ポアロのクリスマス

クリスマスアドベントカレンダーのような作品   ★★★★☆
アガサのクリスマスは陰と陽、度          ★★★☆☆
内容は血に飢えたクリスマス度          ★★★★★ 
クズ男がモテるのは何故なんだ度         ★★★★★
無人島にもっていきたい度            ★★☆☆☆


ネタバレなしの紹介
人気作家であるアガサクリスティーの作品は出版社が『クリスマスにはアガサを』とキャッチフレーズにしてキャンペーンをしていたのは有名な話ですね。売るための出版社なりの作戦だったのでしょうが、それだけ楽しみにしていた読者のファンがいたということでしょう。そのための新作を出し続けるアガサも相当凄いと思います。
今回紹介するのは、そのキャンペーにのっとって書いたズバリ『ポアロのクリスマス』という作品です。
クリスマスと言えば、ケーキにツリーにリース、ご馳走の数々など明るいお祭りのように思う人も多いかもしれません。
実際、アガサもイギリスらしいクリスマス、プティング等のご馳走が大好きで『クリスマスプティングの冒険』では思う存分ご馳走を登場させて明るいクリスマスの作品を書いています。
しかし今回の『ポアロのクリスマス』は全く違います。
『クリスマスプティングの冒険』が陽だとすると『ポアロのクリスマス』は陰といったところでしょう。
何しろ、読者の一人に『もっと血まみれの殺人を書いて欲しい』と言われて奮起して書いているのですから、始末が悪い!
(とても誉めています)
実際には12月22日から28日までの7日間の話になりますが、犯罪が起こる前の22日はこんなことがあった、23日は、というようにアドベントカレンダーをなぞるように始まります。作品事件が起こるのはクリスマスイブの24日、犯人が分かるのが27日、エンディングが28日、つまりポアロの灰色の脳細胞に掛かればクリスマスイブに事件が起ころうとも年内に解決してしまうのです。
殺されるのはお金持ちの老人、若い頃から散々女を(男も)泣かせてきた良心の欠片もない老人になったシメオン・リーという男です。
でもなぜ、こんなクズのような男が女に好かれるのでしょうか、私にとっては全く不思議でしかないのです。顔がイイとだけは描いてありますけど、中味はクズです。(何回言うのだろう)そしてクズがお金を持つとさらにタチが悪いし女好き、、、、となればまあ、殺されても仕方ないか!と思える人物に書かれています。
だからこそ血まみれになって殺害された時、マクベスの台詞『あの年寄りが、あんなにたくさんの血をもっていると誰が考えただろう』を登場人物に言わせて人間の愚かさを全面に出しているのかもしれません。

ネタバレちょっとあり
イギリスのクリスマスは、日本で言うところの『お盆』や『お正月』の行事と同じような感覚ではないでしょうか。
疎遠になってる家族、親戚等がクリスマスだから、と言って集まる口実がそこにあります。
当然、犯人は集まった親戚家族の中にいるわけですが、そんなクリスマスだからこその事件と言って良いでしょう。どうしてこんな話を思い付くのか、いつもながらびっくりします。私は最後まで犯人を見抜けませんでした!
なにしろアガサはびっくりする仕掛けを考えているし、タネを全部見せているようで、見せてない上手い書き方をしています。恋愛もからめて結局はハッピーエンドにするところもクリスマスのお慈悲と言ったところでしょうか。
ここでのクリスマスはイギリスの良きクリスマスではありません。『クリスマスプティングの冒険』ではクリスマスの良さを沢山書いているのに、ここではクリスマスを否定するかのような扱いです。アガサに何があったのでしょう、と思わずにいられません。そんなアガサの気持ちも想像しながら読んでみるのも良いかもしれません。
無人島にもって行くにはちょっと好みじゃないので★は少なめですが、だまされることは必須の良い作品です。