでは、その辺をもっとどす黒く描き、戦後の暗い影をひきずり(BBCドラマはわりとそうですね)ハッピーには終わりません。後味が悪いったらありゃしない!(個人的感想)でも美しく、おどろおどろしい世界観は観るべき価値があります。アガサの作品を普通にタダでは終わらせない感じです。
一度はこの情婦(あえて情婦と言いましょう)役のロメインを演じたいと思う女優さんが少なくないかも、と思わせるほど怪しい魅力です。原作は夫を愛するが故の賢い情婦、ある意味けなげ、と読み取れなくもない。実際最初読んだとき、そう感じ取れました。しかし、BBCドラマでは悪女色を強めています。実際、殺人犯を無罪にしてしまう話ですからね、倫理的には賛成しかねます。エンターテイメントとしては最高ですが。それを含め、素晴らしい作品だと思います。

※最近、BSプレミアムで『名探偵ポアロ』のドラマが放送してます。(2022/07/現在水曜9:00~)
短編のドラマ化なのですが、ポアロの変人ぶりが俳優さんの演技力でわかりやすく伝わると思います。(褒めてます)
ナイル殺人事件の映画でのかっこいいポアロとはまた違うイメージですよ!原作はドラマの方がより近いなと思います。

ヒッコリーロードの殺人

たわいない話かと思いきや奥が深い度  ★★★★★
登場人物がばたばた死んじゃう度    ★★★★☆
ポアロの秘書レモン様が出てきます度  ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★★★☆ 

この作品の舞台は、日本で言うところのシェアハウス、若い男女が共同で住むアパートのような住宅です。寮母さんや管理人さん、食事も付いているので、寮とホテルの中間っぽい感じでしょうか。そこで寮母をしていたのが、あのポアロの優秀な機械のような正確さを持つ秘書のミスレモンの姉であることから、雇い主のポアロは相談に乗るという形で事件にかかわっていくのです。登場人物も個性的で多国籍になり、アガサの感情の感覚で書いてるのか、わざとなのかかなり人物像に偏りがありますが身近に同じような人がいたのではないかと思ってしまいます。この作品の特徴としては意味のないとおもわれる靴の片方とか、聴診器とか、一見つながりがないものが、最後には一本の線で繋がるところです。そのためには、盗まれたのもの持ち主のそれぞれの性格や特徴が合ってなくては面白くないのですがそこはアガサのこと、ばっちり表現しているので点と線がつながります。

ネタバレなしの紹介
ヒッコリーロードという番地にある、若い男女が住むシェアハウスで、不可解なものがなくなっていきます。靴の片方、リュックサック、化粧コンパクト、廊下と玄関の電球、など他愛のないものばかり。そこにポアロは縁あって様子を見に行くのですが(なぜかシェアハウスでなくなったはずの靴の片方を携えて。そこもすばらしい演出)、この他愛もない窃盗事件の意見を求められたポアロは『ただちに警察に連絡しなさい』と言い放つのです。まさかそんなことを言われると思ってなかった住人は騒然とし、そこから事件は隠されていた凶悪さが増してくるのです。”うそつきは泥棒の始まり”と言いますが、この作品は、『泥棒は凶悪犯罪のはじまり』と言いたくなるような作品です。いろんな人間模様が絡み合いすべてが明るみになる時、読者は犯人を一転二転させられたことに”やられた!”と思うでしょう。登場人物も多く個性的なので何回か読むたび魅力も新たに発見できる作品だと思います。ちなみに、ヒッコリーという単語はマザーグースの一説にも登場しますがポアロが口ずさむところも出てきます。(本編とは関係ないのですがアガサはよくマザーグースを小説に登場させますね)

ここからはネタバレありです
まず、この作品の好きなとことはポアロの優秀な秘書ミス・レモンが事件にかかわるところです。ミス・レモンというのは完璧な秘書で事務的な処理については一切”失敗しない”のキャラなのです。唯一苦手なのは人間についての興味がないって事。そのミス・レモンに実は姉がいて、ある寮というかシェアハウスの管理人をしているというから、面白いのです。姉ハバード夫人はミス・レモンとは違って人間の世話を焼くのが好きなのです。しかしそこで、不可解で不愉快な盗難事件が続いているため、悩んでいたのです。ミス・レモンは自分の雇い主のポアロに相談し、ポアロがその”ヒッコリーロード”にある管理人をしているシェアハウスに訪れ、『警察にすぐ行きなさい』と言います。それを聞き驚いた住人のシーリア・オースティンが『私がやりました』と告白しに来ます。実は住人の心理学に興味があるコリン・マックナブを振り向かせたいとやってしまった戯れだったのです。その作戦が功を奏し、コリンとめでたく結ばれたシーリアだったのですが、ここら辺は恋愛の心理学についてもアガサはよくご存じで!って感じに、目も当てられないくらい恋愛チックです。熱々でたまらんわあって思ってると、そのシーリアが翌朝なぜか死体で発見されます。婚約して幸せの絶頂だったハズなのに、翌朝死体ですから大変おかしい。盗んだいくつかは、弁償するという話だったのですが、電球やリュックサックについては知らない、もしくは言葉を濁します。そこらへんも、うまいなあと思うんですが、それが事件の謎の鍵になるのです。結局は、寮を巻き込んでの犯罪の巣窟だったのです。ミス・レモンの姉は管理人をしてますがオーナーは別にいて、犯罪には無関係でした。そのオーナー、ニコレティス夫人も犯罪に加担していたため、殺されてしまいます。(戸棚の酒瓶の秘密とか巧妙に書かれていますが割愛します)
最初から一番犯人らしくもあり、それでかえって、犯人らしくなかった住人が黒幕として、ポアロに最後にはあぶりだされます。本当に見事な話の組み立てです。登場人物が個性的で、ドラマにしたとき女優さんは誰がいいかな、なんて思う作品で好きですね。

ビッグ4

ポアロとヘイスティングズの友情度  ★★★★☆
他のポアロの探偵小説にはない感じ度 ★★★★☆
あくまで個人的にあわない度     ★★★★★
別の探偵の話なら良いかもしれない  ★★★★☆
無人島に持っていきたい度      ☆☆☆☆☆

本当にこれをアガサが描いたのだろうか?ポアロを主人公にして?というくらい他の作品とテイストが違います。
この作品はアガサの名前を爆発的に(と私は思ってます)世に知らしめた名作(迷作)の『アクロイド殺し』を発表したすぐ後の作品なのです。推理小説界を騒然とさせたすぐ後の作品なので、期待も大きかったと思います。ポアロの作品は、最初の『スタイルズ荘の怪事件』を発表、その後の『秘密機関』とこの『ビッグ4』は少し似ています。本当はこういうスパイを追う的な作品を書きたかったのでしょうか?と思うのですが、間に発表された『ゴルフ場殺人事件』はまた違うテイストで、こっちの方が自分は好みなんですよね。(個人的な好みですみません)
個人的な感想なので、申し訳ないですが、アガサ好きの自分がこの作品は途中で眠気が襲うくらいに、読み終わるのに苦労しました。(ひどい)数年たって、また再度読みました。最初読んだときは自分も幼かったですからね!しかし、やはり再度チャレンジしても読むのにつらいという感情がひしひしと。そして今回、また読み直しましたがやっぱり全然進まない。他の探偵が主人公ならば面白かったかもしれません。
敢えて言うならポアロに冒険とスパイ活劇をさせたかった、そういうことなのだろうと理解します。
東洋のギャングのビッグ4の存在を追う話です。らしくない、灰色の頭脳を使うポアロらしくないんです!(個人的見解)

ネタバレなしの紹介
ヘイスティングズは長年ポアロから離れた暮らしを堪能し、残りの人生を久しぶりに旧友のポアロのもとで過ごそうと思いたち、感動の再開をします。しかし再開したとたん、その矢先に怪しげな男がやってきて、息も絶え絶え倒れ込みます。ある策略によって、ポアロたちがその男から目を離した途端にその男は死を遂げる。そこからはポアロの謎のギャングビッグ4を追い詰め、逆に追い詰められ、という冒険が始まるのです。読者を裏切る仕掛けもあるし、なによりポアロが大変にアクティブで、あっちゃこっちゃ行きます。中国系のマフィア的な”ビッグ4”の首領リー・チャン・エン人物を追い詰めるのですが、、、、という話です。ポアロとヘイスティングズとの友情の証みたいなエピソードも満載だから、それも書きたかったのかなあと思わないでもないです。とにかく、いつものポアロの推理小説とは一味違うテイストな作品だと言うことはお伝えしたいです。(個人的意見です)こういうポアロの一面もあるんだなと思える作品ではあります。無人島に持って聞きたい度が★ゼロなのは、ギャングとの冒険活劇なので、無人島では真逆な感じですごく疲れるかなっていうのと完全に好みの問題です。


スタイルズ荘の怪事件

犯人が一転二転三転する度       ★★★★★
アガサの才能は最初からすごい度    ★★★★☆
ポアロつかみはOK 度          ★★★★★
ヘイティングスおちゃめ度       ★★★★★
無人島に持っていきたい度       ★★☆☆☆ 

アガサの記念すべき推理小説一作目です。
アガサ自身が長く付き合うことになる名探偵ポアロがここでで登場します。
その次に有名なヘイスティングズももちろん出てきます。
ヘイスティングズポアロの友人であり、推理の中で大事なポアロの相棒となります。
この2人の性格と関係性がこの作品を面白くしています。
トリックも、この当時の時代だから成立すると言うこともありますが、看護師の経験があるアガサならではの知識があってこそのしっかりとした小説になってます。


ネタバレなしの紹介

簡単に事件を説明すると

”スタイルズ地方の地主の
奉仕活動家女主人殺人事件”

といったところでしょうか!


傷病兵として休暇中のヘイスティングズが旧友の勧めで実家のあるスタイルズ荘に招かれ、ゆっくりすごそうかと思った矢先に旧友の継母である女主人が毒殺されてしまう。
その犯人探しになりますが、誰もが遺産を巡って動機があって怪しいのです。


読み進めていくと、一転二転して新しい事実がでてくるわ、遺言状は何枚も出てくるし、誰かが誰かをかばっているのか
ややこしい状況も出てきて、いったい誰が犯人か全く分からないのです。


後妻業ならぬ、後夫業的な要素もアリ、不倫もあり、ワイドショーのネタ満載です。
殺された女主人にお世話になったことがあるポアロもたまたまスタイルズ地方を訪れており、必然的に事件解決に乗り出す事になります。


ヘイスティングズの独り言にヒントがあるのですが
基本ポアロの推理のすごさを助長させるだけだったりします
最初から、ヘイスティングズの性格が固まってるので
(女性の好みとか惚れっぽいとか)何回も同シリーズを読んでる私は、最初からヘイスティングズはこんなに惚れっぽいんだ、若いなあってニヤってするところもあります。
アガサはポアロの続き物を書く気はなかったと聞いたことがありますが、この作品で人気になってしまい必然的に書き続けることになる記念すべき作品です。

推理ものとしてとても面白い作品ですが、私的には登場人物、特に殺された女主人に自分は共感を持てないし魅力を感じないので(失礼だな)あんまり好きな作品ではないんです。
私が無人島に持っていく本としては、他のポアロ作品が私は大好きすぎるのです。あくまでも個人的な理由なので★少なめですが、面白い推理小説の1つであることに変わりありません。
ポアロが好きなら是非読んでいただきたい作品です。